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コベリアに急かされるようにして西へと進む俺たち。
二時間ほど歩くと、目の前には断崖絶壁が広がっていた。
崖の深さはかなりのもの。しかもほぼ垂直で、自力で降りれるような感じではない。
「ここからだとニライナ側の橋の方が近いかも。そっちに向かいましょう」
この辺りには詳しいであろうソディアの意見に従って崖を北上する。
なんとか日が暮れる前にその橋へと到着した。
道中、三度ほど盗賊団に出くわしたが、アンデッド軍団によって瞬殺。
俺は彼らの為に地獄行きの道を開いて成仏させてやった。
しかし、到着した橋には行列が。しかも何故か橋の向こう側から渡って来る人ばかりだ。
「おかしいわね。こっちからディストレトに向かう人はいても、ディストレトからこっちに渡ってくる人なんて、行商人や冒険者ぐらいなんだけど」
「うぅん、一般の人っぽいのが多いか?」
見た感じ、武装している訳でも、商人のように荷物や馬車を引いている訳でもない。
着の身着のまま、僅かな荷物を背負って橋を渡って来る者が多い。
もちろん商人っぽいのもチラホラ見えはする。
そして当然だが、ディストレトからニライナに入国するためには、許可証が必要だ。
商人たちは持っているのだろう。
橋の手前、こちら側にある検問所で何かを見せ、そのままニライナへと入ってくる。
だが、そうでない人たちが検問所で止められ、そしてごったがえしているのだ。
「商人に話を聞きましぉう」
「あぁ、そうだな。お前たち、絶対に出てくるなよ」
そう足元に声を掛けたが、返事がない。
暫くして、
『みんな寛いでるよ』
というロジャーの声が聞こえた。
地下迷宮と繋げて退屈しなくなったのはいいが、だらけすぎるなよ。
ディストレトから橋を渡ってきた承認をひとり捕まえ、ソディアが情報量と言って金貨を一枚渡すと、商人は機嫌よくペラペラを喋り始めた。
「いやぁ、もうビックリですよ。突然ですね、ヴァルジャス帝国軍が現れたんですよ。そしたらどうですか、ディストレト王は討たれたって。そりゃあもうビックリですよ。あ、大事なことなんで二度言いました」
帝国軍が……え、なんで?
ドーラムとの対決後、撤退したんじゃ?
「そんな……魔王様が……」
商人の話を聞いてソディアの表情が青ざめる。
彼女はディストレト出身だ。故郷の王様が殺されてショックなのだろう。
コベリアとは大違いだ。
でもそれだけ、魔王っていうのが愛されているってことなのだろうか。
「ど、どうして魔王様がっ。あの偉大な方が――」
「えぇえぇ。私も信じられませんよ。東の古代竜に次ぐ、地上で最も力あるお方でしたからね」
だけどその魔王様には弱点があった。
お人好し過ぎる――という弱点が。
商人が聞いた話だと、ディストレトの南――ドーラムとは別の国に隣接する橋から帝国軍は侵攻してきたと。
しかし魔都に攻め込むわけでもなく、広い平原に陣取って動かなかったようだ。
そうして帝国からの使者が魔王の下へ。
その使者は――。
「異世界から召喚した裏切り者の勇者がディストレトに逃げ込んだ、と。今すぐ勇者を差し出せと言ってきたそうなんですよ」
「ぶふぉっ。ゆ、勇者!?」
まさか樫田たちのことだろうか?
じゃあ彼らは今、ディストレトに?
でも……あの戦いの最中に見た樫田は、どこかおかしかった気がする。
帝国を脱走しようと計画していたからか?
いや、どちらかというと……どこにも意思なんて無いような、死んだ魚のような目をしていた。
「それでですね。なんと勇者が魔王の前に現れたんですよ」
「え、樫田たちが!?」
「はて? カシダとは」
「い、いや、なんでもない。それで、勇者がどうしたんだ?」
「えぇえぇ、それがですね……彼らを匿おうとした魔王を……害したのですよ」
「「え」」
害する……つまり殺したってこと?
樫田たちが……魔王を?
