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第一章:第三師団の陥落
最後の仲間ともう一人の神様
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絢爛豪華な劇場の観客席には、多くの女性たちの姿があった。皆、一様に興奮気味な様子で、舞台の上にいる一人の男に注目していた。
その見た目は少年といっても差し支えない。透けるような金髪と、空のように青い瞳を持つ美形の少年。
彼は客席の女性に向かって優雅に手を振り、微笑みかける。すると、彼女たちは黄色い悲鳴を上げた。
「キャー!リヒト様ー!」
「こっち向いてー!!」
「はぁ……♡素敵♡」
彼が手を振るたびに、女性客たちはうっとりとした表情を浮かべる。中には涙を流して拝んでいる者さえいた。
「今日は急な呼びかけだったのに、みんな来てくれて本当にありがとー!みんなー!愛してるよー!」
リヒトの挨拶に対し、女性たちはそれぞれ歓声を上げ、口々にお礼を言う。
「キャアアアアッ!!!」
「私もリヒト様に会えて幸せですううう!」
「リヒト様の為ならいつでも駆けつけますううう!」
「愛してまああす!!」
そんな熱狂的なファンたちに手を振り、少年は女性たちの歓声を背に、舞台袖へと下がってゆく。
「相変わらずですね、リヒトさん。」
影から出てきた男に話しかけられ、少年は全ての女性たちを虜にする甘い笑みを向ける。
「神父様もお変わりないようで。」
『道化師』リヒト・ジネット。
『聖職者』レオル・カルヴィント。
二人は互いに見つめ合いながら、くすりと笑った。
ハインリヒの命令で、ヴォルキアラ帝国から少し離れた隣国アルシェリティア王国へ偵察に行っていた二人だが、行動は別々にしていたため、こうして顔を合わせるのは久しぶりのことだった。
二人は並んで舞台袖から歩き出す。
「あなたの女性人気には恐れ入りますよ。いっそ第三師団ではなく、本業を劇団に移してはいかがですか?」
「えー?神父様だって、裏では女の人たちにキャーキャー言われているの、ぼく、知っているんだからねっ!」
「おや?私はただ、神の教えを説いているだけですよ。」
「うわぁ~!よく言うよね~!大人ってこわぁ~い!」
「しかし、その口調、寒気がするのでそろそろ変えていただけません?」
「……しょうがないのぅ。」
少年の明るい声から一転、男性の深みのある声に変わる。
『道化師』リヒト・ジネットの本来の姿かたち、年齢は謎に包まれている。それこそ、彼の『覚醒者』としての能力によるものだ。
普段は女性たちの前で愛らしい少年として振る舞っているが、こうして第三師団関係の仕事となると、老成した大人の雰囲気を出す。
「しかし、本当に第三師団が危機的状況なのか?あの団長がいるなら、大抵の敵は敵わないと思うのだが……。」
「あながち冗談でもなさそうですよ、リヒトさん。第三師団の宿舎のみならず、周辺の街まで、妙な気配があちらこちらから感じられます。尋常ではありません。」
帝都の中心付近から、微かにではあるが、邪悪なオーラのようなものを感じた。
その禍々しい魔力の正体について思考するレオルだったが、今までに感じたことのないような強い邪気を前にして、それ以上予測を立てるのは困難だった。
「む。神父がそこまで言うのなら、事態は思った以上に深刻らしい。」
リヒトは少し考える。
「『聖女』はこの事態を何とかできないのか?」
「このレベルは、フィオナ一人には厳しいでしょう……。」
「団長の方はどうだ?」
「帰還命令を出したあとの彼と、連絡がつきません。遠目から団長室を確認しましたが、他に比べかなり禍々しいオーラに包まれていました。おそらく……。」
「手遅れか。」
リヒトは、はぁとため息をついた。
「全く。わしがおらんと全然だめじゃなぁ、ハインリヒも、シュタインも。パパッと解決して、さっさとこの汚染された空気を浄化させるぞ、レオル神父。」
「もちろんです、リヒトさん。」
「して、作戦は?」
リヒトはぐっと背伸びをしたり、首を回したりしながら尋ねる。
すると、レオルはその質問を待っていましたというように笑みを浮かべる。
「今回は第五師団の団長様にも協力を仰ぎましょうかねぇ。」
「ナヴァルの坊主か。あの戦闘狂、使えるのか?」
「腐っても団長やっていますからね。脳筋ではありますが、そこらへんの雑兵よりはマシでしょう。情報収集はいつものようにあなたにお任せいたしますよ、リヒトさん?」
「もちろん。舞台の仕事もしながら、情報もしっかり集めてくるねっ!」
舞台モードの少年らしい声でリヒトがそう答えると、レオルは思わず苦笑した。
