1 / 119
1,軽く死ねる。
しおりを挟む私の名は、アリア。16歳。
先祖代々、10エーカーのカブ畑を耕してきた農家の娘。両親が流行り病で亡くなったので、受け継がれてきた畑は私が守るよっ!! という現況。
ところで、そんな私にも慎ましい夢があります。
幼馴染のセシリアちゃんと結婚することなのです。ただセシリアちゃんは、私の気持ちは知らないので、いまはまだ秘めたる思い。
ところが先日、私の秘めたる気持ちを試しに『私の友達の友達の友達の農家の娘さんがね、セシリアという美少女さんと結婚したいんだってー』と知人に話してみたところ、『それは逆立ちしてもあり得ないでしょう』と即答された。
逆立ちしてもダメってなんじゃそりゃ?
と内心では怒り焦燥パニックに駆られつつも、沈着冷静に尋ねた。
『な、な、な、な、な、なぜなの?』
するとその知人が言うには、
『女の子同士じゃん』
『女の子同士の何が悪いのですか!』
と私が叫んだところ、
『この国、同性婚は違法だし』
これはこの国を亡ぼすしかない。
と、真面目に思いつめたけど、すぐにもっと簡単な解決法に気づきました。
まず、私がセシリアちゃんと結婚できないのは、バグとしかいいようがない。『結婚できないバグ』である。バグは直さねばならない。
ではどうやってバグを修正するの?
ダンジョン塔【覇王魔窟】の最上階まで行けばいいんだよ!
【覇王魔窟】とは、私の国ができるずっと前から、この大陸に聳えているダンジョン塔。一説には、古代の神々が造ったんだって。
推定では、最上階は1000階。
そして古文書によると、最上階までたどり着けば、その人の夢がひとつだけ叶うという。だから私はダンジョン塔【覇王魔窟】の最上階まで行き、『セシリアちゃんと結婚できないバグ』を直してもらえばいいのだ。
というわけで、今。
私は、曾祖父の代から我が家に受け継がれてきた、家宝の鍬くわとともに、ダンジョン塔《覇王魔窟》の前に立っている。
目指すは、最上階1000階。
ちなみに装備している鍬はただの鍬だけど、ただの鍬ではないのです。何世代にもわたって畑を耕してきた鍬なのです。重みが違う。
ところで──ダンジョン塔【覇王魔窟】の最上階へは、これまでも何千人という挑戦者が挑んだそうだけど、誰ひとり最上階までたどり着いた者はいないんだって。
最上階どころか、たいていは100階にも行けず、魔物やトラップによって死んでしまそうです。
いっとき、法的に立ち入り禁止にしたこともあったが、とたん国全域で干ばつが襲ったとか。それが【覇王魔窟】の怒りと解釈され、いまは『入りたい人は誰でも入っていいよ。死んでも責任は取らないけど』ということになっている。
さて、【覇王魔窟】一階に入ります。
「こんにちはー、誰かいらっしゃいますか?」
一階は凄く暗い。二階へと続く階段はすぐに見つかったけど、なにやら結界で守られている。あの結界がなくなってくれないと、二階へ上がれないのだけど?
ところで──なぜかいきなり転んでしまった。
滑ったのかな? えへへ、ドジだなぁ、私は。
立ちあがろうとしたが、どうしても立ちあがれない。
はて、私はなぜ立てないのでしょうか? うつ伏せに倒れたまま、両足を見る。あれ? ないよ? 私の両足が、膝の先からないよ?
あっ、あった。私の両膝の下は、ちゃんと立・っ・て・いるよ。切断面を上にして。
なーんだ。両足が膝のところで、綺麗に切断されたんだねぇ。あんまりにスパッと切断されたものだから、気づかなかったよ。
………………………え? 足、足、足、足、足、足、私の足がぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!
