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Episode.3
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「カンパーイ」
結局来てしまった、と私こと奈月は心中、合コンの席で溜め息を漏らしていた。ここ、都内のレストラン『SKY DISH』に来た私たち合コン組は、ドリンクと食事を途中に、各々が会話に勤しむ。都内某所に立つこのレストランは、モダンなダーク系の外壁と内装に、暖色系と白くて明るい照明が照らし、どこか温かみがありつつも非日常的な印象を与える雰囲気だった。
「詩織ちゃんと奈月ちゃん、普段は料理とかするの?」
正面の2人の男性が、私と詩織に尋ねた。彼ら二人の横にはもう二人の男性陣が座っていたが、彼らは反対側の女性陣二人に夢中である。知人を介してこの合コンには出席したらしく、彼ら2人とは親しくはないとか。
「私、普段はめちゃ自炊しますよ?」
詩織はそう言った。ダークブラウン色のセミロングの長いを、耳にかける彼女。その仕草は、女子ならすぐに感づく『狙ってます』の仕草である。
私の正面席に座っていた藻崎と言う27歳の男性は、人当たりのいい男性だった。話してみると取っつきやすい印象で、ルックスもかなり整っている。何故『彼女』を求めてこんな合コンに参加しているのか、少しだけ疑問が出るほどである。しかしそれにしても彼、藻崎氏は、やたらと私に質問をブチ込んで来る人だ。これがモテない原因か、と思えてくるほどである。まるで夢中で地面に穴を掘る、犬のようである。
『好きな男のタイプは?』『自炊するの?』『映画とかは見る?』『ペット飼ってる?』『好きな食べ物って何?』
あまりに応える先から次々と過剰に質問をして来るので、「ちょっとお手洗いに…」と言って誤魔化した。席から、立ち上がると、詩織の腕を引っ張る。
「奈月、良い感じじゃん?どうなの?藻崎さん」
やがて手を引かれて化粧室に入った詩織は、私にお褒めの言葉をかけていた。彼女は唇に、オレンジ系のうるうると艷やかな口紅を差している。私は弱音を吐いく。
「…はぁ。何か疲れたな…」
詩織はミラーから離れると、顔をしかめて私の背中をバシッと叩いた。
「なに愚痴ってんの?始まったばっかじゃん」
横から背中をばんばんと叩かれ、私はつんのめる。目の前のミラーには、少し元気のない私の顔がある。引っ張るようにして詩織が「さ、行くよ!」と私の左手首を引っ張った。
それからしばらく私、奈月は藻崎氏と。詩織は目の前の彼と雑談交じりに酒を飲んだ。結局、連絡先を交換した詩織が彼との会話から解放されたのは、それから約2時間後だった。 終わるであろう午後10時過ぎに店内会計傍で待ち合わせた私達。しかし、肝心の私、奈月の姿はそこにはなかった。モダンでどこか薄暗い照明が照らす店内を、詩織はフラフラしながら、歩き回っていた。私の姿を探しているのである。
会計スペースで姿が見えないことから、テーブル席まで戻るも、そこに私の姿はない。ようやく、あれ~、と無駄にのんびりとした声を出していた。
“各自解散”したのかと思えてしまうほど、奈月だけではなく他の2人の姿も見えない。
「どぅこ行ったんよ~?」
とろんと視点の定まらない詩織は、すぐ脇を偶然通りかかった店員を呼び止める。歩いているところをガシッと腕を掴まれた店員は、ビクリと体を揺らして立ち止まった。見るからに泥酔した口調で「二人を知らないか」と尋ねる詩織に、彼は激しく瞬きながらも冷静に彼は対応する。
「帰ったぁ?」
はい、と30代のその男性店員は答えていた。右手にはシルバーのトレンチを乗せ、目を丸くしている。
「30分ほど前かと。『連れの女性が眠ってしまったので、自分の自宅に連れ帰るから、タクシーを呼んでくれないか』と仰ってましたが」
「つれかえる…」
連れ…、とそう呟いた詩織。心ここにあらずな様子の彼女を見て、男性店員は、首を傾げると、そそくさとその場を去って行ってしまった。詩織は冴えない頭で反芻した。同じ文言をブツブツと繰り返し口にする。そして7、8回繰り返した頃だった。ふと湯が沸点に達したかの如く、ハッと思考回路が鮮明に起動した。
「…連れ……ヤバ…!」
5年前、会話もほとんど出来なくなった姉。その病室の傍にある待合室の長椅子に腰掛け、嗚咽を漏らしていた私に、彰人さんは目の前にペットボトルのお茶を差し出した。あの日、姉が息を引き取るまる1日前。待合室で泣いていた私。彼自身がもっと辛いかもしれないのに、私の隣に腰掛け、背中をトントンとさすってくれた。
「人間はな?死んだとしても、いなくなるわけじゃない。見えなくなるだけで、傍にはずっといてくれてるんだ」
鼻を赤くして体を起こして振り返った私に、彼はにこっと微笑むと、私の頭に手を乗せる。