そして、リヒトは、「はい。」とレオルに右手を差し出す。
「いつものナントカのご加護。頼むぞ?」
「はいはい。」
レオルはリヒトの右手の上に己の手をかざす。
「<我、ウォテヌス神に仕えし者なり。神の与えし幸福を、この者にも与えよ。>」
祈りの言葉とともに光が溢れる。
『覚醒者』であるレオルは、他者に自分の幸福を分け与えたり、逆に奪ったりすることができる。
そして、祝福を受けた者は幸運値だけではなく、一時的に全能力が上昇するという恩恵も与えられるのだ。
光はリヒトの手に収まると、彼は何度か手を握り、レオルに微笑んだ。
「ナントカ神のことは信じていないが、神父のこの能力のことは信用しているぞ?」
その言葉に、レオルは口元をほころばせる。
「ふふっ。では、第三師団のために。」
「そして、われわれの未来のために!」
リヒトは音もなくその場から姿を消した。
そして、レオルは目を閉じて精神を集中させ、感覚を研ぎ澄ませる。
「……嫌な予感がする。」
ぽつりと呟いたその声は、観客たちの歓声によってかき消されるのであった。
***
「よぅ、久しぶり。」
終夜がこの異世界にトリップする前に出会った、『神様』と名乗る、いかにも悪魔のような見た目をした男がドアップでいた。
「夢の中で出会えるとは、思ってもみませんでした。」
寝る前に、ケニーとブラックを野外で存分に犯し尽くしたことを思い出し、ここが夢の世界であると終夜は結論を出した。
一歩下がって、男と適切な距離を保つ。
「つれないねぇ、縁起君。俺のおかげで、かなりいい思いしてんじゃないの?」
「えぇ、おかげさまで毎日が楽しいですよ。」
「そりゃあ、あれだけ人権無視して、見た目麗しい男たちを好きなだけ犯せるんだから、楽しくて仕方がないわな。」
男は背中に生える黒い翼を動かし、宙に浮かぶ。
「それで?今日はどういった内容で?」
「いや、困っていることとかないかなと思って。アフターフォローって大事じゃん?」
「はぁ。特に何も困っていませんが。」
そこへ、「あ。」と終夜は声を上げる。
「質問ならあります。」
「どんとこい!」
「あなたは、『ウォテヌス神』ではありませんよね?」
男は「一応前に、神様って名乗ったじゃん。」と肩を落とすが、根は真面目なのか、きちんと答えた。
「俺は『ウォテヌス神』ではない。まぁ、今のところ実際は神様でも、ない。……本当の神様ってのは、人間のことを考えているようで全く考えていなくてよ。ウォテヌス神が『覚醒者』に能力を与えたのも気まぐれ、お前のやっていることを知っていて放置。俺が言うのも何だが、神様なんて、碌なやついないね。」
「じゃあ、あなたは何なんですか?」
「俺は――。」
「悪魔ですか?」
「いや、人の話聞こうね!?」
男は咳払いを一つし、仕切り直す。
「まぁ、『人間以上神様未満』な存在ってところかな。」
「なるほど。神様になるために、この世界を利用しようとしていると。」
「いや、まぁ、そうなんだけどね!もっとこう、オブラートにね!」
目の前の男が、何を企んでいようが、正直終夜にはどうでも良かった。
彼が求めているのは、いつか元の世界へ返してもらうこと。そのためなら、少しはこの男に利用されてもいいとすら思っている。かなり甘い蜜を吸わせてもらっているのだから、なおさらだ。
「ところで、最近、ボクかなりの絶倫状態で常にムラムラしているんですけど、能力のせいですか?」
そう、終夜は毎日男たちと交わっているうちに、だんだん射精してもすぐに勃起してしまうようになってしまった。絶倫状態だ。出してもすぐに、興奮するし、これは何かおかしいぞと、さすがの終夜も気づいてはいた。
「能力というより、俺のせいだな。」
男の話によると、終夜は現在、男の端末機としての役割を担っているそうだ。セックスして人と交わることで、相手のエネルギーを奪い、さらには男に常時送っている状態にあるのだという。
「どんどんエネルギーが送られてくるもんだからさ、俺が『くれるならもっと欲しい』と思ってしまったせいで、常に絶倫&発情状態になっていたんだと思う。ごめんね♡」
「別に体に大きな影響がなければいいですけれど。何度もセックスできて、都合は良いですし。それで?ボクがセックスして得るエネルギーが、あなたを神にする力になると?」
「どちらかというと神と戦うために必要なエネルギーだけど……まぁ、そんなことは本筋と関係ないからどうだっていいわ!ーーそれより、縁起君。」
「はい。」
「実は君が頑張ってくれたおかげで、当初の予定よりも早めにエネルギーが溜まったから、君、元の世界に帰れるよ!おめでとう!パチパチパチ~。」
(元の世界に、帰れる?)
