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5,スキルツリー。
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その夜は、自宅に帰った。
両親ともにすでにこの世を去っているので、誰も迎えてくれる人はいない。まぁ、不幸中の幸いといいますか──顔の右半分がグチャグチャになってしまったので、もしお母さんが見たらパニックになっただろうし、お父さんに至ってはショックで死んでいたかもだし。いまは二人とも天国から生暖かく見守っていてくれていることでしょう。
お腹すいた。カブシチューでも作ろうかな。カブ以外には、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。あとは、ここはちょっと贅沢に鶏肉を加えよう。庭に出て、アッサンブル太郎という名の鶏を絞める。捌きながら、「美味しくいただくからね~」と語り掛けること忘れずに。
にしても、明日はまた【覇王魔窟】に挑戦だ。
こんどは、ちゃんと計画を立てていこう。カブシチューを煮込みながら、【覇王魔窟】ルールについて思いをはせる。
すべての階では、出現する魔物の種類と数は決まっている。つまり、明日も【覇王魔窟】1階にいるのは、蠍(さそり)型魔物の蠍群魔さんたちというわけだ。それも個体数も同じ。
うーむ。昨日、四肢切断(厳密には右腕は毒液で溶けた)されたとき、果たして蠍群魔は何体いただろう。たくさんいた、という記憶しかない。これはまた出たとこ勝負になりそうな予感。
しかし──今回は、どんな魔物が出てくるか分かっているわけだし。蠍群魔で気をつけるべきは、まずハサミ型の触肢。そして後端の毒針だよねぇ。
何か、防御できるものは──ふと目についた。鍋の蓋が。
翌朝。私は【覇王魔窟】の前に立っていた。本日もお日柄がよく──他には誰もいない。いや、ジェシカさんが来てくれた。
「ジェシカさん! 見送りにきてくれたんですね!」
「そうだよー。キミは、ボクが支援することに決めた人間なんだからねー。そう簡単に死なれちゃ困るよー。ちゃんと〈緊急脱出トンカチ〉を装備したね? ヤバくなったら、速攻で脱出だよ。次、四肢切断されても、もう〖女神の泉〗での再生はないんだからね。あとはお笑い担当として、エルフの里で生きるしかないよ」
「分かってますって。もうジェシカさんは心配性だな~。愛の星のもと突き進む私を止められるものはいないのです!!」
「……だるま状態にされて転がって逃げてきた人の言うセリフかね」
では、【覇王魔窟】に突撃。
右手には、魔素を貯め込めるようになった武装Lv.1の鍬(くわ)。左手には、ただの鍋の蓋。
【覇王魔窟】1階は、前回来たときと同じ。まず入ってすぐには、蠍群魔の姿は見えない。馬なみにでかい蠍(さそり)型のモンスターが、闇にすっかり隠れている。
私は壁に背をつけた。とにかく囲まれて、後ろから攻撃されるのが怖いからね。そして、三歩先にある闇に目を凝らす。
いるね。隠れている。
私は深呼吸してから、跳躍。闇に飛び込んで、こちらから先制攻撃。蠍群魔に、鍬を叩き込む。そして、連打、連打。気合の声として、「鍬(くわ)!」を採用したよ。
「鍬! 鍬! くわくわくわくわくわくわくわぁぁぁあ!」
毒針の後端が伸びてくる。私は反射的に鍋蓋で防御。一撃目で、ただの鍋蓋のシールドは破壊されてしまった。だけど一撃だけでも防げたので良し。
鍬による打撃の手は止めない。とにかく、ここで勢いをもって、一体でも倒さないと。
「くわくわくわくわくわぁぁぁぁぁぁ!!」
ぐちゃり、と蠍群魔の胴体が潰れる。
ふいに蠍群魔を構築していた肉体が紫色の霧となり、さらに私の鍬に吸い込まれていった。あ、今のが魔素なんだね。
ふいに鍬の武装Lv.が2に上がった。初期だからレベルが上がりやすいんだね。
ところでジェシカさんは、私の思念は鍬と連動しているので、鍬がスキルツリーに開眼すれば、それを心眼で見ることができるとか。
やってみよう。
あ、本当だ。見えてきた。えーと。これがスキルツリーかぁ。というか、どちらかというとボードゲームみたいに見えるなぁ。
えーと、スタート地点が中心にあって、まず辿れるルートが四方向へと別れている。四つの領域はそれぞれが、『打撃』『防御』『栽培』『射程』となっていた。
ふむふむ。つまり、この四領域のうち、どの種類のスキルをより解放して進化させていきたいか、だね。それではじめに取るルートが決まってくるわけだ。
やっぱり、はじめは『打撃』かな? 鍬(くわ)だし。
そこで『打撃』領域へルートを行くと、現在解放できるパネル候補は二つ。つまり、どっちか片方だけ。
一つ目の解放できるパネル候補は、『鍬の打撃力をUPする』とある。あ、これはスキル習得じゃなくて、鍬の強化なんだね。
うーん。せっかくだし、初めは何かスキルを習得したいなあ。強化系も重要なのは分かるけど、「私、強くなった!」の感じは、やっぱり新スキルの会得あってこそだよねぇ。
もう一つの、解放できるパネル候補は、《爆打》というスキルだった。じゃ、このスキルを解放しよう。
やったね! 新スキル、《爆打》を習得したよ!