「従兄弟がな、交通事故で臨死体験して、そんなこと言ってた」
「臨死体験?」
結局来てしまった、と私こと奈月は心中、合コンの席で溜め息を漏らしていた。ここ、都内のレストラン『SKY DISH』に来た私たち合コン組は、ドリンクと食事を途中に、各々が会話に勤しむ。都内某所に立つこのレストランは、モダンなダーク系の外壁と内装に、暖色系と白くて明るい照明が照らし、どこか温かみがありつつも非日常的な印象を与える雰囲気だった。
「詩織ちゃんと奈月ちゃん、普段は料理とかするの?」
正面の2人の男性が、私と詩織に尋ねた。彼ら二人の横にはもう二人の男性陣が座っていたが、彼らは反対側の女性陣二人に夢中である。知人を介してこの合コンには出席したらしく、彼ら2人とは親しくはないとか。
「私、普段はめちゃ自炊しますよ?」
詩織はそう言った。ダークブラウン色のセミロングの長いを、耳にかける彼女。その仕草は、女子ならすぐに感づく『狙ってます』の仕草である。
私の正面席に座っていた藻崎と言う27歳の男性は、人当たりのいい男性だった。話してみると取っつきやすい印象で、ルックスもかなり整っている。何故『彼女』を求めてこんな合コンに参加しているのか、少しだけ疑問が出るほどである。しかしそれにしても彼、藻崎氏は、やたらと私に質問をブチ込んで来る人だ。これがモテない原因か、と思えてくるほどである。まるで夢中で地面に穴を掘る、犬のようである。
『好きな男のタイプは?』『自炊するの?』『映画とかは見る?』『ペット飼ってる?』『好きな食べ物って何?』
あまりに応える先から次々と過剰に質問をして来るので、「ちょっとお手洗いに…」と言って誤魔化した。席から、立ち上がると、詩織の腕を引っ張る。
「奈月、良い感じじゃん?どうなの?藻崎さん」
やがて手を引かれて化粧室に入った詩織は、私にお褒めの言葉をかけていた。彼女は唇に、オレンジ系のうるうると艷やかな口紅を差している。私は弱音を吐いく。
「…はぁ。何か疲れたな…」
詩織はミラーから離れると、顔をしかめて私の背中をバシッと叩いた。
「なに愚痴ってんの?始まったばっかじゃん」
横から背中をばんばんと叩かれ、私はつんのめる。目の前のミラーには、少し元気のない私の顔がある。引っ張るようにして詩織が「さ、行くよ!」と私の左手首を引っ張った。
それからしばらく私、奈月は藻崎氏と。詩織は目の前の彼と雑談交じりに酒を飲んだ。結局、連絡先を交換した詩織が彼との会話から解放されたのは、それから約2時間後だった。 終わるであろう午後10時過ぎに店内会計傍で待ち合わせた私達。しかし、肝心の私、奈月の姿はそこにはなかった。モダンでどこか薄暗い照明が照らす店内を、詩織はフラフラしながら、歩き回っていた。私の姿を探しているのである。
会計スペースで姿が見えないことから、テーブル席まで戻るも、そこに私の姿はない。ようやく、あれ~、と無駄にのんびりとした声を出していた。
“各自解散”したのかと思えてしまうほど、奈月だけではなく他の2人の姿も見えない。
「どぅこ行ったんよ~?」
とろんと視点の定まらない詩織は、すぐ脇を偶然通りかかった店員を呼び止める。歩いているところをガシッと腕を掴まれた店員は、ビクリと体を揺らして立ち止まった。見るからに泥酔した口調で「二人を知らないか」と尋ねる詩織に、彼は激しく瞬きながらも冷静に彼は対応する。
「帰ったぁ?」
はい、と30代のその男性店員は答えていた。右手にはシルバーのトレンチを乗せ、目を丸くしている。
「30分ほど前かと。『連れの女性が眠ってしまったので、自分の自宅に連れ帰るから、タクシーを呼んでくれないか』と仰ってましたが」
「つれかえる…」
連れ…、とそう呟いた詩織。心ここにあらずな様子の彼女を見て、男性店員は、首を傾げると、そそくさとその場を去って行ってしまった。詩織は冴えない頭で反芻した。同じ文言をブツブツと繰り返し口にする。そして7、8回繰り返した頃だった。ふと湯が沸点に達したかの如く、ハッと思考回路が鮮明に起動した。
「…連れ……ヤバ…!」
5年前、会話もほとんど出来なくなった姉。その病室の傍にある待合室の長椅子に腰掛け、嗚咽を漏らしていた私に、彰人さんは目の前にペットボトルのお茶を差し出した。あの日、姉が息を引き取るまる1日前。待合室で泣いていた私。彼自身がもっと辛いかもしれないのに、私の隣に腰掛け、背中をトントンとさすってくれた。
「人間はな?死んだとしても、いなくなるわけじゃない。見えなくなるだけで、傍にはずっといてくれてるんだ」
鼻を赤くして体を起こして振り返った私に、彼はにこっと微笑むと、私の頭に手を乗せる。
「従兄弟がな、交通事故で臨死体験して、そんなこと言ってた」
「臨死体験?」
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