待ちに待っていた言葉だった。
元の世界に帰るために、終夜は異世界の人々を蹂躙してきたのだ。だが、帰れるというのなら、もうその必要はない。
「連れてくるときは、ちょうどマンガ本を読んでいたときだったね。ようやくあの本の続きが読めるね!」
「はぁ。」
「え?気にならないの?続き。」
気にはなるが、どうにも煮えきらない。
終夜は頑張ってきた。ゼネットとケニーを足がかりにハインリヒを陥れ、ブラック、シュタインと支配の手を進めた。さらに、新たに追加されるという第三師団の仲間への対策も練って。
(そうだ。ボクはまだ、エンディングを迎えていない。)
――第三師団の男たちを支配し、ヴォルキアラ帝国を支配し、そしてゆくゆくはこの異世界全てを終夜のものにする。
それくらい壮大なことをしないと、元の世界に帰れないと終夜は思っていたのだ。
「不完全燃焼です。元の世界へ帰るのは、もう少し先でもいいですか?」
「お?そりゃいいけど。」
「じゃあ、そうしてください。ボクはまだ、この異世界のエンディングを迎えていません。こんな中途半端なところで放り出すのは、性に合わないんです。」
やるなら、きっちりやりたい。
完膚なきまでに。
男はぺろりと唇を舐め、「なるほどね。」と呟いた。
「いいねぇ。そういう欲望は嫌いじゃないぜ。俺はお前のことを気に入っているし、このままエネルギーを送ってくれるなら万々歳だ。」
「では、そのように。」
「おいおい。待てよ、縁起君。そうすぐに人の話を切ろうとするなって。」
「まだ何か?」
「あぁ。」
――現人神に興味はないか?
脳内で漢字に変換できない終夜は、眉間にシワを寄せた。
「あらひと……がみ?」
男は補足説明をする。
「そうだ。『信仰心』ってのは、それだけでエネルギーになる。ウォテヌス神は人間に何もしない。が、人間は奴を信仰しているから、自動的に信仰心という名のエネルギーがウォテヌスの野郎に集まっていく。もし、お前が本当にあの世界を支配したいのなら、ウォテヌス神よりも強くならなけばならない。そこで、『現人神』だ。」
「神様の一種ですか?」
「『現人神』とはこの世に人間の姿で現れた神だ。お前が神様になれば、自分に集まる信仰心をエネルギーに変えることができる。そうすりゃもっとお前の催眠眼はパワーアップするぞ!」
途方もないことを言い出した男は、ケラケラと笑った。
「それは。」
「おぅ。」
「なかなか面白い試みですね。」
(現人神……神様かぁ……。)
ーーウォテヌス神を盲目なまでに信仰する彼らを、さらに貶めるにはどうすればいいだろうか。
ーー彼らに絶望を与えるためにはどうすれば良いだろうか。
ーー彼らの心を壊すにはどうすればいいのだろうか。
再び、終夜の頭の中でプランが組み立てられていく。
「皆が信仰する新しい神の名前を今、決めました。」
「えっ、もう!?」
「『エンギ神』にします。」
「形から入るタイプね、縁起くん!ま、いいけどさ。ところで、結構ノリノリだけど、本当にいいわけね?しばらく、俺とは会えないから、元の世界に帰るのはかなりあとだよ?」
男にそう心配され、終夜は思わず吹き出してしまった。見た目は悪魔だが、本当に真面目で心配性な人だ。
「心配しないでください。」
終夜は口元を歪ませ、ニヤリと笑う。
「漫画の続きは、あの異世界を支配してから読みますよ。」
ーー隅から隅まで世界を完全に自分のものにしてから、ね。
***
目を覚ますと、ブラックがペロペロと犬のように終夜の唇を舐めていた。
「ちゅる♡ん♡ちゅっ♡」
「ブラック、離れろ。唇がふやける。」
「ふっ♡シュウヤ♡」
少し距離を取ったブラックは、蕩けた顔で終夜を見つめる。
「おはよう♡」
「おはよう、ブラック。ケニーは?」
「下にいるぜ。」
ケニーはケニーで、終夜の朝勃ちの処理に勤しんでいた。
「じゅぷ♡くぽ♡じゅるるる♡ぢゅぱ♡」
