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第5.5話 幕間

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 私の周りは賑やかだ。その影響もあって私自身も昔に比べるとかなり明るく、賑やかになった。
 いや違う。影響を受けたんじゃない。私自身がこの人間関係の中に溶け込むために、今の姿になって、賑やかになった。黒の長い髪を茶色に染めた。メイクも周囲の人を見て、少しづつ真似ることで勉強してきた。それが私なりに努力だった。
 その賑やかさは今こうして大学に入ってからも続いている。仲のいい友達同士でしゃべりながらお昼を食べて、他愛ない話に一喜一憂している。たまにやり過ぎるじゃないかと思う時もあるけど、それは言えない。言って私がここからはじき出されるのが嫌だから。

「優香はどう思う? 彼氏の方が悪いよね」

 恋人同士の痴話げんかが今日のテーマになっていた。「そうだね」と同意の言葉をだして頷く。ここで求められているのは同意。否定することじゃない。否定しても最後には同意をして締めくくるのが空気を読むことになる。
 決して楽しくないわけじゃない。でも今日は少しいつもと違って、気分が乗らなかった。
 原因は多分昨日久しぶりの再会をした友達だと思う。そして、何より久しぶりに自分の趣味を隠さずに人に話したからだ。
 私は自分の趣味を隠して今ここにいる。アニメが好きで、漫画が好き。でもここにいる私は、メイクが好きで、恋バナの好きな私だ。
 メイクを覚えてからは、メイクは嫌いじゃないし、友達の恋バナを聞くのは嫌いじゃない。でも根っからの自分が好きな話は趣味の話なのは譲れない。

 時計を見ると後20分もすれば次の講義が始まる時間になっていた。周りではちらほらと次の講義の為かお昼を切り上げて去っていく。そんな人達の向こうに彼を見つけた。昨日久しぶりの再会をした同級生。私の本当の趣味を知っている友達。
 彼の隣には、同じくらいの背の高さの男友達がいた。親しげに楽しそうに話す姿は、昨日私の前とは大違いだった。
 曲がるために方向を変えた時に一瞬目があった気がした。私の勘違いかもしれないけど。
 目がっても挨拶はお互いしないだろう。友達といる時にあいさつをする方が空気を読めてない。
 それでも彼を見たことで忘れていたことを1つ思い出した。今でなくてもいいんだろうけど、慌てて携帯を取り出して昨日交換した連絡先へと短い文章を打った。

『大阪は今度の土曜日、13時に難波駅の改札前で待ち合わせ! 楽しみだね!』
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