「そんな……酷い。助けようと手を差し伸べた魔王様に、どうして」
「えぇえぇ。それが最初から罠だったのですよ。お人好しでお優しい魔王様を誑かす、ね」
帝国から追われている。そう見せかけ、油断したところを殺害した。
商人はそう言って、ディストレトはもうお終いだと呟く。
その言葉を聞いてソディアは駆け出した。
検問所に向かい、ニライナの兵士たちの制しも聞かず橋に向かう。
慌ててドーラム国王より貰った通行書――国王御用達で、更に二国間のこともあって、それを見せると直ぐに通して貰えた。
人の流れに逆らうようにして橋を渡った先は、先ほどまでの荒れた土地とはうらはらに、緑で覆われた自然豊かな大地だった。
「向こうとこっちとでは、随分違うんだな」
『魔王の力で大地に恵みをもたらしておったからのぉ。しかし……あ奴が本当に殺されたというのなら……」
この地もいずれ枯れる。
アブソディラスはどこか憂うようにそう呟いた。
それから、リアラさんとも早く再会したいが、それ以上に魔王が殺されたかどうかの事実を知りたいという。
『儂にとって、同じ時を生きる唯一の友じゃったからの。それに、奴がいなくなればこの大陸の――いや、世界の危機でもある。急いで魔都へ行こうぞ』
同じ時を生きる――そういうお前が先に死んでいるんじゃないか。
そう思いつつ、ソディアの案内で俺たちは魔都へと向かった。
二時間ほど歩くと、目の前には断崖絶壁が広がっていた。
崖の深さはかなりのもの。しかもほぼ垂直で、自力で降りれるような感じではない。
「ここからだとニライナ側の橋の方が近いかも。そっちに向かいましょう」
この辺りには詳しいであろうソディアの意見に従って崖を北上する。
なんとか日が暮れる前にその橋へと到着した。
道中、三度ほど盗賊団に出くわしたが、アンデッド軍団によって瞬殺。
俺は彼らの為に地獄行きの道を開いて成仏させてやった。
しかし、到着した橋には行列が。しかも何故か橋の向こう側から渡って来る人ばかりだ。
「おかしいわね。こっちからディストレトに向かう人はいても、ディストレトからこっちに渡ってくる人なんて、行商人や冒険者ぐらいなんだけど」
「うぅん、一般の人っぽいのが多いか?」
見た感じ、武装している訳でも、商人のように荷物や馬車を引いている訳でもない。
着の身着のまま、僅かな荷物を背負って橋を渡って来る者が多い。
もちろん商人っぽいのもチラホラ見えはする。
そして当然だが、ディストレトからニライナに入国するためには、許可証が必要だ。
商人たちは持っているのだろう。
橋の手前、こちら側にある検問所で何かを見せ、そのままニライナへと入ってくる。
だが、そうでない人たちが検問所で止められ、そしてごったがえしているのだ。
「商人に話を聞きましぉう」
「あぁ、そうだな。お前たち、絶対に出てくるなよ」
そう足元に声を掛けたが、返事がない。
暫くして、
『みんな寛いでるよ』
というロジャーの声が聞こえた。
地下迷宮と繋げて退屈しなくなったのはいいが、だらけすぎるなよ。
ディストレトから橋を渡ってきた承認をひとり捕まえ、ソディアが情報量と言って金貨を一枚渡すと、商人は機嫌よくペラペラを喋り始めた。
「いやぁ、もうビックリですよ。突然ですね、ヴァルジャス帝国軍が現れたんですよ。そしたらどうですか、ディストレト王は討たれたって。そりゃあもうビックリですよ。あ、大事なことなんで二度言いました」
帝国軍が……え、なんで?
ドーラムとの対決後、撤退したんじゃ?
「そんな……魔王様が……」
商人の話を聞いてソディアの表情が青ざめる。
彼女はディストレト出身だ。故郷の王様が殺されてショックなのだろう。
コベリアとは大違いだ。
でもそれだけ、魔王っていうのが愛されているってことなのだろうか。
「ど、どうして魔王様がっ。あの偉大な方が――」
「えぇえぇ。私も信じられませんよ。東の古代竜に次ぐ、地上で最も力あるお方でしたからね」
だけどその魔王様には弱点があった。
お人好し過ぎる――という弱点が。
商人が聞いた話だと、ディストレトの南――ドーラムとは別の国に隣接する橋から帝国軍は侵攻してきたと。
しかし魔都に攻め込むわけでもなく、広い平原に陣取って動かなかったようだ。
そうして帝国からの使者が魔王の下へ。
その使者は――。
「異世界から召喚した裏切り者の勇者がディストレトに逃げ込んだ、と。今すぐ勇者を差し出せと言ってきたそうなんですよ」
「ぶふぉっ。ゆ、勇者!?」
まさか樫田たちのことだろうか?
じゃあ彼らは今、ディストレトに?
でも……あの戦いの最中に見た樫田は、どこかおかしかった気がする。
帝国を脱走しようと計画していたからか?
いや、どちらかというと……どこにも意思なんて無いような、死んだ魚のような目をしていた。
「それでですね。なんと勇者が魔王の前に現れたんですよ」
「え、樫田たちが!?」
「はて? カシダとは」
「い、いや、なんでもない。それで、勇者がどうしたんだ?」
「えぇえぇ、それがですね……彼らを匿おうとした魔王を……害したのですよ」
「「え」」
害する……つまり殺したってこと?
樫田たちが……魔王を?
「そんな……酷い。助けようと手を差し伸べた魔王様に、どうして」
「えぇえぇ。それが最初から罠だったのですよ。お人好しでお優しい魔王様を誑かす、ね」
帝国から追われている。そう見せかけ、油断したところを殺害した。
商人はそう言って、ディストレトはもうお終いだと呟く。
その言葉を聞いてソディアは駆け出した。
検問所に向かい、ニライナの兵士たちの制しも聞かず橋に向かう。
慌ててドーラム国王より貰った通行書――国王御用達で、更に二国間のこともあって、それを見せると直ぐに通して貰えた。
人の流れに逆らうようにして橋を渡った先は、先ほどまでの荒れた土地とはうらはらに、緑で覆われた自然豊かな大地だった。
「向こうとこっちとでは、随分違うんだな」
『魔王の力で大地に恵みをもたらしておったからのぉ。しかし……あ奴が本当に殺されたというのなら……」
この地もいずれ枯れる。
アブソディラスはどこか憂うようにそう呟いた。
それから、リアラさんとも早く再会したいが、それ以上に魔王が殺されたかどうかの事実を知りたいという。
『儂にとって、同じ時を生きる唯一の友じゃったからの。それに、奴がいなくなればこの大陸の――いや、世界の危機でもある。急いで魔都へ行こうぞ』
同じ時を生きる――そういうお前が先に死んでいるんじゃないか。
そう思いつつ、ソディアの案内で俺たちは魔都へと向かった。
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