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魔女と魔術師
理不尽は理不尽
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柚莉は近寄ろうとした男を言葉で押しとどめた。
納得したのか、男はまたベッドに座ったようだ。ぎしりとベッドが軋む音が聞こえた。
だがしかし。その場にいるということは、彼の目の前で着替えなければならないということだ。席を外す気配もない男に外すよう言うべきかと考えるが、人質扱いで信用の置けない人物から目を離すことはできないのだろうと諦める。
まあ後ろを向いていれば見えないし丸裸になるつもりはないので平気かと、柚莉は男の視線を感じながらもスエットの上を脱いだ。
柚莉は素早くタンクトップの上からシャツをかぶり、目測通りその丈が膝上にあるのを確認してから、ズボンを履きかえた。
丈が長いシャツのおかげで、男にお尻を見せる羽目にならずにすんだ。
これで全てかと見回せば、テーブルの下にある焦げ茶のショートブーツが目に入る。
男もブーツを履いていたし、ここは部屋の中でも土足でいいのだろうとそれを履く。残念ながら靴下はなかった。
微妙に大きいが用意をされていただけましだ。さすがに裸足は遠慮したい。
服も大きめだった。ズボンは紐で締めるようになっていたので落ちはしないが、かなり全体的にダボっとした感じに仕上がった。
ぴったり肌に密着する服でなかったことは、下着を付けていない柚莉にとって不幸中の幸いである。
こんなものだろうかとスエットを手に振り返れば、男が手を差し出していた。
「え?」
「渡せ」
脱いだスエットを言っているのだと気付いた柚莉は、逆らわずそれを恐る恐る差し出した。
男の手に渡った瞬間、それは大きな炎となった。
「え?! 嘘っ!」
火の気なんてなかったはずだ。いきなり燃え上がったスエットを柚莉は呆然と見つめる。
「こんなもんか」
「なんで火が……てゆうか、私の服が!」
火は燃え広がることなく、男の手のひらの上で小さくなって消えた。
間違いなく自らの手の上で火がついていたというのに、男は熱さを感じている様子もない。
「気に入ってたのに」
「証拠を残すわけにはいかない。行くぞ」
男はそれだけ言うと、表情を変えることなく扉へと向かった。
この調子ではまだ説明はしてもらえそうにない。しかしついていくしか選択肢のない柚莉は男の後に続いて部屋を後にした。
部屋を出ると目の前に小さな台所があった。
食事をするのかと思えば素通りで外に出てしまう。
近くに建物らしきものはない。そこは例えるなら、森の中のちょっと拓けた場所に建つ小屋、だろうか。
「トイレに行きたいなら裏、手や顔を洗うならそこに水瓶がある。逃げようと思っているのならやめたほうがいい。獣や魔物に襲われて死にたい、というのなら止めはしないが」
恐ろしいことをさらりと言われ、柚莉は無言で首を縦に振った。
魔物って何? とか獣に襲われる前にその剣で殺されるよね、とか色々言いたいことや聞きたいことはあったが、柚莉は口を開かなかった。いい加減学んだ。
起きたばかりでトイレも行きたかったし、顔も洗いたい。
色々と面倒な予感を感じさせる未来を考えるより、今は目の前の現実である。柚莉は小屋の裏へと小走りで向かった。
納得したのか、男はまたベッドに座ったようだ。ぎしりとベッドが軋む音が聞こえた。
だがしかし。その場にいるということは、彼の目の前で着替えなければならないということだ。席を外す気配もない男に外すよう言うべきかと考えるが、人質扱いで信用の置けない人物から目を離すことはできないのだろうと諦める。
まあ後ろを向いていれば見えないし丸裸になるつもりはないので平気かと、柚莉は男の視線を感じながらもスエットの上を脱いだ。
柚莉は素早くタンクトップの上からシャツをかぶり、目測通りその丈が膝上にあるのを確認してから、ズボンを履きかえた。
丈が長いシャツのおかげで、男にお尻を見せる羽目にならずにすんだ。
これで全てかと見回せば、テーブルの下にある焦げ茶のショートブーツが目に入る。
男もブーツを履いていたし、ここは部屋の中でも土足でいいのだろうとそれを履く。残念ながら靴下はなかった。
微妙に大きいが用意をされていただけましだ。さすがに裸足は遠慮したい。
服も大きめだった。ズボンは紐で締めるようになっていたので落ちはしないが、かなり全体的にダボっとした感じに仕上がった。
ぴったり肌に密着する服でなかったことは、下着を付けていない柚莉にとって不幸中の幸いである。
こんなものだろうかとスエットを手に振り返れば、男が手を差し出していた。
「え?」
「渡せ」
脱いだスエットを言っているのだと気付いた柚莉は、逆らわずそれを恐る恐る差し出した。
男の手に渡った瞬間、それは大きな炎となった。
「え?! 嘘っ!」
火の気なんてなかったはずだ。いきなり燃え上がったスエットを柚莉は呆然と見つめる。
「こんなもんか」
「なんで火が……てゆうか、私の服が!」
火は燃え広がることなく、男の手のひらの上で小さくなって消えた。
間違いなく自らの手の上で火がついていたというのに、男は熱さを感じている様子もない。
「気に入ってたのに」
「証拠を残すわけにはいかない。行くぞ」
男はそれだけ言うと、表情を変えることなく扉へと向かった。
この調子ではまだ説明はしてもらえそうにない。しかしついていくしか選択肢のない柚莉は男の後に続いて部屋を後にした。
部屋を出ると目の前に小さな台所があった。
食事をするのかと思えば素通りで外に出てしまう。
近くに建物らしきものはない。そこは例えるなら、森の中のちょっと拓けた場所に建つ小屋、だろうか。
「トイレに行きたいなら裏、手や顔を洗うならそこに水瓶がある。逃げようと思っているのならやめたほうがいい。獣や魔物に襲われて死にたい、というのなら止めはしないが」
恐ろしいことをさらりと言われ、柚莉は無言で首を縦に振った。
魔物って何? とか獣に襲われる前にその剣で殺されるよね、とか色々言いたいことや聞きたいことはあったが、柚莉は口を開かなかった。いい加減学んだ。
起きたばかりでトイレも行きたかったし、顔も洗いたい。
色々と面倒な予感を感じさせる未来を考えるより、今は目の前の現実である。柚莉は小屋の裏へと小走りで向かった。
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