「誰ぇぇぇ、私の両足チョッキンしちゃったの誰ぇぇぇぇぇ!?!?」
誰かといえば、こちら。闇からぬっと現れたのは、巨大な蠍さそり型の魔物。馬よりも大きいんだから。こんなのがふっと出てきたら、子供だったらおしっこ漏らしちゃうよ……………いや、私の場合、両足切断されたショックだから仕方ないよね。
だから、この魔物が犯人。巨大なハサミ型の触肢が、私の両足をチョッキンした。チョッキン、チョッキン、チョッキン、チョッキン、
「なんてことするのぉぉぉぉ! まだ今年のカブの収穫も、終わってないのにぃぃぃぃぃ!!」
受け継がれしただの鍬を振り上げ、叩き込んでやろうとしたけど。その前に、蠍型魔物の後端の毒針が、しゅっと伸びてきて、私の右腕を刺した。
あれ。そんなに痛くないや。
痛く、ない、というか、カ感覚がなくなって──私の右腕が、刺されたところからドロドロになっていく。ただの皮膚色のドロドロになって、ドロドロと、溶けた蝋みたいにドロドロと垂れていく。
「溶ける溶けるなんで溶けてるの、私の右腕ぇぇぇぇええ!! まだ収穫終わってないのにぃぃぃぃぃ!!」
左手で落ちた鍬をつかんだ。つかんだけど、これ、どうするの? 両足と右手がなくなって、私はどうするの、これ? ところで、あまりに複数の蟲的なる足音がする。それが近づいてくる。そして周囲を見回せば、私は何十体もの蠍型魔物に囲まれていた。
あれ? 一体だけではなかったんですね。
これ以上は戦えない。戦えないので、逃げる。逃げるには立って走るしかない。その足がないんだけど! あれ、私、もう詰んだ?
私は鍬を振り回して、なんとか牽制できないかなと。とにかく、何とか事態を打開するために──ガシッと、蠍さそり型魔物の一体のハサミ型の触肢が、私の左腕の肘のところをつかんだ。そう、まだつかんだだけ。切断はされていない。
「あ……あの……できれば、それだけは勘弁してください…………左腕一本くらいは残してくれても……」
蠍型魔物は、まず私を見た。そしてゆっくりと、私の左腕の肘をつかんでいるハサミに力を加えていった。両膝を切断されたときは、あまりに一瞬で痛みも感じなかったけど。こんなにじわじわとやられては──
「痛い痛い痛いいいいい痛い゛゛゛いいいいいいいたいたいたいいいいいたいいた痛いたいたいたいやめてやめていたいた痛いいたい痛いがら痛痛゛い痛゛いからあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!」
ちょっきんではなくて、メリメリと。メリメリと肉が裂けて、骨が砕けて。やっと切り落としてくれた。
「あぅぅぅぅぅぅぅ!! 痛い痛いぃぃぃぃ切断されたあともやっぱり痛いぃぃぃぃぃぃいあぁぁぁ、家宝の鍬がぁぁあ、そんなことより痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃい!!!」
あまりの痛さに、身体を激しく動かしたところ、偶然にも転がりだした。転がる、転がる、このまま出口に向かって転がれば、とりあえず生還できる!
瞬間。一体の蠍型魔物の毒針が、私の右眼にぶっ刺さった。ずぼっと。まずそれで右眼球が潰れたので、視界が片側半分だけ消滅。そしてじわじわと、顔中へと広がる熱。これは皮膚や筋肉が溶ける熱、ああ熱、熱-------。
「って、溶けてるよねぉぉぉぉぉこれ溶けてますよねぇぇぇぇえ私の顔があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!???!!!」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこれ死んだというか殺して早く殺してもう殺そうよみんな早く殺してぇぇくださぁぁぁぁぃぃぃいいい!!
ところが蠍型魔物たちは、一仕事終えたぜ、という雰囲気で闇の中に散っていった。
かくして、私だけが取り残される。両足と左腕は切断され、右腕と顔は溶かされて。しかし、幸か不幸かまだ脳までは毒液で溶かされなかったみたい。そのせいで意識は明瞭。あまりに明瞭。
「ああああ……あああ……収穫………収穫……セシリアちゃん…………同性婚………鍬……家宝の鍬……カブ…………カブ…………うぅぅ」
ゆっくとり転がるため、まず慣性をつける。両手足がないと、転がりだすのも一苦労。ただいったん転がりだすと勢いがつくので、転がり続けるのもそこまで難しくはない。そして転がって、転がって、ダンジョン塔【覇王魔窟】から出る。そのあとも少し転がってから、力尽きた。
仰向けで止まったので、かすむ視界(残った左眼だけの)で、夜空を見ている。良かった。うつ伏せに止まったら、地面を見ているところだった。
そして、かすむ視界に、不可解なものが現れる。私と同世代の女の子。ただ、耳がとがっている。エルフさん? けどエルフさんは、もう何百年も昔に絶滅したはず。
そしてエルフ(?)の女の子は、楽しそうに笑うのでした。
「わぁ、キミの顔、すごいことになってるよー。顔が半分溶けちゃってる。グロ笑い」
「……………1000階」
「え、なぁに?」
「……………ダンジョンの1000階まで……………1000階まで……私は、のぼ、る……」
ここで意識が途絶えた。これが死の闇黒かぁ。
セシリアちゃん、最期にもう一度だけ会いたかった…………………
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる