うちの勇者が、どうしようもなくクズな件

猫山亭 灰色

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部活顧問な勇者

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 ベッドに横たわって泣いている少年と、そのすぐそばで立ち尽くす勇者。

「下倉、そんなに気を落とすな。失敗ってのは、誰にだってあるんだ。」
「勇者コーチ・・・。でも、もう、あの高校の推薦は取れないんですよね?」
「うん。絶対に無理だね。」
「軽いな! 即答かよ! そこは無理は承知で、もっと間を取ってよ!」

「無理なものは無理だって。もう少し大人になったらわかる。俺だって、今までいろんなものをあきらめてきたんだ。」
「・・・例えば?」
「一番、残念だったのはあれだな、この間の合コンで、」
「合コン?」
「かなり気に入った子がいたんだけど、どうしてもって言うから、その子の隣の席を、数学の山下先生に譲ったら、10分くらいで即お持ち帰りされちゃってな・・・。しかも次の日、二人でベッドで寝転んでる写真とか見せびらかされたんだぞ。ふざけんなよ、山下。」
「おい! それは失意の教え子に対して言うことか? あと俺からの質問と趣旨が変わってんだけど!」
「え? 『あきらめた話あるある』だろ? 合コンのときに一番座りたかった席をあきらめたっていう、」
「違うよ、馬鹿! もうちょっと、何かこうあるだろ!」
「え、何が?」
「わかんないのかよ! だから人生においてどうしても努力したけど、勝てなかったライバルとか怪我での挫折とかないの? 勇者なんでしょ!?」
「ん~。お前が何を言いたいのかが、理解できん。」
「何でだよ? 何か間違ったこと聞いてるか、俺!?」

「本格的な挫折ってのがよくわかんないんだよな。ここまで何となく勇者ということで、ずっと生きてきたから。」
「負けたことはないってこと?」
「元々が誰とも勝負してないしな。初めから戦いにならなければ負けないだろ?」
「部活は?」
「部活っていうか、もともとが勇者だしな。」
「それで何で今、バスケ部のコーチをやってるの?」
「そうそう! そこだよ! 俺も嫌なんだよ。でも非常勤講師には、顧問の選択権が無いっていうからさ。俺だって女子バスケの顧問とかがよかったよ。」

「何で?」
「そりゃあ女子中学生は生きてるだけで、男子中学生の200倍くらい、尊い生き物だからな。」
「どういうことだよ、それ?」
「男子中学生のほうが好きなのは、うちの中学だと、教頭先生くらいかな。」
「教頭っておっさんじゃん!」
「愛には、色々な形があるから・・・。」
「かっこつけんなよ。」

「これはみんなには秘密にしておいてほしいんだけど・・・。実はいまだにバスケのルールもよく理解できてないし。」
「それだけは覚えとけよ! 割と試合中に指示出してたじゃん。」
「あれは適当にだな、試合相手の監督のリアクションを真似てただけだ。」
「・・・そうなの?」
「そうだよ。だってほら、俺は『速攻』か『じっくり』しか指示してないもの。」
「他にも色々と叫んでなかった?」
「ほら、雰囲気だけでね。」
「何てやつだ・・・。」

「これは覚えておいた方がいい。空気が読めるのは大事だ。」
「・・・それについては了解。」
「お前もこれからは高校受験に向けて、がんばって勉強しないといけないしな。さぼってる暇はないぞ。お前の戦いはこれからだ!」
「一巻で打ち切り!?」

「・・・やっぱりバスケで推薦はもらえないかな?」
「・・・ダメだろ。だってうちのチームは万年一回戦負けだし、お前はその中でも万年補欠じゃん。しかも無駄に、怪我してるし。」
「無駄って!」
「スポドリを取りに行かせたら、階段から落ちてるんだもん。」
「・・・。」
「無駄だろ?」

「・・・俺は補欠じゃないです。」
「補欠じゃん!」
「今風に、シックスマンと言ってください。」
「それはうちには部員が6人しかいないからだろ? もっといたらお前、エイトマンとかになってたかもしれないし。あはは。」
「もうちょっと、身長があったら俺はレギュラーになれたよ、きっと。」
「お前、身長だけはチームで一番高いじゃん! でも補欠なんだから現実を見ろ! 地に足をつけて生きろって。」
「お前にだけは言われたくない!」

 
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