《爆打》→叩き込んだ敵に、爆発のダメージを与える。しかし反動で、使用したあと数秒身動きが取れない。
爆発! 鍬なのに!
「なんかよくわからないけど、《爆打》だよっっっっ!」
二体目の蠍群魔に、《爆打》を叩き込んだ。鍬の打撃とともに、爆発。
反動で、こっちは身動きが取れなくなる──だけど安心。一撃の《爆打》だけで、二体目の蠍群魔が死んだので。魔素となって、私の鍬に取り込まれる。
凄い。《爆打》の威力半端ない!
その後も、私は壁を背にして戦った。テンションの高さで不用意なことはしない。慎重に、慎重に。
《爆打》で一撃で倒せるけど、こっちの動きも数秒止まる。だから二体同時に戦っちゃダメ、ということ。一体ずつ、確実に、近くに仲間がいないことを確認してから、《爆打》で仕留めるよっ!
かくして──気づいたら、蠍群魔がいなくなっていた。
全体撃破に成功したよっ!
2階へ続く階段の結界が解かれる。また私の鍬が、さっそくLv.3に上がった。この初期のサクサク感、好きっっっ!!
両親ともにすでにこの世を去っているので、誰も迎えてくれる人はいない。まぁ、不幸中の幸いといいますか──顔の右半分がグチャグチャになってしまったので、もしお母さんが見たらパニックになっただろうし、お父さんに至ってはショックで死んでいたかもだし。いまは二人とも天国から生暖かく見守っていてくれていることでしょう。
お腹すいた。カブシチューでも作ろうかな。カブ以外には、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。あとは、ここはちょっと贅沢に鶏肉を加えよう。庭に出て、アッサンブル太郎という名の鶏を絞める。捌きながら、「美味しくいただくからね~」と語り掛けること忘れずに。
にしても、明日はまた【覇王魔窟】に挑戦だ。
こんどは、ちゃんと計画を立てていこう。カブシチューを煮込みながら、【覇王魔窟】ルールについて思いをはせる。
すべての階では、出現する魔物の種類と数は決まっている。つまり、明日も【覇王魔窟】1階にいるのは、蠍(さそり)型魔物の蠍群魔さんたちというわけだ。それも個体数も同じ。
うーむ。昨日、四肢切断(厳密には右腕は毒液で溶けた)されたとき、果たして蠍群魔は何体いただろう。たくさんいた、という記憶しかない。これはまた出たとこ勝負になりそうな予感。
しかし──今回は、どんな魔物が出てくるか分かっているわけだし。蠍群魔で気をつけるべきは、まずハサミ型の触肢。そして後端の毒針だよねぇ。
何か、防御できるものは──ふと目についた。鍋の蓋が。
翌朝。私は【覇王魔窟】の前に立っていた。本日もお日柄がよく──他には誰もいない。いや、ジェシカさんが来てくれた。
「ジェシカさん! 見送りにきてくれたんですね!」
「そうだよー。キミは、ボクが支援することに決めた人間なんだからねー。そう簡単に死なれちゃ困るよー。ちゃんと〈緊急脱出トンカチ〉を装備したね? ヤバくなったら、速攻で脱出だよ。次、四肢切断されても、もう〖女神の泉〗での再生はないんだからね。あとはお笑い担当として、エルフの里で生きるしかないよ」
「分かってますって。もうジェシカさんは心配性だな~。愛の星のもと突き進む私を止められるものはいないのです!!」
「……だるま状態にされて転がって逃げてきた人の言うセリフかね」
では、【覇王魔窟】に突撃。
右手には、魔素を貯め込めるようになった武装Lv.1の鍬(くわ)。左手には、ただの鍋の蓋。
