魔女はお呼びではありません

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魔女と魔術師

面倒なもの

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 青い瞳が柚莉を捉える。
 いたたまれない。
 そんな目で見ないで下さい不可抗力だったんです、と柚莉は心の中だけで言い訳をした。
 一方のトゥーレアスも何か言いたげに何度か口を開け閉めしていたが、結局、何も言わずに黙り込んでしまった。
 ふたりの間に落ちた沈黙がなんとも気まずく、柚莉は合わせていた視線をそっと外した。

 思い返しても柚莉に落ち度はなかった、と思うのだ。あの男を簡単に信用しそうになったのは別にして、同行することは拒否したし抵抗もした。
 でも。真正面から彼の目を見返せないのは罪悪感なりうしろめたさを感じているからだと気づいている。一瞬でもトゥーレアスから逃げようと考えたのは事実だから。

「立てるか?」

 ため息と共に落ちてくる言葉に柚莉はふるりと首を横に振った。

「……ムリ」
「……」
「これ、つけられてから立てないの」

 何も言わないトゥーレアスに、説明不足だったと柚莉は慌てて言葉を継ぎ足した。枷のはめられた手首を前に突き出して見せると彼の目が少し見開かれる。

「これは……」

 トゥーレアスは枷を避けるように柚莉の腕を取った。

「あの男が?」
「うん」
「また面倒なものを……」

 手枷をじっくり見ていたトゥーレアスがそれから目を離さないままぼそりと呟く。

「面倒?」
「このタイプはつけた本人にしか外せないように出来ている。しかも魔術師用の魔力を通すタイプだ。厄介だな」

 そう言ってトゥーレアスは意識のない男の方を見た。
 ダメージが大きかったのか、気絶した男はピクリとも動かない。

(え? 嘘。まさか死んでるなんて言わないよね?)

 その時点になって、やっと男の様子に思い至り柚莉は青くなった。
 最初に獣が死ぬところを見た時、動揺はしたもののなんとか耐えられた。魔物もしかり。しかし人はだめだ。
 獣や魔物の時でさえ、理由をつけてなんとか自分を納得させたくらいである。
 原因の一端が自分にあり、明らかに相手が悪いと断言できたとしても、相手は人間である。容易く殺していいはずがない。

「死んでる、の?」
「さっきから何を気にしているのかと思えばそんな事か」
「そんな事?」

 信じられない言葉を発したトゥーレアスに、血の気が引いた顔を向ける。

「人が死んでるかもしれないのに、そんな事ってどうなのよ!」
「死んではいない。骨は何本か折れているだろうが、命にかかわる怪我ではない」

 トゥーレアスは相変わらず淡々と、事実だけを告げる。

「それでもっ」
「お前は、何もわかっていない」
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