六芒星が頂に~星天に掲げよ! 二つ剣ノ銀杏紋~

嶋森航

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内政改革⑤ 椎茸と灰吹法

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「藤次郎。独占販売は商人にとっては確かに得かも知れぬが、領地を治める武士や領民にとっては必ずしも良いことではない」

「はっ、それは如何なる意味で?」

「座が市場を独占すれば、商人が互いに競争して良い品を安く売ろうとしなくなる。それでは領地は大きな発展が期待できぬし、領民は粗悪な品や高い品を買わされることになる。違うか?」

「……なるほど。淀峰丸さまは領地や領民のことまで考えておられたのですな。それにひきかえ、私は商人の目先の銭を儲ける浅はかな考えしかできず、誠に恥ずかしい限りにございます。この西尾藤次郎、感服致しました」

そう言うと、藤次郎は俺に向かって平伏した。

「いや、私のような考えをする者はごく僅かで、藤次郎のような考え方が当たり前だ。だが、私はこの寺倉郷を、ゆくゆくは近江随一の商売の町にしたいと考えているのだ」

俺は何も根拠もなしに夢のような話を壮言大語している訳ではない。寺倉郷は南北に通る街道が南の八風街道と繋がっており、西の京だけでなく、南の伊勢や東の美濃、尾張との交易も可能な立地にある。交通に不便な山間だからと言って、必ずしも商業に適していないという訳ではなく、将来大きく発展するポテンシャルを秘めているのだ。

「淀峰丸さまがそこまで大きな志を抱いておられるのであれば、微力ながら私も手伝わせていただきます」

俺の夢を聞いて顔を上げた藤次郎は、商人ではなく、仕えるべき主君を見つけた武士の顔をしていた。



◇◇◇



収穫の秋を迎えた。

堺では千歯扱きと唐箕は全国から買いに来た商人たちに爆発的に売れ、8月には1000組が見事に完売して大きな利益を上げた。西国や東国では今ごろ、千歯扱きと唐箕を持ち帰った商人がコピー作りを始めている頃だろうな。

一方、俺は10月上旬のある日、屋敷の裏庭にある椎茸小屋に足を運んだ。そう、原木に種菌を植え付けてから1年半が経過したのだ。

「こっ、これは全部、椎茸でございまするか!?」

勘兵衛は原木に千近い数の椎茸が収穫できるまでに育っているのを見て絶句していた。俺は表情を変えることなく告げる。

「そうだ。これを干して寺社や公家に売れば大儲けできるだろう。だが、椎茸栽培は絶対に他家に知られてはならない門外不出の秘法だ。よって、今後は親族衆の中で最も信頼の置ける箕田家に椎茸栽培を任せたい。勘兵衛、頼んだぞ」

「ははっ、畏まりました。身命を賭して淀峰丸さまのご期待に沿えるよう努めまする」

勘兵衛は俺から重要な仕事を任されたことに感激した様子で平伏した。



◇◇◇




11月中旬、俺は寺倉家の御用商人とも言える木原十蔵を屋敷に呼んだ。

「十蔵、突然呼び出して済まないな」

「いえいえ、滅相もございませぬ。淀峰丸さまには洗濯板や千歯扱き、唐箕で儲けさせていただいております故、何なりとお命じください。それで本日はどのようなご用件でございますか?」

主に京や近江で洗濯板や千歯扱き、唐箕を売って大きな利益を上げている十蔵は、笑顔で返事をした。

「洗濯板は既に真似されておるし、来年には千歯扱きと唐箕も模倣品が出回るだろう。そこで今日は、継続的に収入を得るため新たな商売について相談しようと、こうしてお主を呼んだのだ」

