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94,状況激変。
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久しぶりに太陽を浴びながら、まずは自宅に帰ろう。
ところが、道に迷ってしまった。
こらこら、私よ私。いくら何日も帰ってなかったからといって、我が家への帰り道を忘れる奴があるか。
しかし──おかしいのだ。どう帰ろうとしても、我が家に行き当たらない。自宅があると記憶している場所は更地だし、愛するカブ畑(休耕中)があると記憶している場所には、何やら趣味の悪い建物が鎮座している。
まったく、これはどういうことなのだろう。
試しにその建物の玄関ドアをノックしてみると、〈子鬼ゴブリン〉が出てきた。
私は小首を傾げる。
〈子鬼ゴブリン〉も首をひねる。
その後ろでは、台所が見えた。大きな鍋に、人間の子供の死体がバラバラにされて入れられ、煮込まれている。
〈子鬼ゴブリン〉が歯をむきだしにして「ギャァァァァァ」と叫ぶので、私は、その口にグーパンチした。
私自身は〈スーパーコンボ〉スキルツリー開拓による打撃力向上などの恩恵はないが、(防御Lv.55)による肉体の『防御力=物理的接触時の一時的な頑丈さ』は、このように強烈なパンチ力ともなる。
とにかく〈子鬼ゴブリン〉の下あごは砕かれ、歯がバラバラになった。
私はさらにパンチの手を止めず、1パンチごとに言ったものだ。
「私の、」パンチ「カブ畑、」パンチ「カブ畑を、」パンチ「どうしたのですか??」パンチ「あと人間の子供を、」パンチパンチ「煮込むなぁぁぁです!」パンチ。
気づいたら、〈子鬼ゴブリン〉さんの顔の原型がなくなっていた。
ああ。私のカブ畑を潰し、〈子鬼ゴブリン〉の家が建ちやがったのだ。
ふと見ると、まだ3体の〈子鬼ゴブリン〉がいた。体格などからして、いま私が顔を潰させていただいた〈子鬼ゴブリン〉の妻子のようだ。私を見て、ひどく怯えている。
ふむ。下級魔物でありながら、自我を有しているのだろうか。だとしたら、その自我は誰が与えたものなのか。【覇王魔窟】の古代神ではあるまい。しかし、そこに近い高みにいるもの──〈攻略不可能体〉ではないだろうか?
私はテーブルの席についた。
「まぁ、おかけください。この家が、もとは私の愛するカブ畑だったという、そういう悲劇的な話をするので。どうぞ、聞いてください。あ、お水いただけますか? ふむ。これは井戸水? 凄く冷たくて美味しいですね」
私がカブ畑について語っているあいだ、〈子鬼ゴブリン〉の母子はガタガタと震えていた。私は無用な暴力など振るうつもりはないのに。しかし、言葉が伝わらないのでは、私がどれほど平和的なのか伝えることもできないのだ。
語るべきことは語った。
もうカブ畑は戻ってこない。
私は台所の大鍋を見やり、指さした。
「いいですか。人間は食用ではありません。二度と、こんなことはしないように」
それから外に出て、どこをさ迷っていたのか、記憶は曖昧だ。
私は、アイデンティティを失ったのだ。これまで、私は自分をどう表現してきたのか。そこには紛れもなく、カブ畑があったのだ。しかし、それを失ってしまった。先祖代々と伝わってきた、一族の汗と涙と血の結晶たるカブ畑を、私は自分の世代で途絶えさせてしまった。なんという、罪深いことをしたのだろう。
もう寝る。私は、ここで寝る。どこかは知らないけど、私はもう不貞寝してやるっっ!!!
そして、私は寝たのだ。何度か目覚めたけど、そのたび寝直した。なんか運ばれている感じもあったけども。とにかく、私は意地でも寝続けた。そして気づくと、なぜか素朴な牢に閉じ込められていた。まわりの牢にも、同世代の女の人が監禁されている。これがカプセル宿というものだろうか。なんか、違う気がする。
隣の牢にいる女性に、私は声をかけた。
「ここはどこですか?」
その女性は、驚いた様子で私を見返した。
「あら、あなた。ずっと眠っていたから、てっきり意識混濁しているのかと思ったわ」
「凄くショックなことがあって不貞寝していたんです」
「なら、まだショックは続くわね。私たちは奴隷商人に捕まっているの。これから売りに出されるのよ」
「はぁ。なるほど、そうですか」
私は仰向けになって、寝転がった。すべてが、どうでもいい。ああ、すべてが──
牢の扉が開き、上半身裸の大柄な男の人に、私は外へと引きずり出された。
大柄さんの他に、貴族風の衣服を着た恰幅の良い男と、ロングソードで武装した男の人も。恰幅さんが奴隷商人で、他の二人(大柄さんとロングソードさん)は部下のようだ。
奴隷商人さんは葉巻を吸いながらか、私を見た。そして顔をしかめる。
「誰だ、こんな不良品を持ち込んだバカは? よく見てみろ。いやよく見るまでもない。この女、もとは器量も良かったんだろうが、いまや顔の右半分がグロいじゃないか。こんなのが売り物になるか。腐った林檎のようなものだ。そんなものを林檎樽に入れておくか? 生ごみとして処分するだろうが。おい、やれ」
ロングソードさんが、私の首にロングソードを叩き込んできた。当然ながら、ロングソードがへし折れる。
「な、なんだ!?」と驚くロングソードさん。
私は、そんなロングソードさんの右足をへし折って仰向けに倒し、その上にまたがった。で、ロングソードさんの顔面を、ひたすらグーパンチ。
止めに入った大柄さんの右足をつかんで引っ張り、仰向けに転ばせる。こんどは大柄さんにまたがり、その顔面を、ひたすらグーパンチ。
顔の原型がなくなった死体さんが2体。
3体目はどこだろう?
奴隷商人さんは、この部屋の出口へと走っていく。
「た、た、た、助けてぇぇぇぇぇぇえ!!!」
慌てすぎたようで、勝手にうつ伏せに転んだ。私は、奴隷商人さんの背中に飛びのり、後頭部に向けてひたすらグーパンチ。
それから、なんとなくガッツポーズ。
「ストレス発散だいっっ!!」
失ったものは仕方ない。これから得るものを考えるんだ。前を向いて行こうよっ!
ところが、道に迷ってしまった。
こらこら、私よ私。いくら何日も帰ってなかったからといって、我が家への帰り道を忘れる奴があるか。
しかし──おかしいのだ。どう帰ろうとしても、我が家に行き当たらない。自宅があると記憶している場所は更地だし、愛するカブ畑(休耕中)があると記憶している場所には、何やら趣味の悪い建物が鎮座している。
まったく、これはどういうことなのだろう。
試しにその建物の玄関ドアをノックしてみると、〈子鬼ゴブリン〉が出てきた。
私は小首を傾げる。
〈子鬼ゴブリン〉も首をひねる。
その後ろでは、台所が見えた。大きな鍋に、人間の子供の死体がバラバラにされて入れられ、煮込まれている。
〈子鬼ゴブリン〉が歯をむきだしにして「ギャァァァァァ」と叫ぶので、私は、その口にグーパンチした。
私自身は〈スーパーコンボ〉スキルツリー開拓による打撃力向上などの恩恵はないが、(防御Lv.55)による肉体の『防御力=物理的接触時の一時的な頑丈さ』は、このように強烈なパンチ力ともなる。
とにかく〈子鬼ゴブリン〉の下あごは砕かれ、歯がバラバラになった。
私はさらにパンチの手を止めず、1パンチごとに言ったものだ。
「私の、」パンチ「カブ畑、」パンチ「カブ畑を、」パンチ「どうしたのですか??」パンチ「あと人間の子供を、」パンチパンチ「煮込むなぁぁぁです!」パンチ。
気づいたら、〈子鬼ゴブリン〉さんの顔の原型がなくなっていた。
ああ。私のカブ畑を潰し、〈子鬼ゴブリン〉の家が建ちやがったのだ。
ふと見ると、まだ3体の〈子鬼ゴブリン〉がいた。体格などからして、いま私が顔を潰させていただいた〈子鬼ゴブリン〉の妻子のようだ。私を見て、ひどく怯えている。
ふむ。下級魔物でありながら、自我を有しているのだろうか。だとしたら、その自我は誰が与えたものなのか。【覇王魔窟】の古代神ではあるまい。しかし、そこに近い高みにいるもの──〈攻略不可能体〉ではないだろうか?
