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「さっさと荷車を持ってこいっ」
僕らに対し腰の低い態度だった村長はどこにもいない。
家畜小屋は村の外れにあり、ここなら大きな魔法陣も描けるだろうと村長が案内してきたのだが。
そこで牛の世話をしていた小さな人影に向かって、村長は語気を荒げ指示を出していた。
「なんかさっきまでと雰囲気違うね、この村長さ」
隣のラフィがぼそりと耳打ちしてくる。
それだけガラっと様変わりしてしまったのだ。
家畜小屋から慌てて飛び出してきたのは、どろっどろに汚れた……
「獣人か?」
「あ、本当だ」
僕らの前を全速力で駆けて行く人物には、大きな耳と尾っぽとがあった。
黄ばんだ色のそれは、おそらく狐のものだろう。
獣人は人の姿に獣の特徴である耳や尻尾が備わった容姿をしており、身体能力なども見た目の獣に似た部分を持つ優れた種族だ。
多産という部分も似てしまったせいか、人里に働きにだされる子供も多いと聞く。
時には奴隷商人に売られる……とも。
見たところ、あの獣人には首輪などは見当たらない。奴隷ではなさそうな?
「さっさとしねーかこのクズっ。今日の晩飯は抜きにすっぞっ」
「ひぅ。ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
村長の言葉に狐獣人がビクりと体を震わせる。その際、手首を抑え苦しむ素振りも見せていた。
奴隷の証である隷属の首輪は、主人からの特定の言葉で軽く締まるという魔法が掛けられている。
もちろん連続してその言葉を発すれば、死に至らしめることも出来る。
どうやらあの狐獣人は首輪ではなく、腕輪として隷属の証を身につけさせられているようだ。
ラフィも気づいたのか、どことなく獣人を憐れむような視線を向けている。
「そ、村長さん。別にアタイらは急いでないから。ね? ルイン」
「……そうだな。魔法陣を描くのに一時間以上は掛かる。荷車に乗せたまま待たせていては、家畜のストレスになって取引時に不利になるだろう」
「そ、そうだよ。体調の悪そうな豚や牛だと、買取価格も下がるだろ? だからゆっくりでいいって」
正直魔法陣もまた、魔法で作るので一瞬だ。
だがラフィはあの獣人を労わろうとしている。彼女の優しさに付き合ってやるのが、仲間ってものだろう。
村長も「それなら」と、しぶしぶ指示を出し直す。
「冒険者さまの準備が終わる頃、家畜を荷車に詰め込んでおけ。いいな?」
「は、はいっご主人様」
「ではわたしは運搬用の村人にも声を掛けてきますので」
村長は表情を一変させ、柔和な笑みを浮かべて村へと戻って行った。
その後姿を見送り村長の背中が小さくなってから、ラフィは大きなため息を吐き捨てた。
「うちの村でもさ、作物の収穫が悪い年は子供が出稼ぎに出されてたんだ」
「ほぉ。うちではそもそも子供と呼べる年齢の者が、ぼくとフィリアぐらいしか居なかったから、そういうのは無かったな」
「そんな小さな村だったの?」
小さいな。村人も百人ちょっとだったし。
が、今では倍以上になっている。外からの移民を受け入れたからだ。
村長の姿が完全に見えなくなってから、ラフィは獣人に声を掛けた。
「ねぇ、急がなくていいからね。ゆっくり休みながらでいいよ」
そんなラフィの言葉に、ビクリと体を震わせた獣人がぼくらを見る。
それから荷車と家畜、もう一度僕らを見て、
「い、いつまで……お、終わらせれば、いい、です、か?」
完全に怯え切った声で尋ねて来た。
あの村長、人当たりは良さそうな雰囲気だったが、表向きだけなようだな。
声からすると少女のようだが、体は痩せ細り、何よりも汚れていて汚い。
いつから入浴をさせていないのか。
手招きすると、少女は怯えながらもそれに従う。
従わなければ腕輪が締められる――とでも思っているのだろう。もしくは人の言葉に従わなければそうなると、すりこまれるほど痛い目に合っているのかもしれない。
ぷるぷると小刻みに震える少女が僕の前へとやってくると、使い慣れた魔法を一つ唱えた。
「洗浄《アクアバブル》」
服と体の汚れを同時に洗い流せる便利な魔法。魔王時代にもお世話になったこの魔法を、獣人の娘に対して使った。
「はわっ、はわわわわっ。な、なに、なに?」
「心配するな。衣服と体を同時に洗うただの魔法だ。しかし、泡立ちが良くないな」
「そんな魔法、アタイは見たことないよ……。泡が立たないのは、汚れが激しいからだよきっと」
「なるほど。ではもう一度――洗浄《アクアバブル》」
「はわわわぁぶぶぶぐ」
「おい、口は閉じていろ」
この後もう一度追加で魔法を唱え、ようやく泡立つようになった。
すっかり綺麗になった少女を、今度は温い風魔法で乾かしてやる。
黄ばんだ色の髪と尾っぽは、美しい黄金色へと変貌。
容姿もまた、痩せ細ってはいたが美しい姿を現している。
「綺麗な子じゃない」
「そうだな」
「うぐ……これ……これ、ダメ」
ダメ?
