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魔女と魔術師
見知らぬ場所
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寝起きの状態から多少は思考が働くようになって、柚莉は慌てて自分の体を見下ろした。着ている服に乱れはなかったしおかしな感じはしないので大丈夫だと思うが、意識のない間に何かされていたらと考えるだけで青くなる。
いくら見惚れるほどのイケメンでも男は男。警戒するのは当然だ。
そんな慌てる柚莉を見て男は盛大にため息をついた。
「はあ……ったく手間のかかる」
男は呟くと眉間にシワを寄せた。見るからに機嫌は悪くなっている。
柚莉はそれが自分のせいだと気付かないほど鈍くはない。さすがに居心地が悪くなり、男が自分を見ていないことをいいことにそっと目をそらした。
「……え?」
そして今更ながら重大な事実に気付く。
先ほどと違い、柚莉は布団から起き上がり男から少し距離を取っているために視界が開けている。すると当然、今まで見えていなかった周りの物が目に入ってくる。
朝日が眩しいほど室内に入っていたのは知っていた。ただ単に部屋のカーテンを開けていたからだと疑いもしていなかった。
だから。
「ここ……どこ?」
慣れ親しんだ部屋ではなかった。
部屋の大きさはそう変わらないが、全くの違う部屋だ。
呆然と呟いた声が聞こえたのだろう。男がゆるりと顔を上げた。
「なんだ。気付いてなかったのか」
副音声があったなら、やっぱりバカかお前、なんて聞こえてきそうな声色である。
「あの……」
知らない場所、知らない人。
自分の部屋だと思っていたから強気になれたのだ。この場にいるべきでない人間は間違いなく柚莉の方だったと気付いてしまった。
柚莉は無意識に男から離れようとしてベッドの上を後ずさる。
「ひゃっ!」
しかしベッドはそこまで大きくなかった。
背中から床に落ちた柚莉は、衝撃に一瞬息を詰まらせた。
「……おい、大丈夫か?」
ベッドの上から覗き込む男を涙目で見上げて、柚莉は痛みを堪えながらぐっと色々なものを飲み込んだ。
「――――大丈夫、です」
柚莉の態度を見た男は、おや、といった様子で片眉を上げた。面白そうに。
「どうした?」
「あの……」
若干男の雰囲気が変わった気がしたが、柚莉はそれどころではなかった。
はっきり言って状況がわからない。
ここは男の家、なのだろうか。
もこもこしたお気に入りスエットの上下を着た自分の格好を見るに、間違いなく自分の部屋でベッドに入って寝ていたはずなのだ。移動した記憶も移動させられた記憶もない、はず――――と考えて、そういえば誰かに運ばれている夢を見ていたことを思い出した。
まさか。あれが現実だったということか。
「ここ、どこですか」
自分で移動した覚えがないのなら、寝ている間に拉致されたと考えるのが妥当なのだろう。しかし柚莉には拉致する価値などないに等しい。
家族はサラリーマンの父親に、ふたつ年下の双子の弟たちのみ。母親は柚莉が幼い頃に亡くなった。両親ともに庶民以外の何者でもなく営利誘拐は全く考えられない。
柚莉自身は平凡の範疇に入る容姿と性格で、学校でもその他大勢の一般生徒とひとくくりにされていた存在だ。価値を見つける方が難しいだろう。
誰かに間違えられた可能性もあるが、状況から見てその確率は低いように思われた。
しかしいつまでも現実から目をそらすことは出来ない。
まずは状況把握をしなければ、と唯一の手掛かりである黙ったままの男に対し柚莉は質問を重ねた。
「あなた、誰?」
いくら見惚れるほどのイケメンでも男は男。警戒するのは当然だ。
そんな慌てる柚莉を見て男は盛大にため息をついた。
「はあ……ったく手間のかかる」
男は呟くと眉間にシワを寄せた。見るからに機嫌は悪くなっている。
柚莉はそれが自分のせいだと気付かないほど鈍くはない。さすがに居心地が悪くなり、男が自分を見ていないことをいいことにそっと目をそらした。
「……え?」
そして今更ながら重大な事実に気付く。
先ほどと違い、柚莉は布団から起き上がり男から少し距離を取っているために視界が開けている。すると当然、今まで見えていなかった周りの物が目に入ってくる。
朝日が眩しいほど室内に入っていたのは知っていた。ただ単に部屋のカーテンを開けていたからだと疑いもしていなかった。
だから。
「ここ……どこ?」
慣れ親しんだ部屋ではなかった。
部屋の大きさはそう変わらないが、全くの違う部屋だ。
呆然と呟いた声が聞こえたのだろう。男がゆるりと顔を上げた。
「なんだ。気付いてなかったのか」
副音声があったなら、やっぱりバカかお前、なんて聞こえてきそうな声色である。
「あの……」
知らない場所、知らない人。
自分の部屋だと思っていたから強気になれたのだ。この場にいるべきでない人間は間違いなく柚莉の方だったと気付いてしまった。
柚莉は無意識に男から離れようとしてベッドの上を後ずさる。
「ひゃっ!」
しかしベッドはそこまで大きくなかった。
背中から床に落ちた柚莉は、衝撃に一瞬息を詰まらせた。
「……おい、大丈夫か?」
ベッドの上から覗き込む男を涙目で見上げて、柚莉は痛みを堪えながらぐっと色々なものを飲み込んだ。
「――――大丈夫、です」
柚莉の態度を見た男は、おや、といった様子で片眉を上げた。面白そうに。
「どうした?」
「あの……」
若干男の雰囲気が変わった気がしたが、柚莉はそれどころではなかった。
はっきり言って状況がわからない。
ここは男の家、なのだろうか。
もこもこしたお気に入りスエットの上下を着た自分の格好を見るに、間違いなく自分の部屋でベッドに入って寝ていたはずなのだ。移動した記憶も移動させられた記憶もない、はず――――と考えて、そういえば誰かに運ばれている夢を見ていたことを思い出した。
まさか。あれが現実だったということか。
「ここ、どこですか」
自分で移動した覚えがないのなら、寝ている間に拉致されたと考えるのが妥当なのだろう。しかし柚莉には拉致する価値などないに等しい。
家族はサラリーマンの父親に、ふたつ年下の双子の弟たちのみ。母親は柚莉が幼い頃に亡くなった。両親ともに庶民以外の何者でもなく営利誘拐は全く考えられない。
柚莉自身は平凡の範疇に入る容姿と性格で、学校でもその他大勢の一般生徒とひとくくりにされていた存在だ。価値を見つける方が難しいだろう。
誰かに間違えられた可能性もあるが、状況から見てその確率は低いように思われた。
しかしいつまでも現実から目をそらすことは出来ない。
まずは状況把握をしなければ、と唯一の手掛かりである黙ったままの男に対し柚莉は質問を重ねた。
「あなた、誰?」
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