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27,千年の孤独。
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しかし、古代神から天罰は起こらなかった。
私は大いに落胆し、〈悪鬼羅刹〉こと少年くんは、大いにホッとした様子。
「さて。馬鹿げたことをやってくれたお姉さんには、罰ゲームだ」
少年くんの背後に、水平に立った魔法陣が展開される。その魔法陣の色は、鮮紅色だ。いまその魔法陣から、私に向かって攻撃が放たれようしている。
極めて確実に言い切れることは、それは防御はできない。回避するしかない。しかし、そもそも回避不能ということもある。つまるところ、ここで私の人生が終わる可能性は高し。
ならばやるべことは、話すこと。カブ畑に対してひたすら話してきた私だけど、人間相手にはコミュ障だからなぁ。とにかく、何かを言うのだ。ここでの一言が、明日の人生へと道を開くことができるのだから。
「千年の孤独ですね」
「なんだって?」
「古代神より自我を与えられたのに、ひたすら放置プレイでは、あなたがルールを違反して外の世界に出たがる気持ちは分かりますよ」
少年くんはバカにしたように笑った。
「僕に同情したフリで、命乞いでもするつもりかな?」
「同情なんかするわけがないでしょう。私が言いたいのは、やはり魔物に自我など持たせるべきではなかったのです。私のカブのほうが余程聞き分けがいい。まったく【覇王魔窟】で大人しくしていれば、そのうち私が会いにいってあげたものを」
「あいにくだね。お姉さんのような、虫けらでは到底たどり着けない階だ。知っているかな? これまで長いあいだ、数多の人間が【覇王魔窟】に挑戦してきた。彼らが到達した最高階は、どこだと思う? 658階だ。たったそれだけ。僕がいるのは、999階。人類が滅び、この惑星が終末を迎えようとも、誰も来やしない!」
「行きますよ。私は、ちゃんと行きます」
少年くんは、私を眺めながら首を振る。
それから魔法陣の色が、鮮紅色から橙色へと変わった。先ほど、『この鮮紅色の魔法陣から放たれる攻撃は、必ず死ぬものだ』という直感があった。ならば、今は? いま直感が告げるのは、橙色の魔法陣から放たれる攻撃は──希望はある。
「ならお姉さん。僕もヒマだから、賭けてみようかな。面白いゲームだ。お姉さんが999階に来られるのか。だけど早くしたほうがいいよ。僕は焦らされるのが嫌いなんだ」
それから少年くんは、ベロニカさんの腹部に、何かを仕込んだ。
「いまこっちのお姉さんの体内に入れたのは、魔素の塊だ。取り出すことは不可能。そして、今からきっかり666日後に破裂する。そうしたら、このお姉さんの肉体は変換し、それは醜い魔物となることだろう。だからそれまでに僕のところに来て、僕を殺すことだ。それしか解除方法は──あれ、お姉さん、名前は?」
「アリアですっ! よろしくですっ!」
「間に合うといいね。アリアお姉さん」
少年くんが消える。
しかし橙色の魔法陣は残したまま。そこから、まず鼻づらが出てきた。はい? 鼻づら、ですか? 鼻づらの先には、大きなトカゲのような頭。さらに折り畳まれていた両翼が開く。
あうっっ、橙色の鱗が全身を覆う、立派なドラゴンの登場だい。
ドラゴンがぱかっと口を開いたので、私はとっさに右へ跳んだ。私がいた空間を、放たれたレーザー光線が通過する。えー。レーザー光線がやらかしたことを見よう。壁を溶かし、屋敷外まで燃やし尽くし、森林地帯を破壊しながら、どこまでも真っすぐに放たれていく。
あれは──もしかすると、さっき私たちがいた町まで、被害が出ているかもしれない。
ドラゴンが両翼を羽ばたかせ、飛び立つ。ちなみにこの羽ばたかせた両翼の突風で、私は吹っ飛ばされた。