少女は慌ててその場で寝そべり、綺麗にしたばかりの衣服と我が身を汚していく。
「え? ちょっと、何してんの!? ルインがせっかく綺麗にしてくれたのに」
「ダメ……汚れてないと、ダメ」
「ダメって何が!?」
土を塗りたくる少女をラフィが抱き起し、その訳を聞いた。
「汚れてないと……連れて行かれる」
「連れて? どこに連れていかれるの?」
「……娼館……」
その言葉を聞いて、ラフィは「あっ」と小さい声を上げ立ち尽くした。
なるほど。身綺麗にしていると、女として体を売る館へ売り飛ばされる……ということか。
それで敢えて汚れた格好をしているのかもしれない。
少女は尚も体を汚そうと、牛舎の馬糞まで擦り付け始めた。
それは流石に臭かろう。
とそんな時、ここから奥の森から魔物の気配が感じられた。
同時に少女の耳がピクリと動く。
ほぉ。なかなかいい耳をしているようだ。
「ここ……襲われる……家畜、大変」
「え? どういうこと?」
「ラフィ。森から魔物が出てくる。どうやらここの家畜を狙っているようだ」
僕らに対し腰の低い態度だった村長はどこにもいない。
家畜小屋は村の外れにあり、ここなら大きな魔法陣も描けるだろうと村長が案内してきたのだが。
そこで牛の世話をしていた小さな人影に向かって、村長は語気を荒げ指示を出していた。
「なんかさっきまでと雰囲気違うね、この村長さ」
隣のラフィがぼそりと耳打ちしてくる。
それだけガラっと様変わりしてしまったのだ。
家畜小屋から慌てて飛び出してきたのは、どろっどろに汚れた……
「獣人か?」
「あ、本当だ」
僕らの前を全速力で駆けて行く人物には、大きな耳と尾っぽとがあった。
黄ばんだ色のそれは、おそらく狐のものだろう。
獣人は人の姿に獣の特徴である耳や尻尾が備わった容姿をしており、身体能力なども見た目の獣に似た部分を持つ優れた種族だ。
多産という部分も似てしまったせいか、人里に働きにだされる子供も多いと聞く。
時には奴隷商人に売られる……とも。
見たところ、あの獣人には首輪などは見当たらない。奴隷ではなさそうな?
