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41,暗殺阻止ルート。
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「人類文明の転換点はどこだと思う? それは下水道設備のトイレを建造したときだね」
と、ジェシカさんが意味のわからんことを言っている。確かに清潔なトイレを見つけると、テンションが上がるけれども。
用を足して、王城の廊下を歩いていく。叙勲式の会場に戻ろうと思っていたが、迷った。
「ジェシカさん、迷いました」
隣を歩きながら、のんびりとした表情だったジェシカさんが「はぁぁ?」という顔になる。
「なんで迷うの? キミさ、ダンジョン攻略の達人でしょ?」
「恐ろしいことを言いますね、ジェシカさん。【覇王魔窟】なんて、すべてワンフロアですからね。あれほど単純な一本道も珍しい。……まってください。そもそも、【覇王魔窟】ってダンジョンなんですか? もうダンジョンの定義からかけ離れていません?」
「いまさら? そこをいまさら? あのさ、そこはこう解釈できると思うね。つまりダンジョンというものは探索することでもあるから。【覇王魔窟】をのぼるということは、それは探索に他ならない。たとえ一本道でも──しかし、そもそもいつまでも一本道とは限らないんじゃないかな。【覇王魔窟】にしてみたら、1階~200階あたりは、初心者のための領域。この先に【覇王魔窟】迷宮化があると見たね」
「【覇王魔窟】の予言なんてしてなくていいですから、ちょっと道案内を誰かに頼みましょう。それにしても、なんて迷路然としたところなんでしょう」
「敵が攻めてきたときに備えているんじゃないの? そういう意図がなくこんなに迷路然としているのなら、設計士が無能だったんじゃないの」
「または増改築を繰り返していたとか? もうそんなことはどうでもいいですから、誰かいないんですか、誰か」
とある扉を開けたところ、複数の男の人たちが頭を突き合わせて、何やらヒソヒソと会話していた。私は会話を聞こえなかったが、ジェシカさんは聞き取ったらしい。聴覚がいいんだね、エルフさんって。
「わっ、なんだコイツら! アリア、ボクが許可するから、コイツらを殺してしまいなさい!」
「私、人は殺しませんよ」
「……………え、だってカブ畑を荒らした盗賊たちを殺して堆肥にしたとか」
「カブ畑を荒らした方々は、すでに死んだようなものだったのです。死人を殺すということが可能でしょうか。いえ、不可能です。よって私は、誰も殺してはいないのですね。ただ天国に送っただけで。超特急便で」
「……………キミさ、カウンセリングとか受けたほうが良くない?」
「え? どうしてですか?」
とにかくジェシカさんが騒ぐものだから、男の人に気づかれてしまった。彼らは全員、顔を覆面で隠しており、鉤爪などで武装していた。
ジェシカさんが、私の耳元で言った。
「あいつら、暗殺計画の最終打ち合わせをしていたんだよ」
「そんな人たちが、こんなところで呑気に話し合ったりしているものですかね。杜撰すぎじゃないですか」
暗殺者?たちは、互いに顔を見合わせた。それからリーダーらしき男が指示を出す。
「事情を知られたからには仕方ない。殺せ!」
一斉に飛び掛かってくる暗殺者さんたち。
うーむ。だいぶ遅い。
30秒後。
私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を振るい終えて、ホッとした。暗殺者さんたちは、もちろん命を獲ったりはしない。私は殺人鬼ではなく、農家の娘なのだ。人を殺すなんてとんでもない。
ただ両足を、膝のところで粉砕切断させていたただいただけで。
両足を破壊された暗殺者さんたちが、苦しみながら床をのたうち回っていた。そのなかでジェシカさんが、やはりのたうち回っている暗殺者のリーダーの胸部に片足をのせる。
「まったく、うちのアリアを口封じに殺そうとするとは、自殺志望もいいところだ──というか、アリア。キミ、本当に強いねぇ。もう人間クラスじゃ、最強の領域に入っちゃったんじゃないの? 上位エルフの戦士と対等か、それ以上かも」
「まったく興味ないです。そんなことよりジェシカさん。この暗殺者さんたちは、やはり杜撰すぎですね。失敗することが前提にあるような。もちろん、私たちが現れたことは想定外だったのでしょうが」
「キミの言いたいことは、よく分からんぞアリア」
私は屈みこんで、暗殺者のリーダーさんに顔を近づけた。
「教えてください。依頼者と、暗殺のターゲットを」
「答えるわけが、ないだろう」とリーダーさん。
「ジェシカさん、そこにいいものがありますね。その樽ですよ。なかに炭酸飲料が入っています」
ジェシカさんが怪訝そうな顔で、コップに炭酸飲料を注いだ。
「喉が渇いたの?」
