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目覚め。
しおりを挟む代々木管理区銅級ダンジョン。私があの日に落ちた、世界で唯一の『攻略済みダンジョン』である。
見下ろすダンジョンの入口は光を返さないブラックホールの様な大穴で、ここに飛び込むとダンジョンの中に行ける仕様らしい。
ステータスだのレベルだの、ダンジョンはゲーム的なシステムをベースとしてる。だけど、何から何までゲーム化されてる訳でも無い。
パーティシステムなんか実装されて無いし、インスタンスダンジョンな訳でも無い。
ただひたすらに広いダンジョンに、ランダム転送されるだけだ。
パーティプレイがしたい時は、手を繋いだりして一緒に穴へ飛び込むしかない。物理的な接触さえしてれば大丈夫なので、一本のロープをみんなで掴んでも良い。
アタッカーズショップではそんな時に使うロープも売ってて、私はちゃっかり買ってある。
武装して飛び降りるから、手を繋いで飛ぶと色々危ない。ロープを長めに持って飛ぶのが一番良いそうだ。
もちろん下手な持ち方をしたり巫山戯たりすると、体や装備に絡まったりして余計に危ないけど、ダンジョンで巫山戯る奴が危ない目に遭うのは当たり前なので気にしなくて大丈夫。
「はい。これパーティプレイ用のロープ。掴んで一緒に飛ぶと同じところに落ちれるんだってさ。離さないでね?」
「あーい!」
「優ちゃん、よろしくね」
黒と緑で編まれた太いロープを三人で掴んで、「せーのっ」と声を合わせて一斉に飛ぶ。
長めの浮遊感も、闇に飲まれてどこかに運ばれる感覚も、全部一年ぶりだ。
ほんの数秒、でも慣れないと数分にも感じる闇を抜けると、ハッキリ見える暗闇って言う矛盾した空間に出る。
懐かしい。虫唾が走って反吐が出る。
一切の明かりが無いのに周囲が見えてそう謎の闇に包まれた、そこそこの広さがある洞窟は、私の地獄が始まった場所であり、ナイトが死んだ場所。
ふと、周囲を照らす明かりが灯る。
お母さんがライトでも付けたのかと思って振り返っても、誰も明かりなんて付けてなかった。
「…………?」
「優ちゃん、光ってるのはあなたよ?」
「あぇ?」
「おねーちゃん、もえてる」
そこまで言われてやっと気付く。イライラしたせいで髪の毛から蒼炎がチリチリと吹き出てたらしい。
「……うん、まぁ、暗いままでも見えるけど、普通に照らした方が良く見えしね」
せっかくなので、毛先がチリチリと燃えるままにする。光源は多い方が良いからね。
「ナイト」
「わぅ?」
ダンジョン入りしたのでナイトも呼ぶ。全身が蒼炎であるナイトが顕現すると、一気に洞窟が明るくなる。
「よろしくね、ナイト。今度こそ一緒だよ」
「わぅ!」
ダンジョンその物は憎たらしいけど、ナイトと一緒に全力で遊べるアトラクションだとでも思えば悪くない。ナイトを撫でながらそんな事を考えた私は、お母さんと真緒に最初のレッスンを始める
「二人とも、ダンジョン入りして五分くらいはモンスターが出て来ない『最初で最後のセーフティエリア』だから、今のうちに装備の確認終わらせてね」
私の実体験とネットの情報。そして多々居るダンジョンアタッカーのアカウントから上がる動画から吸い上げたデータで、私なりの『最適レベリング』計画は立ててある。
ダンジョンは入場して五分間、入場した付近から動かない事を条件にモンスターが寄ってこない。これもネットから手に入れた情報だ。
ボッボッボッと蒼炎を吹かしてスキルの具合を確かめて、大戦斧も軽く振って体の調子を確かめる。
その過程で防具が体や武器に干渉しないかどうかを確認すれば、私の準備は終わりだ。
「どう? 大丈夫?」
「ええ、多分…………」
「おねーちゃん、まおはこれで、だいじょーぶ?」
「んー、うん。大丈夫そうだね」
先んじて装備の確認をすることでお手本を見せて、二人にも確認を促す。
その間に役目を終えて地面に落ちてるパーティ用ロープを蒼炎で包み、燃やす様にしてインベントリに収納する。やっぱりインベントリ能力便利だなぁ。
「そろそろ五分立つかな? よし、もうすぐゴブリンが寄ってくると思うから、まずはソレに慣れようか」
ジャージとジャケットの調整は問題無し。武器も軽く振って調子を確かめて、二人も準備OKだ。
何回も何回も言うけど、今日は本当にダンジョンへ慣れる事が目的だ。
だから、初日の目標としてはやっぱりゴブリンと遭遇して慣れる事になる。
「じゃぁ取り敢えず、その辺のゴブリンを探そうね」
お母さんと真緒を促してダンジョン探索を開始する私達。殿はナイトが担当してくれる。安心して探索が可能だ。
そんな布陣でゴブリンを探し始める私達は、ほんの数分で目的を達成する。
そして…………。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア ゛ッッ……!」
「ぎえぢゃぇええええ゛え゛ええええ゛えええ゛え゛え゛えええッッッッッ!」
ゴブリンに遭遇した二人は、その場で突然覚醒した。
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