46 / 97
46:
しおりを挟む
「助けていただき、誠にありがとうございます」
そう言って頭を下げる女性。
薄紫色のやんわりとした髪の、これまたやんわりとした容姿の女性だ。
俺やソディアと歳も近いようだが、どことなく気品に満ち溢れているというか……たぶん貴族のお嬢様とかだろうな。
ただ彼女はずっと涙を浮かべたまま、必死に耐えているようにも見える。
よっぽど恐ろしかったのだろう。
考えたくはないが、さっきのような恰好にされていたってことは――いや、止めよう。
俺たちは今、奴隷商人が使っていた馬車に乗って山道を下っている。
女性が驚くといけないので、今は竜牙兵も俺の影の中だ。
御者にはこっそり呼び出したコラッドが座り手綱を握る。
『もうすぐ検問所に付きます』
御者台からコラッドの声が聞こえると、それまでずっと耐えてきた女性がわっと声を上げ泣きだした。
「コラッド、ちょっと止めてくれ」
『分かりました』
馬車を止め、彼女が泣き止むまで待つ。
自分が泣き叫ぶ姿なんて、出来れば知らない奴に見られたくないもんな。
だから俺もそっと馬車を下りて待った。
ソディアも下りてきて俺の隣に立つ。
「優しいのね」
「そんなんじゃないさ。俺だって他人に泣き顔なんて見られたくないし」
「そう……でも、辛いことがあったら相談してね? 少しは受け止めてあげられるんだから」
「え? お、俺、辛そうにしてるように見える?」
ソディアは首を左右に振って「見えない」と答える。
「でも、異世界から突然連れて来られたんですもの。帰りたい……でしょ? 家族が待っているもの」
「あー……両親とはもう死別しているんだ。祖父母や曽祖父母ともね」
「あっ……ごめんなさい」
「いや、平気。大丈夫。でもそう思ったら……」
樫田たちってどうなんだろう?
戸敷の親父さんは確か弁護士だったかな。生きてるはずだ。
高田の家も教会だし、親父さんは現役の神父だ。やっぱり生きてる。
帰りたい……って、思うのかな。
俺は……。
学校から帰っても、誰もいない家。
学校に行く時、帰って来た時、寝る時に、それぞれ仏壇に手を合わせるのが日課だった。
両親が事故で亡くなって、しばらくは姿を見ることが多かった。
俺を心配して成仏できなかったのだろう。
でもこの一年、まったく二人の姿を見ない。
出てきて欲しいと思うこともあったけれど、それを願ってはいけないことだと分かっている。
だから、考えないようにした。
寂しいと思わないようにした。
だけどやっぱり……。
今、隣にはソディアがいる。
コラッダもいて、竜牙兵がいて、足もとの影の中にはアンデッドたちがいる。
あぁ、肩に乗っかってる背後霊もいたな。
ひとりじゃない。
でも、元の世界に戻ればまたひとりだ。
「俺は好きだよ」
そう言ってソディアに笑いかける。
「す、好き!?」
「うん。この世界が好きだ。ひとりじゃないからね」
「こ、この世界……そ、そういう意味ね。ふふ、ふふふ」
「どうした、ソディア?」
「ふふふ、なんでもないわ」
いや、まじでどうしたんだろう?
笑いながら場所の中に入っていったけど。
『もうっ、馬鹿ね!』
ビシっと鞭が飛んでくる。
『馬鹿ですぅ~』
ビリビリっと魔法が飛んでくる。
『サナドの爪の垢でも飲ませるべき?』
俺がいったい何をした?
「レイジくん、ちょっと」
馬車の中から俺を呼ぶソディアの声が、「おう、御霊。ちょっと面貸せや」と言う樫田の声をシンクロしているように聞こえた。
「え……じゃあ君は……お姫様?」
「はい。私はドーラム王国王女、アリアン・ローゼン・ドーラムです」
薄紫色のぽやんっとした女の子が、この国――あ、まだここはヴェルジャスか――じゃあ隣のドーラム王国の王女様!?