「さっさとしねーかこのクズっ。今日の晩飯は抜きにすっぞっ」
「ひぅ。ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
村長の言葉に狐獣人がビクりと体を震わせる。その際、手首を抑え苦しむ素振りも見せていた。
奴隷の証である隷属の首輪は、主人からの特定の言葉で軽く締まるという魔法が掛けられている。
もちろん連続してその言葉を発すれば、死に至らしめることも出来る。
どうやらあの狐獣人は首輪ではなく、腕輪として隷属の証を身につけさせられているようだ。
ラフィも気づいたのか、どことなく獣人を憐れむような視線を向けている。
「そ、村長さん。別にアタイらは急いでないから。ね? ルイン」
「……そうだな。魔法陣を描くのに一時間以上は掛かる。荷車に乗せたまま待たせていては、家畜のストレスになって取引時に不利になるだろう」
「そ、そうだよ。体調の悪そうな豚や牛だと、買取価格も下がるだろ? だからゆっくりでいいって」
正直魔法陣もまた、魔法で作るので一瞬だ。
だがラフィはあの獣人を労わろうとしている。彼女の優しさに付き合ってやるのが、仲間ってものだろう。
村長も「それなら」と、しぶしぶ指示を出し直す。
「冒険者さまの準備が終わる頃、家畜を荷車に詰め込んでおけ。いいな?」
「は、はいっご主人様」
「ではわたしは運搬用の村人にも声を掛けてきますので」
村長は表情を一変させ、柔和な笑みを浮かべて村へと戻って行った。
その後姿を見送り村長の背中が小さくなってから、ラフィは大きなため息を吐き捨てた。
「うちの村でもさ、作物の収穫が悪い年は子供が出稼ぎに出されてたんだ」
「ほぉ。うちではそもそも子供と呼べる年齢の者が、ぼくとフィリアぐらいしか居なかったから、そういうのは無かったな」
「そんな小さな村だったの?」
小さいな。村人も百人ちょっとだったし。
が、今では倍以上になっている。外からの移民を受け入れたからだ。
村長の姿が完全に見えなくなってから、ラフィは獣人に声を掛けた。
「ねぇ、急がなくていいからね。ゆっくり休みながらでいいよ」
そんなラフィの言葉に、ビクリと体を震わせた獣人がぼくらを見る。
それから荷車と家畜、もう一度僕らを見て、
「い、いつまで……お、終わらせれば、いい、です、か?」
完全に怯え切った声で尋ねて来た。
あの村長、人当たりは良さそうな雰囲気だったが、表向きだけなようだな。
声からすると少女のようだが、体は痩せ細り、何よりも汚れていて汚い。
いつから入浴をさせていないのか。
手招きすると、少女は怯えながらもそれに従う。
従わなければ腕輪が締められる――とでも思っているのだろう。もしくは人の言葉に従わなければそうなると、すりこまれるほど痛い目に合っているのかもしれない。
ぷるぷると小刻みに震える少女が僕の前へとやってくると、使い慣れた魔法を一つ唱えた。
「洗浄《アクアバブル》」
服と体の汚れを同時に洗い流せる便利な魔法。魔王時代にもお世話になったこの魔法を、獣人の娘に対して使った。
「はわっ、はわわわわっ。な、なに、なに?」
「心配するな。衣服と体を同時に洗うただの魔法だ。しかし、泡立ちが良くないな」
「そんな魔法、アタイは見たことないよ……。泡が立たないのは、汚れが激しいからだよきっと」
「なるほど。ではもう一度――洗浄《アクアバブル》」
「はわわわぁぶぶぶぐ」
「おい、口は閉じていろ」
この後もう一度追加で魔法を唱え、ようやく泡立つようになった。
すっかり綺麗になった少女を、今度は温い風魔法で乾かしてやる。
黄ばんだ色の髪と尾っぽは、美しい黄金色へと変貌。
容姿もまた、痩せ細ってはいたが美しい姿を現している。
「綺麗な子じゃない」
「そうだな」
「うぐ……これ……これ、ダメ」
ダメ?
少女は慌ててその場で寝そべり、綺麗にしたばかりの衣服と我が身を汚していく。
「え? ちょっと、何してんの!? ルインがせっかく綺麗にしてくれたのに」
「ダメ……汚れてないと、ダメ」
「ダメって何が!?」
土を塗りたくる少女をラフィが抱き起し、その訳を聞いた。
「汚れてないと……連れて行かれる」
「連れて? どこに連れていかれるの?」
「……娼館……」
その言葉を聞いて、ラフィは「あっ」と小さい声を上げ立ち尽くした。
なるほど。身綺麗にしていると、女として体を売る館へ売り飛ばされる……ということか。
それで敢えて汚れた格好をしているのかもしれない。
少女は尚も体を汚そうと、牛舎の馬糞まで擦り付け始めた。
それは流石に臭かろう。
とそんな時、ここから奥の森から魔物の気配が感じられた。
同時に少女の耳がピクリと動く。
ほぉ。なかなかいい耳をしているようだ。
「ここ……襲われる……家畜、大変」
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