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東堂京介

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第3章

第4話 盾と剣

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松岡は手元にあるレポートを見つめながら思索にふけっていた。

画面のスポンサーリストの表示が、どれだけ彼の心情を揺さぶっているのか一目でわかる。 


「スポンサーが戻り始めた」

頭の中で繰り返す言葉が、崩れかけた計画を巻き戻していくように響いた。

東堂の改革がうまくいかぬことで、スポンサーが離れ、そして彼を解任する。
代わりに木村辺りを据えて急場を凌ぐ。そんな青写真が崩壊していく。 


「いや、まだだ。完全に回復しているわけではない。打つ手ならまだある。」

確かに、スポンサーが戻りつつある現実は痛手だった。
最初は東堂を早急に排除し、自らの力で大和テレビを掌握するつもりだった。

しかし東堂もしぶとい、松岡は悪態をつく。


「桐山玲奈、か。見ていろ東堂、お前が使いこなせないのなら俺が手本を見せてやる。権謀術数の手練手管を神木のやつは教えてくれなかっただろう?やればできたくせにあいつはそういうやつだった。お前もそうなんだろ?」

松岡はそう独り言をつぶやくと、グラスを傾ける。


「しかし、このスポンサーの顔ぶれ何か、見覚えが。」

松岡はリストの企業一覧を部下へと送る。何か気づくことはないか、いや、何かに気づけ、と。 


「報道の大和テレビ?馬鹿を言うな、大和テレビの報道は今も、昔も俺の物だ。」

松岡は静かにそう言うと無き友を思い。 


醜悪に笑った。 


「スポンサーの流れを分析したがどうにも腑に落ちない点がある」

松岡はデスクの上のレポートを指で叩きながら、桐生の顔を一瞥する。

桐生は軽く肩をすくめた。



「報道の大御所がそんなことを気にするとは意外ですね。スポンサーは気まぐれなものでしょう?」 


「気まぐれにしては、戻り方が出来すぎている。少し気になる名前も出ているまあ、偶然だとは思うがな。」 


「気になる名前?」

桐生は微笑むが、目は笑っていない。 


「桜井恵梨香。」

松岡はその名を告げると桐生を見た。


「君は何か知っているんだろう?」


「流石に今はやり取りしてませんよ。もう彼女は大和テレビに関わるつもりもないでしょう。」 


「そうだといいがな、御前に報告するのも億劫だしな。」


 「それはそれは。」

桐生はそう言うと、紅茶を一口飲み、カップをソーサーに戻した。
そこへ、ノックの音。 


「失礼します」

玲奈の声が扉越しに聞こえる。 

桐生はゆっくりと立ち上がると、松岡に軽く会釈し、玲奈とすれ違いざまに一言。


「どうぞ、ごゆっくり」

玲奈は一瞬、桐生を訝しむように見たが、すぐに松岡へと意識を向けた。 

桐生は部屋を出ると、静かに呟く。 



「何をするつもりだ?」


桐山玲奈はスッと背を伸ばし自信に満ちた表情で松岡を視界に入れる、その様は此処がまるで自分の場所だと言わんばかりだった。

松岡はその姿を一瞬見つめ、ほうと内心感嘆する。 


「桐山玲奈くん、会えて光栄だ。」

松岡が言うと、玲奈は微笑む。 


「こちらこそ、前社長にご指名頂き光栄です。」

彼女は静かに答える。
その言葉には、今後の関係に対しての警戒が込められているように感じられた。

 松岡は少し笑みを浮かべて言う。


「堅苦しいのも駆け引きも止そう。今日は君に話が有ってきた。」

そりゃそうでしょうね、玲奈は内心を隠し微笑み、黙って松岡を見つめた。 


「君に番組を任せたい。毎週木曜日の22:00からの枠で放送する「本当の報道番組だ」」 

松岡は少しも表情を変えることなく玲奈にそう言った。


「本当の?」

それを、わざわざRePurgeの前の日にぶつける?RePurgeの現責任者の私に向かって?
なかなか、直接的な勧誘をしてくるわね。玲奈は更に警戒心を上げる。


「そうだな、しかし君はInovex所属ではない、大和テレビの社員だろう?本来Inovex管轄のRePurgeに君が関わっているのがおかしいのではないかね?」 


「それは、それは東堂社長が私を必要だと。」 



「それは、東堂が君に言ったのかね?ならばなぜ君をInovexに転属させない?」

松岡は心から不思議そうに玲奈に問いかける。


「いいぞ。」

いつぞやの東堂の言葉が玲奈の心を抉る。あんなのは冗談だ、東堂社長が私を手放すはずがない。現にあの時だってアキラが私を連れて行くのを叱ってくれたじゃないか。

そうだ東堂社長は私を頼って必要としてくださっている。
口を開こうとした玲奈の言葉はしかし、形となる前に松岡の言に散らされる。


「東堂には駒がそろっているんじゃないか?君ほどの優秀な駒、いや失礼、優秀な才能埋もれさせて置くわけにはいかんのだよ、それもいなくなる予定の男の下につけて置く余裕はね。」 


「いなくなる?東堂社長がですか!何故です!」

知らず声が高ぶる玲奈。


 「そう遠くないタイミングで東堂の解任決議案が提出される。」

松岡は玲奈に揺れろ、もっと揺れろと言葉を仕掛ける。 


何故、声にならぬ呟きが玲奈の形のいい唇を動かす。

スポンサーも少しは回復しているはず、アキラ、エリカチン、真帆のお陰で。
今の大和テレビは回復傾向が少しほんの少しだが見えてきている、それは全て東堂社長の力じゃないか。今彼を降ろすだなんて、そんなこと。 