【覇王魔窟】1階は、前回来たときと同じ。まず入ってすぐには、蠍群魔の姿は見えない。馬なみにでかい蠍(さそり)型のモンスターが、闇にすっかり隠れている。
私は壁に背をつけた。とにかく囲まれて、後ろから攻撃されるのが怖いからね。そして、三歩先にある闇に目を凝らす。
いるね。隠れている。
私は深呼吸してから、跳躍。闇に飛び込んで、こちらから先制攻撃。蠍群魔に、鍬を叩き込む。そして、連打、連打。気合の声として、「鍬(くわ)!」を採用したよ。
「鍬! 鍬! くわくわくわくわくわくわくわぁぁぁあ!」
毒針の後端が伸びてくる。私は反射的に鍋蓋で防御。一撃目で、ただの鍋蓋のシールドは破壊されてしまった。だけど一撃だけでも防げたので良し。
鍬による打撃の手は止めない。とにかく、ここで勢いをもって、一体でも倒さないと。
「くわくわくわくわくわぁぁぁぁぁぁ!!」
ぐちゃり、と蠍群魔の胴体が潰れる。
ふいに蠍群魔を構築していた肉体が紫色の霧となり、さらに私の鍬に吸い込まれていった。あ、今のが魔素なんだね。
ふいに鍬の武装Lv.が2に上がった。初期だからレベルが上がりやすいんだね。
ところでジェシカさんは、私の思念は鍬と連動しているので、鍬がスキルツリーに開眼すれば、それを心眼で見ることができるとか。
やってみよう。
あ、本当だ。見えてきた。えーと。これがスキルツリーかぁ。というか、どちらかというとボードゲームみたいに見えるなぁ。
えーと、スタート地点が中心にあって、まず辿れるルートが四方向へと別れている。四つの領域はそれぞれが、『打撃』『防御』『栽培』『射程』となっていた。
ふむふむ。つまり、この四領域のうち、どの種類のスキルをより解放して進化させていきたいか、だね。それではじめに取るルートが決まってくるわけだ。
やっぱり、はじめは『打撃』かな? 鍬(くわ)だし。
そこで『打撃』領域へルートを行くと、現在解放できるパネル候補は二つ。つまり、どっちか片方だけ。
一つ目の解放できるパネル候補は、『鍬の打撃力をUPする』とある。あ、これはスキル習得じゃなくて、鍬の強化なんだね。
うーん。せっかくだし、初めは何かスキルを習得したいなあ。強化系も重要なのは分かるけど、「私、強くなった!」の感じは、やっぱり新スキルの会得あってこそだよねぇ。
もう一つの、解放できるパネル候補は、《爆打》というスキルだった。じゃ、このスキルを解放しよう。
やったね! 新スキル、《爆打》を習得したよ!
《爆打》→叩き込んだ敵に、爆発のダメージを与える。しかし反動で、使用したあと数秒身動きが取れない。
爆発! 鍬なのに!
「なんかよくわからないけど、《爆打》だよっっっっ!」
二体目の蠍群魔に、《爆打》を叩き込んだ。鍬の打撃とともに、爆発。
反動で、こっちは身動きが取れなくなる──だけど安心。一撃の《爆打》だけで、二体目の蠍群魔が死んだので。魔素となって、私の鍬に取り込まれる。
凄い。《爆打》の威力半端ない!
その後も、私は壁を背にして戦った。テンションの高さで不用意なことはしない。慎重に、慎重に。
《爆打》で一撃で倒せるけど、こっちの動きも数秒止まる。だから二体同時に戦っちゃダメ、ということ。一体ずつ、確実に、近くに仲間がいないことを確認してから、《爆打》で仕留めるよっ!
かくして──気づいたら、蠍群魔がいなくなっていた。
全体撃破に成功したよっ!
2階へ続く階段の結界が解かれる。また私の鍬が、さっそくLv.3に上がった。この初期のサクサク感、好きっっっ!!
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