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元魔王は師匠になる。
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「来たぞ」
聖域と呼ばれる大神殿の奥の区画。そこと他とを分け隔てる壁の前でそう声を掛けると、程なくしてラフィが顔をひょっこり出してきた。
「なんであたいが居るの、分かったの?」
「感知魔法だ」
「……ねぇあんた。神官になりたいの? 魔術師になりたいの?」
首を傾げ、それから彼女は壁から飛び降りた。
三メートルの壁だが、一般的には飛び越えられる高さではない――と言われている。
まぁだから奥とこちらを隔てる壁なのだろうが。
そこを彼女は木を利用しているとはいえ、軽々と越え、飛び降りるのだ。
ラフィ自身、剣士を目指しているようだが――ぼくの目から見ても、その方が活躍できると思う。
「な、何さ。人の顔なんか、じっと見ちゃってさ」
「ん。ラフィは身が軽いから、スピード重視の剣士に適しているだろうなと考えていたのだ」
「え? ほんと!?」
ラフィは目を輝かせて大きな声を出す。
「しっ。他の者に気づかれたら事だぞ」
「あっ。……ごめんごめん」
「まぁいい。今からこの一帯に不可視の結界を張る。あとは音が外に漏れないよう、防音効果の魔法もっと――」
「え? え? ちょっと待って。結界? 防音?」
ラフィには構わず二つの魔法を同時に展開。
それほど広くはない空間だが、これでぼくやラフィの姿は外からは見えなくなる。
代わりにぼくらの居ない風景が投影されるという仕掛けも忘れてはいない。
「な、何がどうやってんの? 何も変わってない気がするけど」
「こちらから見る分には何も変わらないさ。そうだな、今は誰も居ないし、試しにあの木の根元まで行ってぼくの方を見ると言い」
「う、うん」
ラフィは素直に、少し離れた木の根元まで歩いて行く。
そしてくるりと振り向いて、慌てた様子で辺りを見渡していた。
「ど、どこ? ルインどこ?」
ここだ――と言っても、彼女には聞こえない。
結界内の音は、結界内では聞こえても、外には漏れないから。
ぼくの姿を探すラフィは、直ぐに駆けて戻って来た。
結界内に入るや否や――
「ふわっ!? ルイン居た!」
「ずっとここに居たぞ。どうだ、分かったか?」
「うん。あんたすっごいね! 神官なんかより、魔術師の方が向いてるんじゃない?」
「魔法は得意だ。だけど武術だって得意だ。しかしぼくが欲しているのは神聖魔法! これだけは未だに使えないんだ」
項垂れるぼくに、ラフィが肩を叩く。
「人間誰にだって向き不向きがあるんだよ。きっとあんたは神官に向いてないんだね」
「向いて……いない……だからといって諦める理由にはならない! 努力すれば必ず使えるようになる。努力は報われるのだ!!」
ローリエだってそう言ったんだ。神が嘘を付く訳がない。もし嘘だったら……。
地獄の底に叩き落としてくれるわ。
「ど、どうしたんだよルイン。な、なんか急に怖い顔して」
「ん。なんでもない。さぁラフィ、始めよう。時間は有限なのだから」
「うん。お願いします、師匠!」
「ふ、師匠か。よかろう。ぼくを師と仰ぐがいい」
まずはひたすら木刀の素振りから。
木刀もその辺に落ちている物を拾い集め、錬金魔法で形を作り替えてある。
重量も彼女が将来扱うであろう細身の長剣に合わせ、石などを混ぜ合わせ加重してみた。
「重さ、そして長さに慣れなければな」
「う、うん」
「それを今日はひたすら素振りする」
「え? それだけ?」
「基本がまったく無いのだ。いきなり実践しても無意味だぞ。なんならやってみるか?」
「やってやろうじゃんっ」
挑発的な視線でぼくを見つめるラフィに、同じような木刀でぼくは構えて見せる。
そして「来い」と、手招きして見せた。
「たぁ!」
上段構えから振り下ろされた木刀をひょいと躱し、そのまま軽く上からこちらの木刀を当てる。
力など加える必要はない。そもそも彼女がしっかり木刀を握っていないから。
からん――と乾いた音を立て、ラフィが握った木刀は地面へと転がった。
「ふにゅっ!?」
「ただ持っているだけではダメだ。だからといって力いっぱい握ってもダメ。しっかり握りつつ、手首は柔軟に」
「うぐ……しっかり握って手首は――って、どうすんだよ!」
「だから素振りをしろ。そのうち木刀がしっかり手に馴染む」
まず剣を握っている――という事に慣れなければならない。
剣を異物ととらえている限り、先ほどのように些細な妨害でぽろりと取りこぼすだろう。
「ただの素振り……あたいはもっとしっかりとした剣術を学べるかと思ってたのに」
そうぶつぶつ文句を垂れ流しながらも彼女は素振りを始めた。
一時間。
根を上げるのはいつだろうと思っていたが、ラフィは根気強く頑張っていた。
だが、手の皮はそうもいかなかったようだ。
「痛っ」
「剥けたか?」
「う、うん……」
「よし。今日はここまでにしよう。ラフィ、治癒の魔法は?」
彼女は首を横に振るう。
聖女候補でも簡単には使えない魔法――それが神聖魔法!
ぼくがどんくさい訳じゃないんだ、きっとそうだ!