「そんなこと!」

玲奈が松岡に手向かう。 

松岡は正面から対応はしない。 


「沢木真帆。」

玲奈の瞳が揺れる。


「知ってるかね、彼女の渾名、東堂の盾、だそうだよ。とすれば剣は誰だろうね君なのかな?」

松岡が立ち上がりコーヒーポットを持ち上げ自分のカップに注ぐ。
玲奈にも持ち上げて見せるが玲奈は反応できない。 


東堂の盾。

知っている、彼女は東堂の守護者だ、改革の先頭に立ち剣を振るう彼を守り続ける彼女は確かにそう、東堂の盾と表するに相応しいのだろう。

それに対して私?私が東堂社長の剣?そんなわけない。
剣、剣と表するならばそれはRePurgeだろう。私は精々がその鞘、否、それすらも烏滸がましい。そう、太刀持ちがいいところだろう。 


東堂には駒がそろっているんじゃないか?松岡の言葉が玲奈に絡みつく。


「君はね、大和テレビの至宝なんだよ。」


松岡が世間話をするかのように言う。


聞くな、考えるな社長を信じろ。玲奈はぎゅっと目を瞑る。


「実はね、桐山くん大和テレビ所属の君に拒否する権利などないんだ。でもね、私は君の意思でこちらに来て欲しい。

私は君の意思を尊重するよ。君が真の意味で東堂の剣となるならば。君は私の側に立つべきだ、そして学ぶといい。東堂の強さに足りない政治というものを。その時君は、東堂の真の剣になれるさ。」


尤もその頃東堂は大和テレビにはいないだろうがね、最後の言葉をコーヒーと共に飲み込んで松岡はゆっくりとソファに腰を下ろした。 


「条件があります。」

玲奈が静かに松岡を睨む。







沢木真帆がスタジオに到着すると、現場はやや乱れた雰囲気を見せていた。


スタッフたちは忙しく動きながらも、どこか不安げに顔を見合わせる。

玲奈が抜けたことで、チームのバランスが崩れているのは明らかだった。 


「大丈夫、みんな?」

真帆がスタッフに声をかけると、みんな一瞬止まり、少しほっとした様な表情を見せるがすぐにそれぞれの仕事に戻る。

真帆はその様子を見て、何かを決意し大きな声で指示を出す。


「ここからは私がやります。今日の放送が終わるまでは、一人一人が自分の役割を全うすること。それがRePurgeよ。」

真帆の言葉にスタッフたちは一瞬固まるが、すぐに気を引き締めて動き出す。


その一方、スタジオの一角では浅沼が自分のキャスター席に座っていた。

彼の目の前にはモニターと原稿が並んでいるが、彼の表情は少し暗い。普段の自信に満ちた顔つきがなく、どこか落ち着かない。

放送が始まると、浅沼はキャスターとしての役割を果たすべく頑張っているが、番組の進行が普段のリズムを欠いているのを感じている。


特にコメントやキャッチフレーズのタイミングがうまくいかず、少し気落ちした様子を見せる。


「では、次のトピックに。」

浅沼の声が少しだけ震える。普段はスムーズに進んでいくはずのフレーズも、今日はどうしてもぎこちなくなっている。

その様子をモニター越しに見ていた真帆は、しばらく黙って見守る。だが、しばらくして彼女は一言、浅沼に向かって指示を出す。 



「浅沼さん、少し待って。カメラの角度を少し変えて。」

真帆の冷静な声が響く。 浅沼は驚きながらもその指示に従い、少しだけ深呼吸して気持ちを切り替える。


「よし、切り替える。」

浅沼はそう呟きながら、再びカメラに向かって表情を引き締め、放送を続ける。


その後番組は無事に終わり、放送後のスタジオは少しだけ安堵の空気が漂っていた。
スタッフたちがそれぞれの仕事を片付け、浅沼も少し肩の力を抜いた様子でモニターを見つめている。


「はい、みんなお疲れ様。」

真帆が声をかけると、スタッフたちは一斉に顔を上げ、疲れた様子ながらもホッとした表情を浮かべる。


まだ終わったわけじゃない。 真帆はそう言いながら、自分のスマートフォンを取り出す。 彼女はSNSをチェックしながら、目を通していく。


「大体いつも通りか。でも。」

画面には、いくつかのコメントが並んでいた。





【今日、大崎ちゃん休みかあ週末の癒しがあ】 
【最近、RePurgeちょっとネタ弱くね?】 
【そりゃ、スポンサー企業様に忖度もするだろ折角ついてくれたんだから笑】 
【あ!いわれてみれば確かにCMハマグリさんじゃなかった!!】 
【忖度の一切ない報道!キリリ!!!WWW】 
【何にせよ、良かったな。】 
【大崎ちゃん引っ越しってマジ?】 
【いやいや、嘘のない善良な企業さんだって事よ。】
【でも、ホントにそういうイメージもちょっとあるぞ俺は。】


真帆は微かに笑みを浮かべながら、次々とコメントを読んでいく。


少しふざけ気味だが概ねRePurgeに好意的な意見が多い気がする。

まあ、酷いのは即ブロックしているのだが、個人アカウントなので許してほしい、公式アカウントはいつからか見ていない。

会社の備品を叩き壊すわけにはいかないのだからこれも仕方ない。


真帆がいつものように誰かに言い訳をしながらコメントを見ていると。




【大崎ちゃん引っ越しってマジ?】


毎度毎度思うけど、誰よ一体。社外秘でしょうが社外秘。


真帆は社内の情報管理に少し気を取られながらも、意識的に新RePurgeの体制づくりに意識を持っていくのだった。 





5日前






「大崎若菜を、私に下さい。」 


玲奈は松岡にそう告げた。




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