魔女はお呼びではありません

白身

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魔女と魔術師

ふたりの関係

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 もぞりと体を動かせば、見覚えのない布が自分の上から音もたてずに滑り落ちる。

「……あれ? 朝?」

 うっすらと開いた目に入ってくる光は、直射でない分穏やかなものである。上空や辺りにひしめく木々や葉が、眩しいはずの日差しを遮っているのだろう。
 考え込んでいたはずが、いつの間に寝入ってしまったのか。
 柚莉は落胆の気持ちを隠せずにため息をこぼした。

 確かに体はへとへとで休息を求めていた。しかし気分は最悪で、心穏やかに眠れる状態ではなかったと言っていい。
 寝たふりをして次の対策を立てようといろいろと考えていたのだが、どうやら途中で睡魔に負けてしまったようだ。

「起きたか」

 のろのろと上半身を起こすと、背後から声をかけられてびくりと肩を揺らす。

「あ……お、おはよう」
「ああ。よく眠れたか?」

 気まずい思いをしている柚莉とは違い、トゥーレアスは何事もなかったかのように話しかけてくる。
 柚莉は小さく頷き返し、ゆっくりと座り直した。たったそれだけの動作で体全体に鈍い痛みが走る。 
 草が生えていたとはいえ地面の上に直接寝ていたせいだろう。歩き通しで酷使した足もすでに筋肉痛だ。

「あの、これ……」

 体にかけられていたと思われる布を柚莉はそっと持ち上げた。少し厚手のしっかりとした生地で、着ている服とは作りが違う。
 トゥーレアスはちらりとそれに視線を向けた。

「ああ。そのマントはユーリ用だ。着ていろ。朝は冷える」
「…………ありがとう」

 言われれば若干肌寒さを自覚する。柚莉は遠慮なくマントを身にまとった。
 寝ている間、柚莉は着の身着のままでいたにもかかわらず特に寒いとは感じなかった。もしかしてトゥーレアスがマントを布団がわりにかけてくれていたのか。

(冷たいんだか、優しいんだか)

 昨夜の発言はどうかと思うが、一応はこのまま同行者として扱ってくれるようである。
 しかし。トゥーレアスの態度はどうもおかしい。
 気のせいかもしれないが、柚莉の扱いに戸惑っているように見えた。
 柚莉を喚んだのはトゥーレアスで、喚ばれた理由も聞いた。その理由を疑う訳ではないが、召喚自体オリジナルだと言っていたし、かなりの準備と労力を必要としたはずである。

 それなのにどうして。
 なにより追い立てられるように移動する必要があるのだろうか。最初から誰にも見つからない場所に召喚なり転移なりしておけばよかったはずだ。

(何か隠してる?)

 柚莉はトゥーレアスをちらりと横目で見る。彼が全てを話してくれているとは思っていない。信用していないのはお互い様なのだから。
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