「ケニー、おはよう。」
「おはよぉー♡しゅやぁ♡きもひいいぃ?」
「ああ、最高だよ。ケニーはいつも気持ちよくしてくれるから大好きだ。」
「あはは♡うれしいなあ♡」
飼い犬ニ匹共、昨晩はあんなに激しく愛し合ったというのに元気だ。かくいう終夜のペニスも、昨晩あんなに白濁液を吐き出したというのに、ケニーのフェラでぐんぐんと硬度を取り戻しつつあった。
終夜はベッドから起き上がり、ケニーのフェラを一旦止める。
「ケニー、ストップ。」
「ん、ふっ♡はぁい♡」
「二人に、話があるんだ。」
ブラックとケニーはハッと動きを止め、真面目な顔で終夜の言葉を待つ。
「ボク、これから『現人神』になるから。」
「……んっ?」
「……んっ?」
ブラックとケニーは顔を見合わせ、首を傾げる。
「えっと、アラナントカ神ってのは……。」
「ちなみに、神様の名前は『エンギ神』だから。よろしくね。」
「いや、それシュウヤの名前じゃん!」
ーー第三師団の残りの仲間、レオルとリヒトが帝国に現れる、ちょうど一週間前の出来事である。
その見た目は少年といっても差し支えない。透けるような金髪と、空のように青い瞳を持つ美形の少年。
彼は客席の女性に向かって優雅に手を振り、微笑みかける。すると、彼女たちは黄色い悲鳴を上げた。
「キャー!リヒト様ー!」
「こっち向いてー!!」
「はぁ……♡素敵♡」
彼が手を振るたびに、女性客たちはうっとりとした表情を浮かべる。中には涙を流して拝んでいる者さえいた。
「今日は急な呼びかけだったのに、みんな来てくれて本当にありがとー!みんなー!愛してるよー!」
リヒトの挨拶に対し、女性たちはそれぞれ歓声を上げ、口々にお礼を言う。
「キャアアアアッ!!!」
「私もリヒト様に会えて幸せですううう!」
「リヒト様の為ならいつでも駆けつけますううう!」
「愛してまああす!!」
そんな熱狂的なファンたちに手を振り、少年は女性たちの歓声を背に、舞台袖へと下がってゆく。
「相変わらずですね、リヒトさん。」
影から出てきた男に話しかけられ、少年は全ての女性たちを虜にする甘い笑みを向ける。
「神父様もお変わりないようで。」
『道化師』リヒト・ジネット。
『聖職者』レオル・カルヴィント。
二人は互いに見つめ合いながら、くすりと笑った。
ハインリヒの命令で、ヴォルキアラ帝国から少し離れた隣国アルシェリティア王国へ偵察に行っていた二人だが、行動は別々にしていたため、こうして顔を合わせるのは久しぶりのことだった。
二人は並んで舞台袖から歩き出す。
「あなたの女性人気には恐れ入りますよ。いっそ第三師団ではなく、本業を劇団に移してはいかがですか?」
「えー?神父様だって、裏では女の人たちにキャーキャー言われているの、ぼく、知っているんだからねっ!」
「おや?私はただ、神の教えを説いているだけですよ。」
「うわぁ~!よく言うよね~!大人ってこわぁ~い!」
「しかし、その口調、寒気がするのでそろそろ変えていただけません?」
「……しょうがないのぅ。」
少年の明るい声から一転、男性の深みのある声に変わる。
『道化師』リヒト・ジネットの本来の姿かたち、年齢は謎に包まれている。それこそ、彼の『覚醒者』としての能力によるものだ。
普段は女性たちの前で愛らしい少年として振る舞っているが、こうして第三師団関係の仕事となると、老成した大人の雰囲気を出す。
「しかし、本当に第三師団が危機的状況なのか?あの団長がいるなら、大抵の敵は敵わないと思うのだが……。」
「あながち冗談でもなさそうですよ、リヒトさん。第三師団の宿舎のみならず、周辺の街まで、妙な気配があちらこちらから感じられます。尋常ではありません。」
帝都の中心付近から、微かにではあるが、邪悪なオーラのようなものを感じた。
その禍々しい魔力の正体について思考するレオルだったが、今までに感じたことのないような強い邪気を前にして、それ以上予測を立てるのは困難だった。
「む。神父がそこまで言うのなら、事態は思った以上に深刻らしい。」
リヒトは少し考える。
「『聖女』はこの事態を何とかできないのか?」
「このレベルは、フィオナ一人には厳しいでしょう……。」
「団長の方はどうだ?」
「帰還命令を出したあとの彼と、連絡がつきません。遠目から団長室を確認しましたが、他に比べかなり禍々しいオーラに包まれていました。おそらく……。」
「手遅れか。」
リヒトは、はぁとため息をついた。
「全く。わしがおらんと全然だめじゃなぁ、ハインリヒも、シュタインも。パパッと解決して、さっさとこの汚染された空気を浄化させるぞ、レオル神父。」
「もちろんです、リヒトさん。」
「して、作戦は?」
リヒトはぐっと背伸びをしたり、首を回したりしながら尋ねる。
すると、レオルはその質問を待っていましたというように笑みを浮かべる。
「今回は第五師団の団長様にも協力を仰ぎましょうかねぇ。」
「ナヴァルの坊主か。あの戦闘狂、使えるのか?」
「腐っても団長やっていますからね。脳筋ではありますが、そこらへんの雑兵よりはマシでしょう。情報収集はいつものようにあなたにお任せいたしますよ、リヒトさん?」
「もちろん。舞台の仕事もしながら、情報もしっかり集めてくるねっ!」
舞台モードの少年らしい声でリヒトがそう答えると、レオルは思わず苦笑した。
そして、リヒトは、「はい。」とレオルに右手を差し出す。
「いつものナントカのご加護。頼むぞ?」
「はいはい。」
レオルはリヒトの右手の上に己の手をかざす。
「<我、ウォテヌス神に仕えし者なり。神の与えし幸福を、この者にも与えよ。>」
祈りの言葉とともに光が溢れる。
『覚醒者』であるレオルは、他者に自分の幸福を分け与えたり、逆に奪ったりすることができる。
そして、祝福を受けた者は幸運値だけではなく、一時的に全能力が上昇するという恩恵も与えられるのだ。
光はリヒトの手に収まると、彼は何度か手を握り、レオルに微笑んだ。
「ナントカ神のことは信じていないが、神父のこの能力のことは信用しているぞ?」
その言葉に、レオルは口元をほころばせる。
「ふふっ。では、第三師団のために。」
「そして、われわれの未来のために!」
リヒトは音もなくその場から姿を消した。
そして、レオルは目を閉じて精神を集中させ、感覚を研ぎ澄ませる。
「……嫌な予感がする。」
ぽつりと呟いたその声は、観客たちの歓声によってかき消されるのであった。
***
「よぅ、久しぶり。」
終夜がこの異世界にトリップする前に出会った、『神様』と名乗る、いかにも悪魔のような見た目をした男がドアップでいた。
「夢の中で出会えるとは、思ってもみませんでした。」
寝る前に、ケニーとブラックを野外で存分に犯し尽くしたことを思い出し、ここが夢の世界であると終夜は結論を出した。
一歩下がって、男と適切な距離を保つ。
「つれないねぇ、縁起君。俺のおかげで、かなりいい思いしてんじゃないの?」
「えぇ、おかげさまで毎日が楽しいですよ。」
「そりゃあ、あれだけ人権無視して、見た目麗しい男たちを好きなだけ犯せるんだから、楽しくて仕方がないわな。」
男は背中に生える黒い翼を動かし、宙に浮かぶ。
「それで?今日はどういった内容で?」
「いや、困っていることとかないかなと思って。アフターフォローって大事じゃん?」
「はぁ。特に何も困っていませんが。」
そこへ、「あ。」と終夜は声を上げる。
「質問ならあります。」
「どんとこい!」
「あなたは、『ウォテヌス神』ではありませんよね?」
男は「一応前に、神様って名乗ったじゃん。」と肩を落とすが、根は真面目なのか、きちんと答えた。
「俺は『ウォテヌス神』ではない。まぁ、今のところ実際は神様でも、ない。……本当の神様ってのは、人間のことを考えているようで全く考えていなくてよ。ウォテヌス神が『覚醒者』に能力を与えたのも気まぐれ、お前のやっていることを知っていて放置。俺が言うのも何だが、神様なんて、碌なやついないね。」
「じゃあ、あなたは何なんですか?」
「俺は――。」
「悪魔ですか?」
「いや、人の話聞こうね!?」
男は咳払いを一つし、仕切り直す。
「まぁ、『人間以上神様未満』な存在ってところかな。」
「なるほど。神様になるために、この世界を利用しようとしていると。」
「いや、まぁ、そうなんだけどね!もっとこう、オブラートにね!」
目の前の男が、何を企んでいようが、正直終夜にはどうでも良かった。
彼が求めているのは、いつか元の世界へ返してもらうこと。そのためなら、少しはこの男に利用されてもいいとすら思っている。かなり甘い蜜を吸わせてもらっているのだから、なおさらだ。
「ところで、最近、ボクかなりの絶倫状態で常にムラムラしているんですけど、能力のせいですか?」
そう、終夜は毎日男たちと交わっているうちに、だんだん射精してもすぐに勃起してしまうようになってしまった。絶倫状態だ。出してもすぐに、興奮するし、これは何かおかしいぞと、さすがの終夜も気づいてはいた。
「能力というより、俺のせいだな。」
男の話によると、終夜は現在、男の端末機としての役割を担っているそうだ。セックスして人と交わることで、相手のエネルギーを奪い、さらには男に常時送っている状態にあるのだという。
「どんどんエネルギーが送られてくるもんだからさ、俺が『くれるならもっと欲しい』と思ってしまったせいで、常に絶倫&発情状態になっていたんだと思う。ごめんね♡」
「別に体に大きな影響がなければいいですけれど。何度もセックスできて、都合は良いですし。それで?ボクがセックスして得るエネルギーが、あなたを神にする力になると?」
「どちらかというと神と戦うために必要なエネルギーだけど……まぁ、そんなことは本筋と関係ないからどうだっていいわ!ーーそれより、縁起君。」
「はい。」
「実は君が頑張ってくれたおかげで、当初の予定よりも早めにエネルギーが溜まったから、君、元の世界に帰れるよ!おめでとう!パチパチパチ~。」
(元の世界に、帰れる?)
待ちに待っていた言葉だった。
元の世界に帰るために、終夜は異世界の人々を蹂躙してきたのだ。だが、帰れるというのなら、もうその必要はない。
「連れてくるときは、ちょうどマンガ本を読んでいたときだったね。ようやくあの本の続きが読めるね!」
「はぁ。」
「え?気にならないの?続き。」
気にはなるが、どうにも煮えきらない。
終夜は頑張ってきた。ゼネットとケニーを足がかりにハインリヒを陥れ、ブラック、シュタインと支配の手を進めた。さらに、新たに追加されるという第三師団の仲間への対策も練って。
(そうだ。ボクはまだ、エンディングを迎えていない。)
――第三師団の男たちを支配し、ヴォルキアラ帝国を支配し、そしてゆくゆくはこの異世界全てを終夜のものにする。
それくらい壮大なことをしないと、元の世界に帰れないと終夜は思っていたのだ。
「不完全燃焼です。元の世界へ帰るのは、もう少し先でもいいですか?」
「お?そりゃいいけど。」
「じゃあ、そうしてください。ボクはまだ、この異世界のエンディングを迎えていません。こんな中途半端なところで放り出すのは、性に合わないんです。」
やるなら、きっちりやりたい。
完膚なきまでに。
男はぺろりと唇を舐め、「なるほどね。」と呟いた。
「いいねぇ。そういう欲望は嫌いじゃないぜ。俺はお前のことを気に入っているし、このままエネルギーを送ってくれるなら万々歳だ。」
「では、そのように。」
「おいおい。待てよ、縁起君。そうすぐに人の話を切ろうとするなって。」
「まだ何か?」
「あぁ。」
――現人神に興味はないか?
脳内で漢字に変換できない終夜は、眉間にシワを寄せた。
「あらひと……がみ?」
男は補足説明をする。
「そうだ。『信仰心』ってのは、それだけでエネルギーになる。ウォテヌス神は人間に何もしない。が、人間は奴を信仰しているから、自動的に信仰心という名のエネルギーがウォテヌスの野郎に集まっていく。もし、お前が本当にあの世界を支配したいのなら、ウォテヌス神よりも強くならなけばならない。そこで、『現人神』だ。」
「神様の一種ですか?」
「『現人神』とはこの世に人間の姿で現れた神だ。お前が神様になれば、自分に集まる信仰心をエネルギーに変えることができる。そうすりゃもっとお前の催眠眼はパワーアップするぞ!」
途方もないことを言い出した男は、ケラケラと笑った。
「それは。」
「おぅ。」
「なかなか面白い試みですね。」
(現人神……神様かぁ……。)
ーーウォテヌス神を盲目なまでに信仰する彼らを、さらに貶めるにはどうすればいいだろうか。
ーー彼らに絶望を与えるためにはどうすれば良いだろうか。
ーー彼らの心を壊すにはどうすればいいのだろうか。
再び、終夜の頭の中でプランが組み立てられていく。
「皆が信仰する新しい神の名前を今、決めました。」
「えっ、もう!?」
「『エンギ神』にします。」
「形から入るタイプね、縁起くん!ま、いいけどさ。ところで、結構ノリノリだけど、本当にいいわけね?しばらく、俺とは会えないから、元の世界に帰るのはかなりあとだよ?」
男にそう心配され、終夜は思わず吹き出してしまった。見た目は悪魔だが、本当に真面目で心配性な人だ。
「心配しないでください。」
終夜は口元を歪ませ、ニヤリと笑う。
「漫画の続きは、あの異世界を支配してから読みますよ。」
ーー隅から隅まで世界を完全に自分のものにしてから、ね。
***
目を覚ますと、ブラックがペロペロと犬のように終夜の唇を舐めていた。
「ちゅる♡ん♡ちゅっ♡」
「ブラック、離れろ。唇がふやける。」
「ふっ♡シュウヤ♡」
少し距離を取ったブラックは、蕩けた顔で終夜を見つめる。
「おはよう♡」
「おはよう、ブラック。ケニーは?」
「下にいるぜ。」
ケニーはケニーで、終夜の朝勃ちの処理に勤しんでいた。
「じゅぷ♡くぽ♡じゅるるる♡ぢゅぱ♡」
「ケニー、おはよう。」
「おはよぉー♡しゅやぁ♡きもひいいぃ?」
「ああ、最高だよ。ケニーはいつも気持ちよくしてくれるから大好きだ。」
「あはは♡うれしいなあ♡」
飼い犬ニ匹共、昨晩はあんなに激しく愛し合ったというのに元気だ。かくいう終夜のペニスも、昨晩あんなに白濁液を吐き出したというのに、ケニーのフェラでぐんぐんと硬度を取り戻しつつあった。
終夜はベッドから起き上がり、ケニーのフェラを一旦止める。
「ケニー、ストップ。」
「ん、ふっ♡はぁい♡」
「二人に、話があるんだ。」
ブラックとケニーはハッと動きを止め、真面目な顔で終夜の言葉を待つ。
「ボク、これから『現人神』になるから。」
「……んっ?」
「……んっ?」
ブラックとケニーは顔を見合わせ、首を傾げる。
「えっと、アラナントカ神ってのは……。」
「ちなみに、神様の名前は『エンギ神』だから。よろしくね。」
「いや、それシュウヤの名前じゃん!」
ーー第三師団の残りの仲間、レオルとリヒトが帝国に現れる、ちょうど一週間前の出来事である。
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