タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔

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8:残念なエルフ。

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 食事を終え、部屋へと向かった悠斗は頭を抱えていた。
 受付はルティが行ったのだが、まさかの展開だったからだ。

「ルティ……さん……」
「勇者殿、ルティでいいぞ」
「あー……じゃあ俺の事も『ゆうと』か『はづき』で呼んで貰えませんか? その……勇者殿は流石に恥ずかしいので」
「じゃあユウト殿」
「あ、はい。ありがとうございます――じゃなくって!」

 二人が今居る部屋にはベッドが二つ。つまりツインルームだ。
 二つのベッドの間には小さな収納棚が一つ。部屋にあるのはそれだけだった。

 何故悠斗が頭を抱える理由は簡単。
 年頃(?)の女性と相部屋なんて、恥ずかしいじゃないか! 何も無いと思うが何か問題が起こってしまったらどうするんだ!
 という事から来ているらしい。

「どうして相部屋なんですか!?」
「どうして? 不思議な事を聞く。では何故別々の部屋を取る必要がある。一人部屋もあるが、それを二部屋借りるよりツイン一部屋の方が断然安上がりなのだぞ」
「お、お金の問題……いや、いくら安上がりだと言っても、女性と二人っきりで同じ部屋っていうのも、マズいじゃないですかっ」

 悠斗が赤ら顔でそう声を上げると、ベッドに腰を下ろしていたルティは不思議そうな顔になる。

「女性と二人っきり?」
「そうです」

 悠斗の即答にルティは眉尻を下げ、首を傾げた。

「誰が?」
「……君でしょうが」
「え?」
「えって……え……まさか……」

 まさか男装がバレていない。何てことは思ってないよね?
 ははは、まさかね。
 エルフの男もきっと、人間から見れば美麗なのだろう。だがいくら美麗だと言っても、流石に胸が膨らんだ男エルフは居ないはず。
 無理があるのだ。彼女の男装には。

「ルティさ……ルティは女性ですよね?」
「……そんな事はない」

 既に返答の仕方からしておかしい。その上彼女の目は泳いでいる。

「女性ですよね」

 悠斗は疑問形ではなく、肯定口調でキッパリと言う。
 言われたルティは悠斗に目線を合わせず、あわあわと狼狽えていた。
 どうやら本気で男装がバレていないと思っていたようだ。なんて残念なエルフなのだろう。

「バレてますから。というか無理でしょ。どう見たって男物の服を着ただけの女性エルフなんだから」
「なっ。何故だ! 私は完璧になり切っていたのにっ」
「いや、口調がそれっぽくても、声だって可愛い女の子の声じゃないですか。声変わりしていないとしても、ちょっと厳しいと思いますけど」
「か、可愛いだと!?」

 ぼんっと音が出るんじゃないかというぐらい、ルティの顔は真っ赤に染まり、その長い特徴的な耳もまた赤くなっていた。
 はわわはわわと狼狽するルティを見て、悠斗の口元が僅かに緩む。

(あぁこの人、案外可愛い子だなぁ)――と。

 この世界のエルフはどうやら小柄なようで、だが彼女の凛とした佇まいがそれを感じさせない。男物の服を着ているからというのもあるだろう。
 だが今目の前で狼狽え頬を染める彼女は、とても小さな小動物のようにも見える。

 微笑ましく見ていた悠斗だったが、本題を忘れてしまったわけではない。

「宿泊代は俺が払います。受付に行ってもう一部屋借りてきますね」

 そう言って部屋を出たのだが――。

「あ? もう一部屋? 悪いねぇお客さん。生憎満室なんだよ」
「え……」

 どうやら運命の女神は悠斗に悪戯っぽく微笑んだようだ。





「私は気にしないぞ」

 と、真っ赤な顔で、そして目線を泳がせルティは言った。
 思いっきり意識しているじゃないですかー。

 だが他に部屋が無いのでは仕方がない。別の宿屋――という考えもあったが、それでは別行動になってしまうので心もとなさもある。
 なんだかんだとこの世界でひとり放り出されるのは不安があるのだ。例えタブレットがあったとしても。

 そのタブレットだが、中にはあの盗賊たちが入ったままだ。
 さてどうしたものか。

 女性と二人っきり――というシチュエーションを忘れる為、悠斗はタブレットを取り出し意識をそちらへと向けた。
 DLフォルダには『盗賊1』『盗賊2』と、ファイルが13まで揃っている。
 インストールすればアイテムフォルダに移動するのだろうか。まさかこれも自分にインストール出来てしまうんじゃないかと不安になる。
 いっそ触りたくないとすら思えた。

「ユウト殿。気になっていたのだが、その銀板はなんだ?」
「ん? えぇっと、これはタブレットと呼ばれる物で……あ、スキルの一種です」

 そう。タブレットはスキルだ。タブレットなのに何故か『ブック』と唱えると異次元から現れる仕組みになっている。
 ルティには、アイテムボックスの亜種であり、いろいろな事を調べる機能も併せ持つと説明した。
 だがここでルティが怪訝な顔になる。

「ユウト殿。アイテムボックスはスキルではない。魔法道具《マジックアイテム》だ」
「あ……えぇっと」

 今度は悠斗が目を泳がせる番となる。
 異世界への転生転移の事は秘密事項だと女神は言った。ここでぽろりすれば女神が困るだろうし、もしかすると記憶の改ざんだの、今までの事が無かったことになって別の世界になんてことになるかもしれない。(考えすぎではある)
 どう説明しよう。なんて言い訳しよう。
 そう考えていた悠斗だったが、彼を見たルティが溜息と共に口を開いた。

「ユウト殿。その銀板は異世界転移の際のボーナススキルなのだろう」
「そ、そうなんで――え?」
「心配するな。そういうものが存在することを、私は知っている。魔術の探求に励む者の中には、気づく者も居るのだよ。もちろん――」

 そんな事を他言しても誰も信じてはくれないし、他言しようにもそもそも神に妨害され口止めされる。最悪の場合、記憶の改ざんまでされるのだ。
 そもそも、気づいた者がこれまでの歴史上、何人居たかという問題もあったが。

「き、君はその……記憶の改ざんなんかは?」
「無い。ユウト殿以外にこの事を話したのは、神相手しか居ないからな」
「あぁ、そうなんです――え?」

 今サラっと凄いことを言ったような。そう思って悠斗はルティを見つめたが、彼女は特に変わった様子を見せていない。

「か、神様とお知り合い?」
「いや?」
「で、でも。神様には転生とか転移の事を……」
「話した。ユウト殿が次、いつ転移してくるか聞き出すために」
「うわぁ」

 思わず声が漏れてしまう。そんな事で神に会えるのか。そして神に問えるのかと。
 もしかするとこの世界の神様はフレンドリーなのかもしれない。

「か、神様はどこに行けば会えるんですか?」
「ん? ユウト殿は神に会いたいのか?」
「いや、なんとなく聞いてみただけです」
「そうか。まぁ神に会いたいなら、まずどの神に会いたいか決めることだ。それからその神の神殿に行き、祈りを捧げ試練を受ける。それから――」

 ルティの口から出たのは、まず、一般人には到底無理だろうという内容だった。
 この残念なエルフは、どうやら只者ではないようだ。

「と言うのを経て、神との対話が実現する。まぁ面倒くさいので二度と彼らと話す気は無いがな」
「複数の神と対話したんですね……」
「ん。邪神ども以外全員とかな。それでようやくユウト殿が転移してくる時と場所を突き止められたのだから」

 はっはっはと、ルティは笑い話にしてしまった。
 自分を探すためにそこまでするとは……。
 しかし――。

「ところでルティは、俺が転移者だと何故気づいたんですか?」
「ん? だってユウト殿は、死んでもすぐ空中から突然現れていたではないか」

 あぁ。あの幼いルティはしっかり見ていたのだ。
 繰り返しゾンビアタックをしていた悠斗の姿を。それで気づいたらしい。

「ま、それはどうでもいい事で。本題だ」
「は、はぁ」
「ユウト殿。その銀板のスキル。なるべく人前では使わない方がいい」
「人前で? な、何かマズいことでも?」

 ルティは小さく頷き、その理由を話す。
 アイテムマジック然りだが、魔法道具は非常に高価な物だ。そして出回っている数も少ない。
 300年以上生きている彼女が知る限り、100か200ぐらいだろうと話す。

「人の噂話でアイテムボックスを持っている者がいるだの、どこぞの有名人が持っているだのいろいろある。知られているだけでその程度だが、知られていない物も合わせればもう少し多いだろう。だが――」

 100か200。その数だって同じアイテムボックスが重複して認知されていることもある。
 親から子へ、そして孫へ。または譲られたり、大金を手にするために売ったりして、別の人物の手に渡ったのもある。
 それらと同じぐらい――。

「奪われた物も多い」
「奪われ……まさか、殺してでも奪い取る的な」

 悠斗の言葉にルティは頷く。
 殺してでも奪い取る。それだけ魔法道具は高価であるし、貴重なのだと。
 そして間違いなく、悠斗の持つ銀板――タブレットもそういった類の物だと認識されるだろう。
 物を出し入れ出来るのだから、当然そうなる。その上、タブレットそのものに鑑定にも似た機能がある。これはもう『レア』なんて物ではない。激レアだ!

「権力者に知られれば、確実に奪われるぞ」
「……殺してでも?」
「殺してでもだ。そうでなくても、死ぬまでコキ使われるだろうな」

 ごくり。悠斗は喉を鳴らして恐怖を覚えた。
 前世と呼べるのだろうか。日本に居たときはまさにコキ使われて来た。コキ使われ、過労で倒れそうになったのを踏ん張ったら、過労で倒れた上司に押しつぶされて死んだのだ。ある意味過労死である。
 異世界に来てまで社畜になんてなりたくない!
 
「まぁ文字が読めないので鑑定機能とは思われないかもしれない。古代書か何かと思われるかもな」
「うぅん。アイテムの出し入れは注意した方が良さそうだなぁ」
「ん。大きいからな。私のように小さな物ならよかったのだが」

 そう言ってルティは財布を取り出した。小銭入れ程度の小さなものは、彼女が手を突っ込むとそこからにゅるりと服が出て来た。
 持っていたのか、こいつも――。

「ちなみにこれは私が15年の研究で完成させた、魔法道具だ」
「……お手製アイテムボックス……」

 やっぱりとんでもないエルフだった。

「ところでユウト殿。さっき温泉がどうこう言っていたようだが――」
「あ、うん。実は」

 悠斗はこの世界に転移してきた目的などは無く、だから自分で目的を作った。
 全国各地の温泉巡りの旅をしよう!
 日本に居た頃毎日のように考えていた、願望にも似た夢だ。

 その話をルティに語って聞かせた。
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