「いえ、暗殺者さんに飲んでいただこうと思って」
暗殺者のリーダーさんの鼻の穴に、炭酸飲料をがんがん注ぎ込んだ。とたんリーダーさんが「ぎゃぁぁぁああぁぁ!!」と叫び出すので、さらに炭酸飲料追加で、ひたすら注ぎ込みまくる。ジェシカさんが唖然としているので、私は説明した。
「お手軽に地獄を味わえるので、興味があったらやってみてくださいね」
「…………やったことあるの、アリアは?」
「子供のころに、一度。好奇心から。死ぬより苦しい思いをしました」
私は暗殺者のリーダーさんに声をかけた。
「すいません、聞こえていますか? 樽の中には、まだたっぷりと炭酸飲料が入っているんです。ぜんぶ飲んでいただいていもいいんですよ、鼻から」
「ま、まって、話す、話すから、もう許して………」
「依頼者は誰ですか?」
「エルベン侯爵だ」
「誰を殺せと?」
「ハーバン伯爵の娘、ミリカだ」
ジェシカさんがハッとした様子で、
「エルベン侯爵は、現国王に批判的という話だよアリア。ははぁ。国王寄りなハーバン伯爵にダメージを与えるため、ミリカを狙わせたんだね」
私は、自分でも辛抱強いほうだと思う。心からそう思う。だけどたまには怒って自制心を失っちゃう、女の子だもん。
〈スーパーコンボ〉で、暗殺者リーダーさんの顔を掘り返した。むき出しになった脳味噌の断面から、血がしゅーと飛び散る。
ジェシカさんと、ほかの暗殺者さんたちが呆然としている。私は、はじめに目についた暗殺者さんのもとに移動して、屈みこんだ。
「本当の依頼者は、誰なのですか? それともあなたも、顔面を掘り返されたいのですか?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ宰相ですぅぅぅぅぅぅ!!!」
ジェシカさんが怪訝そうに言う。
「王の腹心が? なんで?」
だから王都になんか来たくなかったのに。
「政治という、面倒くさいものに巻き込まれたのですよ。
いいですか、ジェシカさん。本来は、暗殺未遂になる予定だったんですよ。そして国王側は、暗殺者たちを尋問。暗殺者たちは依頼者として、エルベン侯爵の名を言うわけです。するとハーバン伯爵は、エルベン侯爵を完全に敵視するでしょう。
エルベン侯爵はアンチ国王という話ですが、いまのところハーバン伯爵は国王寄りでも、攻撃的な人ではないですからね。そんなハーバン伯爵を焚きつけるには、偽の暗殺計画を立てるのが手っ取り早いと」
「おお、なるほど! しかし、それを見抜くとは、アリア──キミ、本当にただの農家の娘?」
「子供のころからカブ畑を耕していると、いろいろなことが分かるようになるものです」
と、ジェシカさんが意味のわからんことを言っている。確かに清潔なトイレを見つけると、テンションが上がるけれども。
用を足して、王城の廊下を歩いていく。叙勲式の会場に戻ろうと思っていたが、迷った。
「ジェシカさん、迷いました」
隣を歩きながら、のんびりとした表情だったジェシカさんが「はぁぁ?」という顔になる。
「なんで迷うの? キミさ、ダンジョン攻略の達人でしょ?」
「恐ろしいことを言いますね、ジェシカさん。【覇王魔窟】なんて、すべてワンフロアですからね。あれほど単純な一本道も珍しい。……まってください。そもそも、【覇王魔窟】ってダンジョンなんですか? もうダンジョンの定義からかけ離れていません?」
「いまさら? そこをいまさら? あのさ、そこはこう解釈できると思うね。つまりダンジョンというものは探索することでもあるから。【覇王魔窟】をのぼるということは、それは探索に他ならない。たとえ一本道でも──しかし、そもそもいつまでも一本道とは限らないんじゃないかな。【覇王魔窟】にしてみたら、1階~200階あたりは、初心者のための領域。この先に【覇王魔窟】迷宮化があると見たね」
「【覇王魔窟】の予言なんてしてなくていいですから、ちょっと道案内を誰かに頼みましょう。それにしても、なんて迷路然としたところなんでしょう」
「敵が攻めてきたときに備えているんじゃないの? そういう意図がなくこんなに迷路然としているのなら、設計士が無能だったんじゃないの」
「または増改築を繰り返していたとか? もうそんなことはどうでもいいですから、誰かいないんですか、誰か」
とある扉を開けたところ、複数の男の人たちが頭を突き合わせて、何やらヒソヒソと会話していた。私は会話を聞こえなかったが、ジェシカさんは聞き取ったらしい。聴覚がいいんだね、エルフさんって。
「わっ、なんだコイツら! アリア、ボクが許可するから、コイツらを殺してしまいなさい!」
「私、人は殺しませんよ」
「……………え、だってカブ畑を荒らした盗賊たちを殺して堆肥にしたとか」
「カブ畑を荒らした方々は、すでに死んだようなものだったのです。死人を殺すということが可能でしょうか。いえ、不可能です。よって私は、誰も殺してはいないのですね。ただ天国に送っただけで。超特急便で」