「ほう、新たな商売ですか」

さすがは百戦錬磨の商人だ。儲けの臭いを嗅ぎつけたようだな。黒い瞳孔を光らせている。

「勘兵衛、持って来てくれ」

俺の声で勘兵衛がお盆に山盛りとなった干し椎茸を運んでくると、十蔵の目がキラッと光った。

「正月を間近にした年末には、干し椎茸は京で寺社や公家相手に高値で売れるであろう。十蔵はどのくらいの数ならば、値崩れさせずに売ることができるか?」

「……左様ですな。大きさや質にもよりますが、500本ならばお引き受けいたします」

十蔵は顔をやや強張らせながらも、俺が椎茸を大量に確保しているのを察したようだ。

「そうか、では椎茸500本をお主に任せよう。だが、日持ちする干し椎茸は正月の後も寺社の精進料理には欠かせぬ食材であろう。来年から毎月50本は任せる故、できるだけ高値で売ってくれ」

「ははっ、承知いたしました。お任せください」

こうして、寺倉家で人工栽培された干し椎茸は、11月下旬から京で売り出され、飛ぶように売れることになった。

俺は目を光らせて答える十蔵に、頰を掻きながら話を続ける。

「ところで十蔵。畿内、いや日ノ本での粗銅の価値を教えてもらえるか?」

「粗銅ですか? まあ、同じ重さの明銭に比べれば確かに安いですが、九州の博多ではなぜか明の商人には需要が高いようで、量を捌けばそれなりに利益が出るようですな。ただ何せ重いので大量に運ぶには船が必要ですので、畿内では堺に集まっております。堺では粗銅を使って粗悪な堺銭を造っておりますな」

やはり明に売れているか。確かこの時代の日本の粗銅には金銀がかなり混じっており、粗銅にはそれ以上の価値がある。つまるところ日本人はぼったくられているというわけだ。

明や南蛮では粗銅から金銀を回収する灰吹法が知られており、日本には伝わっていないため、何も知らない日本人から粗銅を安く仕入れ、金銀を回収してぼろ儲けしているのだ。確か金や銀については日本でも石見銀山などで行われていたはずだが、粗銅では皆無だろう。

当然ながら明の商人は灰吹法を秘匿しているのだろうが、灰吹法はかなり簡単にできる。まず粗銅を鉛と一緒に融解させてから徐々に冷やす。そうすると融点の高い銅だけが上層に結晶化するので、銅を取り出すと金銀が溶け込んだ鉛が残る。この融解した状態の鉛を動物の骨灰の皿に流し込み、その上から空気を吹き付けると、鉛だけが骨灰に融け込み、分離した金銀を回収できるのだ。

「そうか。では、京で椎茸を売った金で、堺で定期的に粗銅を仕入れてくれるか?」

「差支えなければ、粗銅を何にお使いになるのか伺っても宜しいですかな?」

「少し試したいことがあってな。成功すればボロ儲けできるやもしれぬ。クックック」

史実では堺の商人が粗銅から金銀を取り出す灰吹法を南蛮人から習得するのは1590年以降だった記憶がある。つまり、それまでは安い粗銅から金銀を手に入れられれば、大きな資金源になるはずだ。俺は思わずと笑いを漏らした。

「悪どい商人のような顔をしてらっしゃいますぞ。……まさかとは存じますが、私鋳銭を造るおつもりですか?」

「私鋳銭? そんなつもりはないぞ。銅は柔らかくて刃物には向かないが、青銅にすればいろいろな道具に使い道がありそうだからな。ついでに錫も仕入れてくれ」

これから富国強兵を進めるためには、資金は幾らあっても足りないほど必要になるが、さすがに今は私鋳銭を造るような大それた真似はするつもりはない。

「なるほど……。承知仕りました。ただ重いので一度に大量には運べませぬ故多少手間取りましょうが」

「一向に構わぬ。頼んだぞ」

俺が残った銅の使い道を明かして、本当の目的を誤魔化すと、十蔵は俺の真意が掴めず怪訝な様子ながらも粗銅の仕入れを引き受けてくれた。金銀を取り出した後、必然的に銅が残ることになる。これを捨てるのではなく、有効に使えるならばまさに一挙両得というものだ。

12月上旬、十蔵から粗銅を受け取った俺は、再び勘兵衛の箕田家に協力を頼み、何度も試行錯誤を重ねた末に、ようやく年末に粗銅から金銀を回収することに成功した。俺は箕田家が推薦した口の堅い職人を集めると、灰吹法を椎茸栽培以上の極秘産業として秘密裏に金銀の回収を進めていった。
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