14 / 153
大ファン。
しおりを挟む「……ナイト」
「ナーちゃんっ……」
「わん!」
そこに、蒼く燃えるナイトが居た。
「ナーぐんッッッ…………!」
「ナイトぉぉおおお!」
「ナーちゃんっ……!」
「わふっ!? わんわんわんッ!?」
ベッドの上、私のちょうど膝の上に、私を文字通りに死んでも守った誇り高き忠義の騎士が居た。
私もお父さんもお母さんも、薄らと向こうが透けて見える以外はいつもと変わらない様子のナイトを、わんわんと泣きながら抱き締めた。
突然三人に飛びつかれたナイトは慌てた様子でわんわん吠え、でも嬉しそうに尻尾を振る、あの日の前と変わらないナイトだった。
帰って来れた。
この暖かい場所に、ナイトと一緒に帰って来れた。
ナイトが諦めなかったから。ナイトだけが折れなかったから、私はここに、ナイトと一緒に帰って来れた。
「ありがどうっ……! ないどっ、ありがどうっ…………!」
「わふっ! わう?」
泣きじゃくる私に、ナイトはやっぱり心配そうに舌を出して、私の涙を舐めた。
ずっとそうしてくれていた。あの地獄で、変わらず私の騎士であり続けてくれた。
ありがとう。ありがとう私の騎士様。
「ナイトッ! お前はっ……!」
「ナーちゃんっ、ナーちゃぁんッ!」
「わうわう!」
皆で泣いた。皆でナイトを褒めて、皆でナイトに感謝した。
多分、そのまま三十分くらい泣いていた。落ち着くまでそれだけ時間がかかって、でも私なんかはまだグズグズと泣いていた。
お父さんもお母さんも、もう二度と離さないと私を抱き締め続け、そしてお父さんはずっとナイトを褒め続けた。
「ナイト、そんな姿になってまで……! よく、よく優子を守り通してくれたっ!」
「わうんっ!」
「お前が、命懸けでっ、命を失ったあとさえも優子を守ってくれたのに、お前たちを助けに行けなかった不甲斐ない俺を、どうか、どうか許してくれっ……!」
「わんわん!」
「ナイト、お前は俺の自慢の息子だっ! 何よりも、誰よりも立派で、最高の息子でッ…………」
ナイトはあの地獄で、あのダンジョンで過ごした影響なのかとても頭が良くなってるみたいで、お父さんの言葉が全て分かってるみたいだった。
まるで「もう良いよー!」と照れるように、鼻をすすりながらナイトを撫でるお父さんの手を前足でペシペシ叩いてる。
「……………………いや、あの、そろそろ、よろしいですか?」
そうしていると、かなり長い時間待たせっぱなしにしていたお医者さんが申し訳なさそうに聞いてきた。
確かに今の私たちに割って入るのは、だいぶ空気が読めない行動であると言える。けど、お医者さんはこの部屋の隅で私たちを邪魔しないように、三十分も待っていたのだから、コレはコチラが悪いとも言える。
なので私たちは素直に謝り、お医者さんの用事を優先することにした。
「いやはや、僕もね、やっぱり見ましたから、何回も。浅田さんの三ヶ月を辿る動画は。だから目の前で本物の青い炎を見れて、さらに本物のナイト君にも会えて、正直今、叫びながら院内を駆け巡りたい衝動が凄いんですよ。気を抜いたら今すぐここを出て院内爆走しそうなくらいに感動してます。でもね、だからこそ、状況が分かってない浅田優子さんへの現状説明は大事だと思うのです。ついさっきまで、浅田さんはダンジョンの呼称や迷宮事変も知らなかったんですから」
なんでも、お医者さんは私とナイトの大ファンらしく、説明の合間に看護師さんへ「ねぇ君、色紙とか持ってない? 後でサイン欲しいんだけど、適当な物ないかな?」とか聞いてる。
そもそも、大ファンって、なに?
そんな疑問にもお医者さんはしっかりと答えてくれた。
「浅田さんをはじめ…………、いやご家族の前で苗字だと紛らわしいですね。優子さんと呼んでも?」
「あ、はい。大丈夫です」
「よっし! ご本人から名前で呼ぶ許可を貰ったっ……!」
「……あ、あの?」
「あ、ごめんない。説明を続けますね」
お医者さんによると、私を初めとしたダンジョンに入った人間は一人の例外もなく、先程見た動画サイト、ダンジョンムービーにアカウントが作られる。勝手に。
そしてダンジョンの中にいる間は常に、リアルタイムのライブ放送がされるそうだ。勝手に。
…………え、つまり私の三ヶ月って無許可で垂れ流しだったってこと? 勝手に?
「…………どうしようナイト、私死にいたい」
「わんっ!? わんわんわん!」
ナイトに相談したら「ダメダメダメ!」と怒られた。たぶんそんな感じで怒ってると思う。
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる