1 / 35
第一話
しおりを挟む
7月14日。
博多祇園山笠最終日前日。
余が――いや、俺が山笠を舁《か》く、今年最後の日だ。
締め込み姿で自らが舁く山笠をじっと見上げる。
明日の最終日はベテラン勢しか舁くことを許されていない。
故にこの山笠に触れるのも、余にとっては今年最後なのだ。
余談であるが、締め込みとはよくふんどしに間違えられる物だが、断じてこれは下着ではない。
儀式における正装である。
まぁ見た目は確かにふんどしと似ておるが、だがこれは締め込みである!
山笠を見上げる余――あ、いや俺――神木 裕斗は、元は異世界の魔王であった。
魔王――人間や他種族から恐れられ、常に敵対関係にある魔族を統べるもの。
余が望んだ訳ではないが、神がそうしたのだから仕方がない。
余の使命は他種族を恐れさせ、定期的にやってくる勇者とその一行を蹴散らすこと。
そんな魔王人生に疲れ、部下が話すスローライフというものに憧れ転生したのだが……。
最初の転生で余は、元いた異世界ファンタジーな世界とちっとも変らぬ世界に、しかもエルフとして生まれた。
余は絶望した。
長寿過ぎる種族に生まれたことを。
しかもその世界では大陸全土を揺るがす戦争の真っ最中で、余のいた集落もしっかり巻き込まれていった。
スローライフどころではなかったのだ。
ようやく戦争が終わって、さぁ再建だというときに余はエルフの集落を襲った人間の手によって殺された。
スローライフを満喫することも、その第一歩すら踏み出せなかった余の二度目の転生先は――。
科学文明が発達し、宇宙船が銀河を掛けるSF浪漫の世界であった。
しかしここでも惑星間戦争によって――余は僅か2歳にして、住んでいた星と共に爆散した。
長寿なのは嫌だと思ったが、だからって短すぎ!
スローライフ!
スローライフを余に寄越せ!
で、三度目の転生先がここ地球。
日本の福岡県福岡市博多区に生まれた博多っ子だ。
スローライフを求め日本人として転生して十八年。
この博多の地で余は、いや俺は熱い魂を燃え滾らせている!
スローライフ?
大学を卒業してからでも間に合う。
今は山笠を舁くことに命を削っているからな。
「裕斗、なんひとりで黄昏とっと?」
「ぬ? いやいや、なんでもないっちゃ。そろそろ行くと?」
「おお、行くばい」
山笠に一礼し、参加者の集合場所へ向かうため踵を返した瞬間――。
「お待ちしておりました勇者の皆様」
どこか懐かしさを感じる世界に、召喚されていた。
博多祇園山笠最終日前日。
余が――いや、俺が山笠を舁《か》く、今年最後の日だ。
締め込み姿で自らが舁く山笠をじっと見上げる。
明日の最終日はベテラン勢しか舁くことを許されていない。
故にこの山笠に触れるのも、余にとっては今年最後なのだ。
余談であるが、締め込みとはよくふんどしに間違えられる物だが、断じてこれは下着ではない。
儀式における正装である。
まぁ見た目は確かにふんどしと似ておるが、だがこれは締め込みである!
山笠を見上げる余――あ、いや俺――神木 裕斗は、元は異世界の魔王であった。
魔王――人間や他種族から恐れられ、常に敵対関係にある魔族を統べるもの。
余が望んだ訳ではないが、神がそうしたのだから仕方がない。
余の使命は他種族を恐れさせ、定期的にやってくる勇者とその一行を蹴散らすこと。
そんな魔王人生に疲れ、部下が話すスローライフというものに憧れ転生したのだが……。
最初の転生で余は、元いた異世界ファンタジーな世界とちっとも変らぬ世界に、しかもエルフとして生まれた。
余は絶望した。
長寿過ぎる種族に生まれたことを。
しかもその世界では大陸全土を揺るがす戦争の真っ最中で、余のいた集落もしっかり巻き込まれていった。
スローライフどころではなかったのだ。
ようやく戦争が終わって、さぁ再建だというときに余はエルフの集落を襲った人間の手によって殺された。
スローライフを満喫することも、その第一歩すら踏み出せなかった余の二度目の転生先は――。
科学文明が発達し、宇宙船が銀河を掛けるSF浪漫の世界であった。
しかしここでも惑星間戦争によって――余は僅か2歳にして、住んでいた星と共に爆散した。
長寿なのは嫌だと思ったが、だからって短すぎ!
スローライフ!
スローライフを余に寄越せ!
で、三度目の転生先がここ地球。
日本の福岡県福岡市博多区に生まれた博多っ子だ。
スローライフを求め日本人として転生して十八年。
この博多の地で余は、いや俺は熱い魂を燃え滾らせている!
スローライフ?
大学を卒業してからでも間に合う。
今は山笠を舁くことに命を削っているからな。
「裕斗、なんひとりで黄昏とっと?」
「ぬ? いやいや、なんでもないっちゃ。そろそろ行くと?」
「おお、行くばい」
山笠に一礼し、参加者の集合場所へ向かうため踵を返した瞬間――。
「お待ちしておりました勇者の皆様」
どこか懐かしさを感じる世界に、召喚されていた。
11
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる