檻に囚われ、堕とされて

荒巻一青/もふモフ子

文字の大きさ
6 / 8

檻に囚われ、堕とされて(6)

しおりを挟む


***

「いやぁ、流石に遊び疲れたな。」
「主様、体力おばけ!?」
「おばけはお前だろう、紅塵。」

 夜、大広間の淫宴は終わり、どこからともなく嬌声は聞こえるものの、瑤香宮は静かな空気に包まれていた。

「まぁ、お前と同化した時から、俺はもう人間ではないのだろう。」

 他の者たちにはめられ、断罪させられかけたとき、何とか命をつないで報復するに至ったのは、この紅塵夢狐と同化したことがきっかけだった。
 さらに、皇帝から将軍まで、この都にいる人々を支配し、一番自分のものにしたい人をこの瑤香宮に閉じ込めることに成功した。

 瑤香宮の一角、美しい庭に囲まれた離れに赴いた双星は「入りますよ」と御簾をめくる。

「ご機嫌いかがです?師匠。」
「もうその呼び名はやめるように言っているでしょう、双星。」

 蘇望雲そぼううん。都の書記官たちを束ねる主録令しゅろくれいであり、位の低い双星の才を見出した恩人である。
 年齢を感じさせない美しい容姿に、双星はうっとりと彼を眺める。

「そんなところに立っていないで、中に入ったらどうです?」
「はい。」

 双星は蘇望雲の部屋へと足を踏み入れる。
 蘇望雲は既に準備していた茶器に手を伸ばし、手際よく茶を淹れる。そして、それを双星と紅塵へ差し出した。

「熱いので気を付けてくださいね?」
「ありがとうございます。」
「ありがとな!」

 一人と一匹が嬉しそうに受け取ると、蘇望雲は微笑んだ。その慈愛に満ちた瞳に見つめられると、双星は胸が高鳴るのを感じた。

「それで?しばらく留守にしていたと思ったら、急に帰ってきて、一体何をしていたのです?」
「以前から衝突を繰り返してきた隣国を黙らせに行って参りました。師匠へのお土産もたくさんありますよ。師匠の、この……。」

 蘇望雲の銀色に輝く長髪をひと房すくいあげ、双星はその髪に口づける。

「美しい御髪に似た簪を。」
「双星……っ!からかうのは止めなさい!」

 蘇望雲は恥ずかしそうに双星の手を払い、顔を背けた。

「からかってなどいませんよ。師匠は世界で一番美しいのだから、それ相応の装いをしないといけないでしょう?」
「頭のおかしいことを。大体、弟子の危機を防ぐこともできなかったこの師に、そんな言葉は似つかわしくないのです。」
「師匠、もういいのです。あの時のことはもう。ねぇ?」

 双星が陥れられたのは、ちょうど蘇望雲が不在の時を見計らってのことだった。蘇望雲が帰ってきた頃には、もう彼の手で収集がつかないくらいに事は進行していた。しかし、ずっと蘇望雲は双星を助けられなかったことを悔やみ続けている。

「それにあの一件がなければ、紅塵と出会うこともありませんでしたし、こうして師匠を閉じ込める後宮を作ることも叶いませんでしたので。」
「後宮……?閉じ込める?一体、何を……?」

 不思議そうに聞き返す蘇望雲に、「おっと!」と双星が慌てて口をつぐんだ。

「危ない……師匠と離れすぎて、以前の“設定”のことがすっかり抜けていた……えっと、なんだっけ、紅塵……。」
「おいらが覚えているとでも?」
「だよなぁ……。」

 後ろでこそこそと話し合う双星と紅塵に対し、「こら。無視をしない。」と蘇望雲がたしなめる。

「すみません、師匠。えーと、ここ最近の師匠は一体どんなお仕事を……?」
「全く、今晩の双星は不思議なことばかり言いますねぇ。以前、あなたがこの師に言ったのでしょう。“主録令として、弟子に性指導をするのが師の務めである”と。」

 呆れた顔で蘇望雲が言うと、「あはは!そうでした、そうでした♡」と双星は笑った。

「見なさい。お前がいつまでもこの師のところへ来ないから、こんなに指南書が溜まってしまいました。」
「おや、これは?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...