「……………キミさ、カウンセリングとか受けたほうが良くない?」
「え? どうしてですか?」
とにかくジェシカさんが騒ぐものだから、男の人に気づかれてしまった。彼らは全員、顔を覆面で隠しており、鉤爪などで武装していた。
ジェシカさんが、私の耳元で言った。
「あいつら、暗殺計画の最終打ち合わせをしていたんだよ」
「そんな人たちが、こんなところで呑気に話し合ったりしているものですかね。杜撰すぎじゃないですか」
暗殺者?たちは、互いに顔を見合わせた。それからリーダーらしき男が指示を出す。
「事情を知られたからには仕方ない。殺せ!」
一斉に飛び掛かってくる暗殺者さんたち。
うーむ。だいぶ遅い。
30秒後。
私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を振るい終えて、ホッとした。暗殺者さんたちは、もちろん命を獲ったりはしない。私は殺人鬼ではなく、農家の娘なのだ。人を殺すなんてとんでもない。
ただ両足を、膝のところで粉砕切断させていたただいただけで。
両足を破壊された暗殺者さんたちが、苦しみながら床をのたうち回っていた。そのなかでジェシカさんが、やはりのたうち回っている暗殺者のリーダーの胸部に片足をのせる。
「まったく、うちのアリアを口封じに殺そうとするとは、自殺志望もいいところだ──というか、アリア。キミ、本当に強いねぇ。もう人間クラスじゃ、最強の領域に入っちゃったんじゃないの? 上位エルフの戦士と対等か、それ以上かも」
「まったく興味ないです。そんなことよりジェシカさん。この暗殺者さんたちは、やはり杜撰すぎですね。失敗することが前提にあるような。もちろん、私たちが現れたことは想定外だったのでしょうが」
「キミの言いたいことは、よく分からんぞアリア」
私は屈みこんで、暗殺者のリーダーさんに顔を近づけた。
「教えてください。依頼者と、暗殺のターゲットを」
「答えるわけが、ないだろう」とリーダーさん。
「ジェシカさん、そこにいいものがありますね。その樽ですよ。なかに炭酸飲料が入っています」
ジェシカさんが怪訝そうな顔で、コップに炭酸飲料を注いだ。
「喉が渇いたの?」
「いえ、暗殺者さんに飲んでいただこうと思って」
暗殺者のリーダーさんの鼻の穴に、炭酸飲料をがんがん注ぎ込んだ。とたんリーダーさんが「ぎゃぁぁぁああぁぁ!!」と叫び出すので、さらに炭酸飲料追加で、ひたすら注ぎ込みまくる。ジェシカさんが唖然としているので、私は説明した。
「お手軽に地獄を味わえるので、興味があったらやってみてくださいね」
「…………やったことあるの、アリアは?」
「子供のころに、一度。好奇心から。死ぬより苦しい思いをしました」
私は暗殺者のリーダーさんに声をかけた。
「すいません、聞こえていますか? 樽の中には、まだたっぷりと炭酸飲料が入っているんです。ぜんぶ飲んでいただいていもいいんですよ、鼻から」
「ま、まって、話す、話すから、もう許して………」
「依頼者は誰ですか?」
「エルベン侯爵だ」
「誰を殺せと?」
「ハーバン伯爵の娘、ミリカだ」
ジェシカさんがハッとした様子で、
「エルベン侯爵は、現国王に批判的という話だよアリア。ははぁ。国王寄りなハーバン伯爵にダメージを与えるため、ミリカを狙わせたんだね」
私は、自分でも辛抱強いほうだと思う。心からそう思う。だけどたまには怒って自制心を失っちゃう、女の子だもん。
〈スーパーコンボ〉で、暗殺者リーダーさんの顔を掘り返した。むき出しになった脳味噌の断面から、血がしゅーと飛び散る。
ジェシカさんと、ほかの暗殺者さんたちが呆然としている。私は、はじめに目についた暗殺者さんのもとに移動して、屈みこんだ。
「本当の依頼者は、誰なのですか? それともあなたも、顔面を掘り返されたいのですか?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ宰相ですぅぅぅぅぅぅ!!!」
ジェシカさんが怪訝そうに言う。
「王の腹心が? なんで?」
だから王都になんか来たくなかったのに。
「政治という、面倒くさいものに巻き込まれたのですよ。
いいですか、ジェシカさん。本来は、暗殺未遂になる予定だったんですよ。そして国王側は、暗殺者たちを尋問。暗殺者たちは依頼者として、エルベン侯爵の名を言うわけです。するとハーバン伯爵は、エルベン侯爵を完全に敵視するでしょう。
エルベン侯爵はアンチ国王という話ですが、いまのところハーバン伯爵は国王寄りでも、攻撃的な人ではないですからね。そんなハーバン伯爵を焚きつけるには、偽の暗殺計画を立てるのが手っ取り早いと」
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