あ――
「ラフィ、君はフィリアを知っているかい?」
「え? フィリア?」
そう。フィリアなら治癒が使える。
彼女に癒して貰おう。そして――
「ぼくはフィリアへ会いに行く」
聖域と呼ばれる大神殿の奥の区画。そこと他とを分け隔てる壁の前でそう声を掛けると、程なくしてラフィが顔をひょっこり出してきた。
「なんであたいが居るの、分かったの?」
「感知魔法だ」
「……ねぇあんた。神官になりたいの? 魔術師になりたいの?」
首を傾げ、それから彼女は壁から飛び降りた。
三メートルの壁だが、一般的には飛び越えられる高さではない――と言われている。
まぁだから奥とこちらを隔てる壁なのだろうが。
そこを彼女は木を利用しているとはいえ、軽々と越え、飛び降りるのだ。
ラフィ自身、剣士を目指しているようだが――ぼくの目から見ても、その方が活躍できると思う。
「な、何さ。人の顔なんか、じっと見ちゃってさ」
「ん。ラフィは身が軽いから、スピード重視の剣士に適しているだろうなと考えていたのだ」
「え? ほんと!?」
ラフィは目を輝かせて大きな声を出す。
「しっ。他の者に気づかれたら事だぞ」
「あっ。……ごめんごめん」
「まぁいい。今からこの一帯に不可視の結界を張る。あとは音が外に漏れないよう、防音効果の魔法もっと――」
「え? え? ちょっと待って。結界? 防音?」
ラフィには構わず二つの魔法を同時に展開。
それほど広くはない空間だが、これでぼくやラフィの姿は外からは見えなくなる。
代わりにぼくらの居ない風景が投影されるという仕掛けも忘れてはいない。
「な、何がどうやってんの? 何も変わってない気がするけど」
「こちらから見る分には何も変わらないさ。そうだな、今は誰も居ないし、試しにあの木の根元まで行ってぼくの方を見ると言い」
「う、うん」
ラフィは素直に、少し離れた木の根元まで歩いて行く。
そしてくるりと振り向いて、慌てた様子で辺りを見渡していた。
「ど、どこ? ルインどこ?」
ここだ――と言っても、彼女には聞こえない。
結界内の音は、結界内では聞こえても、外には漏れないから。
ぼくの姿を探すラフィは、直ぐに駆けて戻って来た。
結界内に入るや否や――
「ふわっ!? ルイン居た!」
「ずっとここに居たぞ。どうだ、分かったか?」
「うん。あんたすっごいね! 神官なんかより、魔術師の方が向いてるんじゃない?」
「魔法は得意だ。だけど武術だって得意だ。しかしぼくが欲しているのは神聖魔法! これだけは未だに使えないんだ」
項垂れるぼくに、ラフィが肩を叩く。
「人間誰にだって向き不向きがあるんだよ。きっとあんたは神官に向いてないんだね」
「向いて……いない……だからといって諦める理由にはならない! 努力すれば必ず使えるようになる。努力は報われるのだ!!」
ローリエだってそう言ったんだ。神が嘘を付く訳がない。もし嘘だったら……。
地獄の底に叩き落としてくれるわ。
「ど、どうしたんだよルイン。な、なんか急に怖い顔して」
「ん。なんでもない。さぁラフィ、始めよう。時間は有限なのだから」
「うん。お願いします、師匠!」
「ふ、師匠か。よかろう。ぼくを師と仰ぐがいい」
まずはひたすら木刀の素振りから。
木刀もその辺に落ちている物を拾い集め、錬金魔法で形を作り替えてある。
重量も彼女が将来扱うであろう細身の長剣に合わせ、石などを混ぜ合わせ加重してみた。
「重さ、そして長さに慣れなければな」
「う、うん」
「それを今日はひたすら素振りする」
「え? それだけ?」
「基本がまったく無いのだ。いきなり実践しても無意味だぞ。なんならやってみるか?」
「やってやろうじゃんっ」
挑発的な視線でぼくを見つめるラフィに、同じような木刀でぼくは構えて見せる。
そして「来い」と、手招きして見せた。
「たぁ!」
上段構えから振り下ろされた木刀をひょいと躱し、そのまま軽く上からこちらの木刀を当てる。
力など加える必要はない。そもそも彼女がしっかり木刀を握っていないから。
からん――と乾いた音を立て、ラフィが握った木刀は地面へと転がった。
「ふにゅっ!?」
「ただ持っているだけではダメだ。だからといって力いっぱい握ってもダメ。しっかり握りつつ、手首は柔軟に」
「うぐ……しっかり握って手首は――って、どうすんだよ!」
「だから素振りをしろ。そのうち木刀がしっかり手に馴染む」
まず剣を握っている――という事に慣れなければならない。
剣を異物ととらえている限り、先ほどのように些細な妨害でぽろりと取りこぼすだろう。
「ただの素振り……あたいはもっとしっかりとした剣術を学べるかと思ってたのに」
そうぶつぶつ文句を垂れ流しながらも彼女は素振りを始めた。
一時間。
根を上げるのはいつだろうと思っていたが、ラフィは根気強く頑張っていた。
だが、手の皮はそうもいかなかったようだ。
「痛っ」
「剥けたか?」
「う、うん……」
「よし。今日はここまでにしよう。ラフィ、治癒の魔法は?」
彼女は首を横に振るう。
聖女候補でも簡単には使えない魔法――それが神聖魔法!
ぼくがどんくさい訳じゃないんだ、きっとそうだ!
あ――
「ラフィ、君はフィリアを知っているかい?」
「え? フィリア?」
そう。フィリアなら治癒が使える。
彼女に癒して貰おう。そして――
「ぼくはフィリアへ会いに行く」
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