「魔物のくせに、魔物を召喚するなんて反則じゃない」
ドラゴンは飛んでいった。どこに行ったかなんて、私の責任ではないよ。それよりベロニカさんを助けないと。
念のため、ベロニカさん以外の冒険者ギルドメンバーが生きているかを確認。といっても、ジョンソンさんたちはみんな、胴体を切断されたり、頭部を潰さたりで、生きている余地がなかったけど。念のためです。
それから、虫の息のベロニカさんを抱き上げて、屋敷を出た。
そして──
5時間後、私の前には、不満そうなジェシカさん。というのも、ベロニカさんを連れていった先が、エルフの里だったため。
「あのさぁ。君さ、君。ボクたちエルフが、身を隠している設定、忘れたの? そんなさ、気軽に訪ねられても困るんだよね。しかもケガ人を連れてさ」
などと文句を言っているのは、すでにベロニカさんをエルフの里の病院まで連れていってくれた後のこと。追い払わないあたりに、ジェシカさんの優しさがつまっている。
「人がいい、と言いますが、ジェシカさんの場合『エルフがいい』ですね」
「褒めてないよね、それ」
「そんなことよりジェシカさん、聞いてください。とんでもないことが起きまして」
「え、とんでもないこと?」
それから、私はカブ畑虐殺事件の顛末について、20分ほど熱く語ったのだった。なぜかジェシカさんは、すっかり興味を失った様子で、はんぶん転寝していたけど。
私は本題を語り終え、お茶を飲んで喉を潤した。それから、おまけとして付け足した。
「そういえば【覇王魔窟】999階の魔物と、【覇王魔窟】の外、つまりこの王国のある屋敷で遭遇しましてね。ドラゴンを召喚して、どこかに消えました。憎たらしい子でしたが、ベロニカさんのためにも、666日以内に会いに行き、殺させていただきます」
ジェシカさんは怒鳴った。
「それのほうが、君の腐れカブ畑の1億倍はとんでもないことでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……腐れカブ畑? ひどい。
私は大いに落胆し、〈悪鬼羅刹〉こと少年くんは、大いにホッとした様子。
「さて。馬鹿げたことをやってくれたお姉さんには、罰ゲームだ」
少年くんの背後に、水平に立った魔法陣が展開される。その魔法陣の色は、鮮紅色だ。いまその魔法陣から、私に向かって攻撃が放たれようしている。
極めて確実に言い切れることは、それは防御はできない。回避するしかない。しかし、そもそも回避不能ということもある。つまるところ、ここで私の人生が終わる可能性は高し。
ならばやるべことは、話すこと。カブ畑に対してひたすら話してきた私だけど、人間相手にはコミュ障だからなぁ。とにかく、何かを言うのだ。ここでの一言が、明日の人生へと道を開くことができるのだから。
「千年の孤独ですね」
「なんだって?」
「古代神より自我を与えられたのに、ひたすら放置プレイでは、あなたがルールを違反して外の世界に出たがる気持ちは分かりますよ」
少年くんはバカにしたように笑った。
「僕に同情したフリで、命乞いでもするつもりかな?」
「同情なんかするわけがないでしょう。私が言いたいのは、やはり魔物に自我など持たせるべきではなかったのです。私のカブのほうが余程聞き分けがいい。まったく【覇王魔窟】で大人しくしていれば、そのうち私が会いにいってあげたものを」
「あいにくだね。お姉さんのような、虫けらでは到底たどり着けない階だ。知っているかな? これまで長いあいだ、数多の人間が【覇王魔窟】に挑戦してきた。彼らが到達した最高階は、どこだと思う? 658階だ。たったそれだけ。僕がいるのは、999階。人類が滅び、この惑星が終末を迎えようとも、誰も来やしない!」
「行きますよ。私は、ちゃんと行きます」
少年くんは、私を眺めながら首を振る。
それから魔法陣の色が、鮮紅色から橙色へと変わった。先ほど、『この鮮紅色の魔法陣から放たれる攻撃は、必ず死ぬものだ』という直感があった。ならば、今は? いま直感が告げるのは、橙色の魔法陣から放たれる攻撃は──希望はある。
「ならお姉さん。僕もヒマだから、賭けてみようかな。面白いゲームだ。お姉さんが999階に来られるのか。だけど早くしたほうがいいよ。僕は焦らされるのが嫌いなんだ」
それから少年くんは、ベロニカさんの腹部に、何かを仕込んだ。
「いまこっちのお姉さんの体内に入れたのは、魔素の塊だ。取り出すことは不可能。そして、今からきっかり666日後に破裂する。そうしたら、このお姉さんの肉体は変換し、それは醜い魔物となることだろう。だからそれまでに僕のところに来て、僕を殺すことだ。それしか解除方法は──あれ、お姉さん、名前は?」
「アリアですっ! よろしくですっ!」
「間に合うといいね。アリアお姉さん」
少年くんが消える。
しかし橙色の魔法陣は残したまま。そこから、まず鼻づらが出てきた。はい? 鼻づら、ですか? 鼻づらの先には、大きなトカゲのような頭。さらに折り畳まれていた両翼が開く。
あうっっ、橙色の鱗が全身を覆う、立派なドラゴンの登場だい。
ドラゴンがぱかっと口を開いたので、私はとっさに右へ跳んだ。私がいた空間を、放たれたレーザー光線が通過する。えー。レーザー光線がやらかしたことを見よう。壁を溶かし、屋敷外まで燃やし尽くし、森林地帯を破壊しながら、どこまでも真っすぐに放たれていく。
あれは──もしかすると、さっき私たちがいた町まで、被害が出ているかもしれない。
ドラゴンが両翼を羽ばたかせ、飛び立つ。ちなみにこの羽ばたかせた両翼の突風で、私は吹っ飛ばされた。
「魔物のくせに、魔物を召喚するなんて反則じゃない」
ドラゴンは飛んでいった。どこに行ったかなんて、私の責任ではないよ。それよりベロニカさんを助けないと。
念のため、ベロニカさん以外の冒険者ギルドメンバーが生きているかを確認。といっても、ジョンソンさんたちはみんな、胴体を切断されたり、頭部を潰さたりで、生きている余地がなかったけど。念のためです。
それから、虫の息のベロニカさんを抱き上げて、屋敷を出た。
そして──
5時間後、私の前には、不満そうなジェシカさん。というのも、ベロニカさんを連れていった先が、エルフの里だったため。
「あのさぁ。君さ、君。ボクたちエルフが、身を隠している設定、忘れたの? そんなさ、気軽に訪ねられても困るんだよね。しかもケガ人を連れてさ」
などと文句を言っているのは、すでにベロニカさんをエルフの里の病院まで連れていってくれた後のこと。追い払わないあたりに、ジェシカさんの優しさがつまっている。
「人がいい、と言いますが、ジェシカさんの場合『エルフがいい』ですね」
「褒めてないよね、それ」
「そんなことよりジェシカさん、聞いてください。とんでもないことが起きまして」
「え、とんでもないこと?」
それから、私はカブ畑虐殺事件の顛末について、20分ほど熱く語ったのだった。なぜかジェシカさんは、すっかり興味を失った様子で、はんぶん転寝していたけど。
私は本題を語り終え、お茶を飲んで喉を潤した。それから、おまけとして付け足した。
「そういえば【覇王魔窟】999階の魔物と、【覇王魔窟】の外、つまりこの王国のある屋敷で遭遇しましてね。ドラゴンを召喚して、どこかに消えました。憎たらしい子でしたが、ベロニカさんのためにも、666日以内に会いに行き、殺させていただきます」
ジェシカさんは怒鳴った。
「それのほうが、君の腐れカブ畑の1億倍はとんでもないことでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……腐れカブ畑? ひどい。
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