農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

文字の大きさ
41 / 119

41,暗殺阻止ルート。

しおりを挟む
「人類文明の転換点はどこだと思う? それは下水道設備のトイレを建造したときだね」

 と、ジェシカさんが意味のわからんことを言っている。確かに清潔なトイレを見つけると、テンションが上がるけれども。
 用を足して、王城の廊下を歩いていく。叙勲式の会場に戻ろうと思っていたが、迷った。

「ジェシカさん、迷いました」

 隣を歩きながら、のんびりとした表情だったジェシカさんが「はぁぁ?」という顔になる。

「なんで迷うの? キミさ、ダンジョン攻略の達人でしょ?」

「恐ろしいことを言いますね、ジェシカさん。【覇王魔窟】なんて、すべてワンフロアですからね。あれほど単純な一本道も珍しい。……まってください。そもそも、【覇王魔窟】ってダンジョンなんですか? もうダンジョンの定義からかけ離れていません?」

「いまさら? そこをいまさら? あのさ、そこはこう解釈できると思うね。つまりダンジョンというものは探索することでもあるから。【覇王魔窟】をのぼるということは、それは探索に他ならない。たとえ一本道でも──しかし、そもそもいつまでも一本道とは限らないんじゃないかな。【覇王魔窟】にしてみたら、1階~200階あたりは、初心者のための領域。この先に【覇王魔窟】迷宮化があると見たね」

「【覇王魔窟】の予言なんてしてなくていいですから、ちょっと道案内を誰かに頼みましょう。それにしても、なんて迷路然としたところなんでしょう」

「敵が攻めてきたときに備えているんじゃないの? そういう意図がなくこんなに迷路然としているのなら、設計士が無能だったんじゃないの」

「または増改築を繰り返していたとか? もうそんなことはどうでもいいですから、誰かいないんですか、誰か」

 とある扉を開けたところ、複数の男の人たちが頭を突き合わせて、何やらヒソヒソと会話していた。私は会話を聞こえなかったが、ジェシカさんは聞き取ったらしい。聴覚がいいんだね、エルフさんって。

「わっ、なんだコイツら! アリア、ボクが許可するから、コイツらを殺してしまいなさい!」

「私、人は殺しませんよ」

「……………え、だってカブ畑を荒らした盗賊たちを殺して堆肥にしたとか」

「カブ畑を荒らした方々は、すでに死んだようなものだったのです。死人を殺すということが可能でしょうか。いえ、不可能です。よって私は、誰も殺してはいないのですね。ただ天国に送っただけで。超特急便で」

「……………キミさ、カウンセリングとか受けたほうが良くない?」

「え? どうしてですか?」

 とにかくジェシカさんが騒ぐものだから、男の人に気づかれてしまった。彼らは全員、顔を覆面で隠しており、鉤爪などで武装していた。

 ジェシカさんが、私の耳元で言った。

「あいつら、暗殺計画の最終打ち合わせをしていたんだよ」

「そんな人たちが、こんなところで呑気に話し合ったりしているものですかね。杜撰すぎじゃないですか」

 暗殺者?たちは、互いに顔を見合わせた。それからリーダーらしき男が指示を出す。

「事情を知られたからには仕方ない。殺せ!」

 一斉に飛び掛かってくる暗殺者さんたち。
 うーむ。だいぶ遅い。

 30秒後。
 私は魔改造くわ〈スーパーコンボ〉を振るい終えて、ホッとした。暗殺者さんたちは、もちろん命を獲ったりはしない。私は殺人鬼ではなく、農家の娘なのだ。人を殺すなんてとんでもない。
 ただ両足を、膝のところで粉砕切断させていたただいただけで。

 両足を破壊された暗殺者さんたちが、苦しみながら床をのたうち回っていた。そのなかでジェシカさんが、やはりのたうち回っている暗殺者のリーダーの胸部に片足をのせる。

「まったく、うちのアリアを口封じに殺そうとするとは、自殺志望もいいところだ──というか、アリア。キミ、本当に強いねぇ。もう人間クラスじゃ、最強の領域に入っちゃったんじゃないの? 上位エルフの戦士と対等か、それ以上かも」

「まったく興味ないです。そんなことよりジェシカさん。この暗殺者さんたちは、やはり杜撰すぎですね。失敗することが前提にあるような。もちろん、私たちが現れたことは想定外だったのでしょうが」

「キミの言いたいことは、よく分からんぞアリア」

 私は屈みこんで、暗殺者のリーダーさんに顔を近づけた。

「教えてください。依頼者と、暗殺のターゲットを」

「答えるわけが、ないだろう」とリーダーさん。

「ジェシカさん、そこにいいものがありますね。その樽ですよ。なかに炭酸飲料が入っています」

 ジェシカさんが怪訝そうな顔で、コップに炭酸飲料を注いだ。

「喉が渇いたの?」

「いえ、暗殺者さんに飲んでいただこうと思って」

 暗殺者のリーダーさんの鼻の穴に、炭酸飲料をがんがん注ぎ込んだ。とたんリーダーさんが「ぎゃぁぁぁああぁぁ!!」と叫び出すので、さらに炭酸飲料追加で、ひたすら注ぎ込みまくる。ジェシカさんが唖然としているので、私は説明した。

「お手軽に地獄を味わえるので、興味があったらやってみてくださいね」

「…………やったことあるの、アリアは?」

「子供のころに、一度。好奇心から。死ぬより苦しい思いをしました」

 私は暗殺者のリーダーさんに声をかけた。

「すいません、聞こえていますか? 樽の中には、まだたっぷりと炭酸飲料が入っているんです。ぜんぶ飲んでいただいていもいいんですよ、鼻から」

「ま、まって、話す、話すから、もう許して………」

「依頼者は誰ですか?」

「エルベン侯爵だ」

「誰を殺せと?」

「ハーバン伯爵の娘、ミリカだ」

 ジェシカさんがハッとした様子で、

「エルベン侯爵は、現国王に批判的という話だよアリア。ははぁ。国王寄りなハーバン伯爵にダメージを与えるため、ミリカを狙わせたんだね」

 私は、自分でも辛抱強いほうだと思う。心からそう思う。だけどたまには怒って自制心を失っちゃう、女の子だもん。
〈スーパーコンボ〉で、暗殺者リーダーさんの顔を掘り返した。むき出しになった脳味噌の断面から、血がしゅーと飛び散る。

 ジェシカさんと、ほかの暗殺者さんたちが呆然としている。私は、はじめに目についた暗殺者さんのもとに移動して、屈みこんだ。

「本当の依頼者は、誰なのですか? それともあなたも、顔面を掘り返されたいのですか?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ宰相ですぅぅぅぅぅぅ!!!」

 ジェシカさんが怪訝そうに言う。

「王の腹心が? なんで?」

 だから王都になんか来たくなかったのに。

「政治という、面倒くさいものに巻き込まれたのですよ。
 いいですか、ジェシカさん。本来は、暗殺未遂になる予定だったんですよ。そして国王側は、暗殺者たちを尋問。暗殺者たちは依頼者として、エルベン侯爵の名を言うわけです。するとハーバン伯爵は、エルベン侯爵を完全に敵視するでしょう。
 エルベン侯爵はアンチ国王という話ですが、いまのところハーバン伯爵は国王寄りでも、攻撃的な人ではないですからね。そんなハーバン伯爵を焚きつけるには、偽の暗殺計画を立てるのが手っ取り早いと」

「おお、なるほど! しかし、それを見抜くとは、アリア──キミ、本当にただの農家の娘?」

「子供のころからカブ畑を耕していると、いろいろなことが分かるようになるものです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...