そんな大物貴族、いや王族が、何故奴隷商なんかに。
運ぶためと言っていたが、いったい誰がどこに運ぼうとしたんだ。
「みなさまは私を助けてくださいました。お礼をしなければなりません。ぜひ、我が父君の待つお城まで来てくださいませんか?」
「え……し、城……」
どうしたものか。
そんな所に出て行って、万が一アンデッドが見つかりでもしたら大変だぞ。
「それにしても、お三方は大変お強いのですね。ならず者たちの人数は、あなた方より多いと言うのに」
と、まだ赤い目でほほ笑むアリアン王女。
倒れている暗殺者の数を見て言っているんだろうな。
そしてすっとぼける俺とソディア。コラッダは御者として馬車を走らせている。
彼女は知らない。
アンデッド軍団の手によって、暗殺者たちが倒されたことを。
いや、最初から気絶していてよかったかもしれない。
もしアンデッド軍団を目の当たりにして、あの奴隷商みたくぽっくり逝かれでもしたら大変だったぞ。
まさか王族だとは思わなかったもんなぁ。
「でも、どうして一国の王女様が……」
遠慮がちにソディアが訪ねると、アリアン王女は顔を伏せ呟いた。
「私は呼び出されたのです」
うつむき、何かに耐えるよう唇をぎゅっと噛みしめてから彼女は話を続けた。
「愛しいあの方に……隣国ニライナ王国のキャスバル王子に呼び出されたのです」
そう言って頭を下げる女性。
薄紫色のやんわりとした髪の、これまたやんわりとした容姿の女性だ。
俺やソディアと歳も近いようだが、どことなく気品に満ち溢れているというか……たぶん貴族のお嬢様とかだろうな。
ただ彼女はずっと涙を浮かべたまま、必死に耐えているようにも見える。
よっぽど恐ろしかったのだろう。
考えたくはないが、さっきのような恰好にされていたってことは――いや、止めよう。
俺たちは今、奴隷商人が使っていた馬車に乗って山道を下っている。
女性が驚くといけないので、今は竜牙兵も俺の影の中だ。
御者にはこっそり呼び出したコラッドが座り手綱を握る。
『もうすぐ検問所に付きます』
御者台からコラッドの声が聞こえると、それまでずっと耐えてきた女性がわっと声を上げ泣きだした。
「コラッド、ちょっと止めてくれ」
『分かりました』
馬車を止め、彼女が泣き止むまで待つ。
自分が泣き叫ぶ姿なんて、出来れば知らない奴に見られたくないもんな。
だから俺もそっと馬車を下りて待った。
ソディアも下りてきて俺の隣に立つ。
「優しいのね」
「そんなんじゃないさ。俺だって他人に泣き顔なんて見られたくないし」
「そう……でも、辛いことがあったら相談してね? 少しは受け止めてあげられるんだから」
「え? お、俺、辛そうにしてるように見える?」
ソディアは首を左右に振って「見えない」と答える。
「でも、異世界から突然連れて来られたんですもの。帰りたい……でしょ? 家族が待っているもの」
「あー……両親とはもう死別しているんだ。祖父母や曽祖父母ともね」
「あっ……ごめんなさい」
「いや、平気。大丈夫。でもそう思ったら……」
樫田たちってどうなんだろう?
戸敷の親父さんは確か弁護士だったかな。生きてるはずだ。
高田の家も教会だし、親父さんは現役の神父だ。やっぱり生きてる。
帰りたい……って、思うのかな。
俺は……。
学校から帰っても、誰もいない家。
学校に行く時、帰って来た時、寝る時に、それぞれ仏壇に手を合わせるのが日課だった。
両親が事故で亡くなって、しばらくは姿を見ることが多かった。
俺を心配して成仏できなかったのだろう。
でもこの一年、まったく二人の姿を見ない。
出てきて欲しいと思うこともあったけれど、それを願ってはいけないことだと分かっている。
だから、考えないようにした。
寂しいと思わないようにした。
だけどやっぱり……。
今、隣にはソディアがいる。
コラッダもいて、竜牙兵がいて、足もとの影の中にはアンデッドたちがいる。
あぁ、肩に乗っかってる背後霊もいたな。
ひとりじゃない。
でも、元の世界に戻ればまたひとりだ。
「俺は好きだよ」
そう言ってソディアに笑いかける。
「す、好き!?」
「うん。この世界が好きだ。ひとりじゃないからね」
「こ、この世界……そ、そういう意味ね。ふふ、ふふふ」
「どうした、ソディア?」
「ふふふ、なんでもないわ」
いや、まじでどうしたんだろう?
笑いながら場所の中に入っていったけど。
『もうっ、馬鹿ね!』
ビシっと鞭が飛んでくる。
『馬鹿ですぅ~』
ビリビリっと魔法が飛んでくる。
『サナドの爪の垢でも飲ませるべき?』
俺がいったい何をした?
「レイジくん、ちょっと」
馬車の中から俺を呼ぶソディアの声が、「おう、御霊。ちょっと面貸せや」と言う樫田の声をシンクロしているように聞こえた。
「え……じゃあ君は……お姫様?」
「はい。私はドーラム王国王女、アリアン・ローゼン・ドーラムです」
薄紫色のぽやんっとした女の子が、この国――あ、まだここはヴェルジャスか――じゃあ隣のドーラム王国の王女様!?
そんな大物貴族、いや王族が、何故奴隷商なんかに。
運ぶためと言っていたが、いったい誰がどこに運ぼうとしたんだ。
「みなさまは私を助けてくださいました。お礼をしなければなりません。ぜひ、我が父君の待つお城まで来てくださいませんか?」
「え……し、城……」
どうしたものか。
そんな所に出て行って、万が一アンデッドが見つかりでもしたら大変だぞ。
「それにしても、お三方は大変お強いのですね。ならず者たちの人数は、あなた方より多いと言うのに」
と、まだ赤い目でほほ笑むアリアン王女。
倒れている暗殺者の数を見て言っているんだろうな。
そしてすっとぼける俺とソディア。コラッダは御者として馬車を走らせている。
彼女は知らない。
アンデッド軍団の手によって、暗殺者たちが倒されたことを。
いや、最初から気絶していてよかったかもしれない。
もしアンデッド軍団を目の当たりにして、あの奴隷商みたくぽっくり逝かれでもしたら大変だったぞ。
まさか王族だとは思わなかったもんなぁ。
「でも、どうして一国の王女様が……」
遠慮がちにソディアが訪ねると、アリアン王女は顔を伏せ呟いた。
「私は呼び出されたのです」
うつむき、何かに耐えるよう唇をぎゅっと噛みしめてから彼女は話を続けた。
「愛しいあの方に……隣国ニライナ王国のキャスバル王子に呼び出されたのです」
10
あなたにおすすめの小説
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~
スィグトーネ
ファンタジー
年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。
それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。
そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。
異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。
彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。
どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。
※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。
※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる