わたしには推しがいる

白身

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友人

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彼女とは小学校時代からの友人だった。

女の私から見ても守りたくなるような小柄で可愛らしい容姿をしている彼女は、昔からそれなりにモテていた。
けれど残念な彼女はそのことに気付いていない。
そう。彼女は外見とは裏腹に、中身が残念な子だった。
興味があるのは、本と数少ない友人たちくらい。
外見に無頓着という訳ではないのだが、自分が男性からどう見られているのかあまり意識していない。
小柄と言われる身長に小さな顔、くるりと大きな目。鼻筋は通っていて全体的に整っている顔。まっすぐなストレートの黒髪。色白の肌。
実のところ、色白なのは外出が面倒だとほとんど室内にいるためで、髪も癖がないからと手を入れず伸ばしっぱなしなだけ。面倒くさいが口癖のぐうたら娘だ。
いつも本をキラキラした目を向けている。地味な私は、そんな彼女の横だから居心地が好かったのかもしれない。

そんな彼女に気になる男子生徒が出来た。
正直言って、ちょっとびっくりした。
高校に入学してすぐ、いや、どうやら入学式で一目ぼれしたらしい。
しかし、どうやら恋愛方面でも彼女はポンコツらしかった。見ているだけで良い、推しだと言い出した。
そして妙に積極的になって彼のことを調べ始めたのだ。肝心の彼の名前がわかるまで数日かかった時、目が座ってとても怖かったのを覚えている。

彼女は結構思い込んだら一直線なのだ。
そのくせ、片思いしているのにそれを認めようとしない。見ているだけで良いなんてそんなことはないはずだ。
まあ、彼女が自覚するまで見守るしかないのだろう。その目が生暖かくなるのは見逃してほしい。ほんと何をやっているんだと保護者のような目になってしまうけれど。

彼女の様子がおかしくなったのは、そんな日々が続いたある日のことだった。
いやもう見るからにおかしい。
片思い、もとい推しの彼と何かあったのかと聞くと、どうやら彼が女子と楽しそうに話をしている所を見かけたのだそうだ。
やっと自覚したのかな、と告白をしてみればと促すも涙目で拒否られた。
うーん、まあ話したことない間柄なら難しいよね。一方的に知っている関係なだけだし。相手に認識してもらっていないならなおさら。
しかしそれで何か発展するかと思いきや、逆に彼と距離を取り始めた時は、本気で愕然とした。
え、そうくるの?
ストーカー予備軍だった彼女が、それきり彼との接触を避けるようになった。
あれー?
 
元気のなくなった彼女を慰めていると、ふと視線を感じることが増えた。
気のせいかと思えば、そうでもないらしい。今まで見かけなかった姿を教室で見かけるようになったのだ。
へー、びっくりだ。ストーカー行為も無駄ではなかったようである。
そうとは知らない彼女は、彼の姿を見かけると慌てて逃げ出すようになった。
なにこれ面白い。
追う者と追われる者。いつの間にか逆転しているとは。
それよりも彼が彼女を意識していたとはなんという偶然。話をしたこともない者同士なのに、どこの少女漫画だ。
彼女と違い、彼は見ているだけでは終わらせる気はなさそうだった。


近いうち、彼女の幸せそうな顔を見ることが出来そうである。
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