私はテーブルの席についた。
「まぁ、おかけください。この家が、もとは私の愛するカブ畑だったという、そういう悲劇的な話をするので。どうぞ、聞いてください。あ、お水いただけますか? ふむ。これは井戸水? 凄く冷たくて美味しいですね」
私がカブ畑について語っているあいだ、〈子鬼ゴブリン〉の母子はガタガタと震えていた。私は無用な暴力など振るうつもりはないのに。しかし、言葉が伝わらないのでは、私がどれほど平和的なのか伝えることもできないのだ。
語るべきことは語った。
もうカブ畑は戻ってこない。
私は台所の大鍋を見やり、指さした。
「いいですか。人間は食用ではありません。二度と、こんなことはしないように」
それから外に出て、どこをさ迷っていたのか、記憶は曖昧だ。
私は、アイデンティティを失ったのだ。これまで、私は自分をどう表現してきたのか。そこには紛れもなく、カブ畑があったのだ。しかし、それを失ってしまった。先祖代々と伝わってきた、一族の汗と涙と血の結晶たるカブ畑を、私は自分の世代で途絶えさせてしまった。なんという、罪深いことをしたのだろう。
もう寝る。私は、ここで寝る。どこかは知らないけど、私はもう不貞寝してやるっっ!!!
そして、私は寝たのだ。何度か目覚めたけど、そのたび寝直した。なんか運ばれている感じもあったけども。とにかく、私は意地でも寝続けた。そして気づくと、なぜか素朴な牢に閉じ込められていた。まわりの牢にも、同世代の女の人が監禁されている。これがカプセル宿というものだろうか。なんか、違う気がする。
隣の牢にいる女性に、私は声をかけた。
「ここはどこですか?」
その女性は、驚いた様子で私を見返した。
「あら、あなた。ずっと眠っていたから、てっきり意識混濁しているのかと思ったわ」
「凄くショックなことがあって不貞寝していたんです」
「なら、まだショックは続くわね。私たちは奴隷商人に捕まっているの。これから売りに出されるのよ」
「はぁ。なるほど、そうですか」
私は仰向けになって、寝転がった。すべてが、どうでもいい。ああ、すべてが──
牢の扉が開き、上半身裸の大柄な男の人に、私は外へと引きずり出された。
大柄さんの他に、貴族風の衣服を着た恰幅の良い男と、ロングソードで武装した男の人も。恰幅さんが奴隷商人で、他の二人(大柄さんとロングソードさん)は部下のようだ。
奴隷商人さんは葉巻を吸いながらか、私を見た。そして顔をしかめる。
「誰だ、こんな不良品を持ち込んだバカは? よく見てみろ。いやよく見るまでもない。この女、もとは器量も良かったんだろうが、いまや顔の右半分がグロいじゃないか。こんなのが売り物になるか。腐った林檎のようなものだ。そんなものを林檎樽に入れておくか? 生ごみとして処分するだろうが。おい、やれ」
ロングソードさんが、私の首にロングソードを叩き込んできた。当然ながら、ロングソードがへし折れる。
「な、なんだ!?」と驚くロングソードさん。
私は、そんなロングソードさんの右足をへし折って仰向けに倒し、その上にまたがった。で、ロングソードさんの顔面を、ひたすらグーパンチ。
止めに入った大柄さんの右足をつかんで引っ張り、仰向けに転ばせる。こんどは大柄さんにまたがり、その顔面を、ひたすらグーパンチ。
顔の原型がなくなった死体さんが2体。
3体目はどこだろう?
奴隷商人さんは、この部屋の出口へと走っていく。
「た、た、た、助けてぇぇぇぇぇぇえ!!!」
慌てすぎたようで、勝手にうつ伏せに転んだ。私は、奴隷商人さんの背中に飛びのり、後頭部に向けてひたすらグーパンチ。
それから、なんとなくガッツポーズ。
「ストレス発散だいっっ!!」
失ったものは仕方ない。これから得るものを考えるんだ。前を向いて行こうよっ!
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