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魔女と魔術師
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(あれ? 今、目をそらされた?)
その反応はどう考えてもおかしいだろう。柚莉が求めたのは単に喉を潤すための水だ。無理難題を言って困らせているわけじゃない。
しかもトゥーレアスはさりげなく目をそらした後、何か考え込んでいるようにも見える。
「トゥーレアス?」
「……ああ、悪い。すぐに用意する」
トゥーレアスははっとしたように取り繕うと、正面に向き直り自分の片手を柚莉の前に差し出した。その手の上には何もない。
しかし柚莉が瞬きひとつする間に、そこにテニスボールくらいの大きさの球体が現れる。
手のひらから数センチ浮いた状態の、水の塊。
「え、嘘。すごい……!」
言われなくてもわかる。これは魔法で生み出したものだ。
服を燃やされた時もベアーを倒した時もトゥーレアスは魔法を使っていた。驚きやら恐怖やらで柚莉はじっくりはっきり見てはいないが。
しかし今回は違う。柚莉は間近で見る魔法のそれに興味津々で身を乗り出した。
「水は不得手なんだ」
残念そうに言うが、リクエストに答えて水を出してくれたのだから感謝をしても文句を言うはずがないだろうに。
「これ飲めるのよね? どうやって飲むの? 入れる物とかない?」
軽く指でさわると水そのものではなく、薄い膜に触れている感触がした。簡単に壊れないようにしているのかこのまま飲むのは難しい気がした。コップ、せめて皿や鍋でもあればと問いかけた。
「入れる物は持っていない。少し力を入れれば中の水に触れることができるしそのまま飲むこともできる。しばらく形を保つように作ってあるから好きなだけ飲め」
なんだか不機嫌そうに言われる。
だがこのまま飲めと言われても、口に入る大きさではなかった。両手が空いている状態なら手ですくって飲むことも出来るが、パンはともかく肉は放置できない。
これに吸いついて飲むしかないのかと思いかけて、ふと思い出す。
意識が曖昧な時だったが、確かに水を飲まされた記憶がある。あれは現実のはずだ。
「倒れた時はちゃんと飲ませてくれた、よね? どうやってかわかんないけど、同じようにできないの?」
「なっ……あれはっ! お前に意識がないから仕方なくやっただけだ! 出来るかバカ!」
「えっ?」
「……っ、いいから食べておけ! 周りを見てくる」
トゥーレアスは水の塊を柚莉に押し付けると勢いよく立ち上がり背を向けた。そのまま大股で歩いて離れる。
振り向きもせず言われたその声が、今まで聞いた中で一番焦っていたように聞こえたのは気のせいではないだろう。
その反応はどう考えてもおかしいだろう。柚莉が求めたのは単に喉を潤すための水だ。無理難題を言って困らせているわけじゃない。
しかもトゥーレアスはさりげなく目をそらした後、何か考え込んでいるようにも見える。
「トゥーレアス?」
「……ああ、悪い。すぐに用意する」
トゥーレアスははっとしたように取り繕うと、正面に向き直り自分の片手を柚莉の前に差し出した。その手の上には何もない。
しかし柚莉が瞬きひとつする間に、そこにテニスボールくらいの大きさの球体が現れる。
手のひらから数センチ浮いた状態の、水の塊。
「え、嘘。すごい……!」
言われなくてもわかる。これは魔法で生み出したものだ。
服を燃やされた時もベアーを倒した時もトゥーレアスは魔法を使っていた。驚きやら恐怖やらで柚莉はじっくりはっきり見てはいないが。
しかし今回は違う。柚莉は間近で見る魔法のそれに興味津々で身を乗り出した。
「水は不得手なんだ」
残念そうに言うが、リクエストに答えて水を出してくれたのだから感謝をしても文句を言うはずがないだろうに。
「これ飲めるのよね? どうやって飲むの? 入れる物とかない?」
軽く指でさわると水そのものではなく、薄い膜に触れている感触がした。簡単に壊れないようにしているのかこのまま飲むのは難しい気がした。コップ、せめて皿や鍋でもあればと問いかけた。
「入れる物は持っていない。少し力を入れれば中の水に触れることができるしそのまま飲むこともできる。しばらく形を保つように作ってあるから好きなだけ飲め」
なんだか不機嫌そうに言われる。
だがこのまま飲めと言われても、口に入る大きさではなかった。両手が空いている状態なら手ですくって飲むことも出来るが、パンはともかく肉は放置できない。
これに吸いついて飲むしかないのかと思いかけて、ふと思い出す。
意識が曖昧な時だったが、確かに水を飲まされた記憶がある。あれは現実のはずだ。
「倒れた時はちゃんと飲ませてくれた、よね? どうやってかわかんないけど、同じようにできないの?」
「なっ……あれはっ! お前に意識がないから仕方なくやっただけだ! 出来るかバカ!」
「えっ?」
「……っ、いいから食べておけ! 周りを見てくる」
トゥーレアスは水の塊を柚莉に押し付けると勢いよく立ち上がり背を向けた。そのまま大股で歩いて離れる。
振り向きもせず言われたその声が、今まで聞いた中で一番焦っていたように聞こえたのは気のせいではないだろう。
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