死神皇帝は烏道士を愛でたい

丹羽 史京賀

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8.烏道士、報酬に惹かれる

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「晨玲。高位の妃選びに関しては、皇太后の意向が強く働いているんだよ。皇太后と私は血縁がない。病死した最初の妃も、事故で亡くなった妃も、皇太后の縁者なんだ。確かに、皇太后には力があって、後ろ盾のいない私に拒否権もなかったけど、まあ、うっかり近寄って、寝首を掻かれたくないな……って、警戒していたね。だから、妃の顔は一回見た程度なんだ」
「つまり……。妃には情もなく、陛下には殺す動機がある……と」

(あっ)

 ――やってしまった。

 何か適当に、言い繕わないと。
 ……が、青くなる晨玲の肩を、いつの間にか近づいてきた榮翔が軽くぽんと叩いた。

「そうだな。言われてみれば、そうかもしれない。君の言う通りだ。しかし、私は彼女達の死因を徹底的に調べて、病死と事故死と断定したんだよ」
「二人共、知っているとは思うけど……」

 榮翔の言葉を引き継ぐように、明蘭が語り出した。

「最初の妃は文 夕李せつり。文淑妃と呼ばれていた。流感をこじらせて、亡くなってしまった。そして次の妃は索 香雨こうう。索徳妃だ。彼女は朱雀宮の鴛鴦池に落ちて、水死した。他殺や自殺、様々に調べたけれど、この死因で間違いない。それでも、何事か起こっているかもしれない後宮の内情を鑑みて、大将軍の娘で、幼馴染の私が後宮の重石になるべく召集されたわけだよ」

 ――と、意気揚々に言い放つと、黄貴妃は剣で切りかかる素振りを見せて、長椅子から立ち上がった。
 そういえば、豪奢な梔子色の衣を纏ってはいるものの、髪は動きやすそうに一つに括っていて、動きも素早かった。

(あー……。武闘派のお妃様ということかしら?)

「……と、そういうわけで」

 榮翔は明蘭を無視して、さっさと話を進めた。

「明蘭を上手く後宮入りさせて内情を探らせようと思ったんだけど……。その頃に、私の寝所に、夕李が来るようになってね。明蘭は、その手のことに関しては、てんで駄目だから。口が堅くて、皇太后の色に染まってない人を外部から招くという話になって、推挙されたのが、君だった」
「私を……? 貴妃様が?」
「ああ、そうだ。私が貴方を榮翔に勧めたんだ」
「そ、そうだったのですか」

 未泉が何とも言えない表情で、晨玲を眺めている。

(何よ。分かっているわよ。私だって、そんな黄貴妃さまのお耳に入るような活躍をした記憶なんてないわよ)

 榮翔も晨玲の怪訝な様子に気づいたのだろう。

「不安そうだね。晨玲?」

 心配そうに、顔色を窺っている。
 当然だ。不安しかない。

「…………こういった形の浄霊は、初めてなので」
「やりたくない?」
「ま、まさか。そんなことは……」
「勿論、嘘を吐いていた手前、報酬は弾むつもりだ。私の権限で、つもりだよ。……だから」
「………………こ、皇城の廟」

(それは、つまり……)

 ――皇帝権限で皇城廟を見て回ることが出来る……と。

 ごくり、晨玲は息をのんだ。

(何という、胸の熱くなる企画)

 生きていて良かった。

「承知しました。私如き、市井の烏道士の力が、どこまで及ぶかは分かりませんが、これも三清が導いて下さったご縁。出来る限りのことをさせて頂きます」
「やっぱり、莫迦だったな」

 隣で未泉が呟いていたが、仕方ない。
 大体、この状況で他の選択肢なんてないのだ。

(昨夜、陛下に土を掘らせた罰とかで、処刑されてもおかしくないのよ)

 今、向き合っている榮翔は、陽だまりの中にいるようにおっとりとしていて、穏やかそのものだが、この人の正体は紛れもない「死神皇帝」なのだ。
 縁者が立て続けに亡くなってしまったことに対しての「死神」という意味もあるが、気に入らない者に、容赦なく死を与える冷酷さに対する畏怖も、その渾名には込められている。
 機嫌を損ねたら、その場で晨玲たちは終わりなのだ。

「それで、晨玲。浄霊に必要なものはある? 用意するけど」
「えー……と」

 本音を言えば、必要としているのは、榮翔の心だ。

(もう少し、私達に心を開いて貰えたら)

 信頼関係が構築出来ていれば、榮翔を通じて、亡くなった妃たちを呼び出すことができる。
 けれど、今のこの距離感では、その手は使えないだろう。
 かえって、致命傷になりかねない。

(やっぱり、亡くなったお妃様たちの残留思念から攻めた方が良いのでしょうね)

「陛下のお心遣い、感謝致します。道具は足りているのですが、重要なのは「場」でして。まずは病死した文淑妃の部屋を見せては頂けないでしょうか?」
 
 晨玲は、道士の仕事に集中するべく、頭を切り替えていた。
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