六芒星が頂に~星天に掲げよ! 二つ剣ノ銀杏紋~

嶋森航

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内政改革② 販売戦略

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「失礼します。父上、少しお時間をいただけますでしょうか?」

評定の間にいた父と譜代の家臣たちは、突然現れた俺に怪訝な表情を覗かせている。

「淀峰丸か。評定は終わったところだが、何用だ?」

「以前に洗濯板をお見せした際に申し上げたとおり、別の新たな道具を作りましたので、お見せしたいのです。庭に運びましたので、ぜひご覧ください。勘兵衛」

既に洗濯板を発明し、椎茸の人工栽培の件も父には相談しているため、さすがにもう慣れたのか、父はあまり驚いた様子はなかった。

俺が勘兵衛に声を掛けると、庭に面した板障子が開かれ、庭の中央に置かれた千歯扱きと唐箕が姿を現した。

「ほぅ、随分と大きな道具だな。淀峰丸、それは何に使う代物なのだ?」

だが、予想とは違い、洗濯板よりもかなり大きな道具で意外だったのだろう。千歯扱きと唐箕を見た父は、感服したような声を上げながらも表情には若干の困惑の色を見せていた。一方、他の家臣たちは8歳の子供が作った謎の道具に、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。

「どちらも米を収穫した後に使う脱穀用の農具にございます。右の道具は千歯扱き、左は唐箕という道具にございます。昨年の秋に脱穀の作業に大変手間が掛かっている様子を見掛け、領民をもっと楽にさせたいと考え、それらを思い付いた次第にございます」

「ほぅ? 淀峰丸、屋敷の外に出るのを許したのは今年からのはずだが、昨年の秋に外出する機会があったか?」

しまった! 勘兵衛に無理を言って、父が不在の時に内緒で外出し、領内を見て廻ったのがバレてしまった。仕方ない。ここは素直に謝ろう。

「申し訳ございません。豊作だと聞いて民の喜ぶ様子が見たくなり、一度だけ父上の言いつけを破って外出してしまいました……」

「ふっ、まぁ良いわ。ところで、それらの使い方を説明してくれるか?」

「はい。では勘兵衛、まずは千歯扱きを使ってみせてくれ」

「はっ」

俺の指示で、勘兵衛は千歯扱きの足置きを踏むと、確保しておいた稲穂の束を櫛の歯に叩きつけて手前に引いた。すると、綺麗に扱き取られた籾が筵の上に落ちた。

「このように稲束を櫛の歯のところに挟み込んで引き抜く。これだけの作業で簡単に脱穀ができます。女や老人のような力の無い者でも容易に扱うことができます」

「「おおぉー」」

勘兵衛の実演を見せながら俺が説明すると、家臣たちは口々に感嘆した声を漏らした。

「次に唐箕ですが、唐箕は籾殻と玄米を選別するための道具で、2人で扱います。唐箕の箱の中には風車があります。その風車を回して風を起こし、軽い籾殻を側面から吹き飛ばして、重い玄米は下に落ちるという仕組みです。では、使ってみせてくれ」

勘兵衛の嫡男の兼清丸(けんせいまる)が呼ばれ、兼清丸が唐箕の側面に付いた取手を握ると、ゆっくりと回し始める。そして、勘兵衛が籾殻と玄米の混ざった籾を上から唐箕の中に少しずつ入れていく。すると、側面に空いた穴から籾殻や塵が吹き飛ばされ、玄米は下の穴から筵の上に落ちた。

「「なんと、これは凄い!」」

その様子を見た面々は、一様に賛嘆の声を上げて顔を合わせた。

「ほぅ、確かにこれならば誰でも容易に扱え、格段に作業が楽になるな。淀峰丸、よくぞ考え出したな。褒めて遣わすぞ」

「ありがとうございます」

前世の知識で作っただけで、俺の発明ではないのだが、もちろん黙っておく。

「それで、淀峰丸はこの千歯扱きと唐箕をどうしたいと考えておるのだ?」

「はい。領内で使うだけでなく、洗濯板と同じように寺倉家の家紋を焼印で押して他国にも売り出し、ゆくゆくは寺倉家の名を日ノ本中に広めたいと考えております」

評定の後も留まっている家臣たちは、俺の言葉に目を見開いていた。

「そうか。だが、洗濯板と同じく、いずれは真似されるぞ?」

「はい。1年目は売れても、2年目からは真似されるのは明白ゆえ、今年の秋は領内だけで使います。そして、洗濯板で稼いだ資金を使って、冬の間に洗濯板と同じように領民たちに手伝わせて大量に作り、来年の春から一斉に売り出し、1年目にできるだけ稼ぎたいと考えております。1年目で当家の本物が大量に広まれば、洗濯板に続いて千歯扱きや唐箕を作ったのも寺倉家だというのは、周知の事実となりましょう」

父の言うとおり今年は売れたとしても、来年には間違いなく模倣品が出回るだろう。そこで、今年の市場販売は見送り、来年に大量に市場投入して先行者利益を獲得し、寺倉家の信用と知名度を上げるのだ。

「それと、千歯扱きは外観を見ただけでも真似できますが、唐箕は箱の中が見えないので、すぐには真似しにくいと思います。そこで、唐箕だけが売れて、千歯扱きが売れ残るのを防ぐため、来年売り出す際には千歯扱きと唐箕を一組にして売ろうと考えていますが、いかがでしょうか?」

抱き合わせ販売は現代では独占禁止法違反だが、この時代では全く問題ない。主家である六角家は既に楽市令を出しており、俺も当主になった将来は領内で自由な商いを認めるつもりだが、俺が発明した新商品は専売に指定する予定だ。前世でも塩やタバコは国の専売だった時期もあるからな。

「うむ。良く分かった。まずは領内で使うための分を作るが良い。洗濯板で稼いだ資金で足りなければ援助してやろう。だが、この農具が普及すれば少し問題もあるぞ?」

探りを入れるかのような父の問いに、俺は間髪入れずに答える。

「はい。脱穀は女や老人の仕事だと聞いております。千歯扱きを使うことにより脱穀作業が早く終わると、女や老人から食い扶持を奪ってしまうことになります。したがって、余った人手を使って来年販売する千歯扱きや唐箕を作らせたり、他にも新たな産業を興していきたいと考えています。その案が浮かびましたら、また父上にご相談させていただきたいと思います」

そう、特に千歯扱きの普及は良いことばかりではないのだ。俺が話した内容は予め練っていたものだが、父はともかく、大半の家臣たちは追いつけていない様子だった。もう少し丁寧に解説すべきだったか。

「ほぅ、そこまで気付いておったか。淀峰丸がそこまで分かっておるのならば、儂はもう何も言うことはない。後は任せたぞ。淀峰丸のことは良い意味で末恐ろしく感じておったが、儂の目に狂いはなかったようだ。これで寺倉家の次代も安泰だな。はっはっは」

そう言って笑い声を上げる父だったが、その目には喜びと寂寥の色が見えていた。我が子の成長は喜ばしい反面、寂しさもあるのだろう。

「それにしても、一体どうすれば左様なことを思い付くのだ?」

「そ、それは……書庫で明の書物などを読んでいる時に、ふと頭に浮かんだのです」

父の探るような視線と、家臣から浴びせられる尊敬の眼差しを感じて、俺は「あはは」と茶を濁すほかなかった。
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