終末勇者と傾いた世界の終焉。

りーべる。

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終末はっぴーばーすでぃ

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「本当は俺、勇者になんてなりたくなかったんだ」

魔王討伐を目標に掲げ一緒に旅をしていた勇者が私たちの前に姿を現したと思えば、剣先を何故か私たちの方に向けている。

「たまたま剣が引き抜けただけの単なる勇者の末裔……ただそれだけで勇者にさせられてさ……」

勇者の顔はどこか落ち着き、覚悟を決めたような神妙な面持ちだった。

「もっとのんびり暮らしたかった……。お前らは最高に良い奴だし、こんな形で知り合わなければどんなに良かったことか」

勇者は勝手に続ける。

「最近、子どもが出来たんだ……。お前らは理解してくれないだろうけど、まぁ魔族との間に出来た子どもでさ……、すっげぇー可愛いんだぜ?お腹に話しかけたら聞いてるよーってキックして合図してくれるんだ。
…………だからさ俺──────」



「お前らと戦うよ。俺にもやっと守りたいものが出来たんだ。幸せな未来のためにお前ら人類を抹殺する」



勇者が裏切った。
繊細な勇者だったから、死ぬかもしれない恐怖に怯えてるだけだと思ってた。
あと少ししたらまた戻って来てくれるってそう思ってた。
なのに……え?子どもが出来た?それも魔族との間に??
私が密かに惹かれていた勇者はこんな奴だった??
違う。そんなわけない。その魔族とやらが勇者を洗脳して誑かしてるだけだ。
そうに違いない。だったら目を覚させてあげないと。


「のこのこ帰って来たと思えば何言ってやがる」
「……そうだよ何言ってるの?勇──────」

────ブシュ‼︎‼︎

赤い鮮血が雨のように降り注ぐ。
白い生地に金で装飾された神聖なローブがどんどん真っ赤に染まっていく。

「……ごめんな、リーズ」

あれ…………??

お腹に冷たい何かが刺さっている。
ヒリヒリと焼けるように痛い。
嘘だと思いたい。
視線を下に向けると、勇者の証である紋章が刻まれた伝説の剣が私の腹を切り開いていた。

「ぅああぁあぁああぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「リーズ‼︎‼︎」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い。

視線がぐらりと揺れ、地面へとゆっくりゆっくり落ちていく。

「貴様あああぁぁああぁ‼︎‼︎」

魔力を全力で熾した超加速。
凄まじい速さと怒りに任せた剣先が勇者の首元に吸い込まれていく。
剣士スクージオが勇者目掛けて襲いかかったのだ。

「なっ──────‼︎」

派手な金属音と共にスクージオ一家に伝わる宝剣が真っ二つに折れ、乾いた音と共にスクージオの首が宙を舞った。
勇者の剣撃が人類最高峰の力を誇るパーティーを壊滅させていく。

「……ぁつ……あぁ……」

惨劇が広がる光景を目に焼き付けてしまったパーティー最年少の大賢者は、
体がブルブルと震え声が出ないようで、口が魚のようにパクパクと小刻みに開いたり閉じたりを繰り返す。

「お互いを忌み嫌ってたりはするけど、なんだかんだ人間も魔族も戦う理由って同じなんだよ」

勇者が大賢者イービルの頭部に手をかざし魔力を解き放った。
イービルは業火に包まれあっという間に黒焦げになり、酷い異臭をあたり一面に撒き散らす。

「………………ゆ…う……しゃ……」

「まだ生きていたのかリーズ……って」

大きなお腹を大事そうに抱える魔物、スライム娘がゆっくりとした足取りで勇者に近寄っていった。

「来ちゃダメだろ」
「……心配ニナッテ見ニキタ、大丈夫ソウ?」

「あぁ…これからは幸せな未来が待ってる、虐げられてきた過去は今日でおしまいだ」

好きだった勇者と魔物がにこりと微笑みあう。
手を絡ませお腹を撫でる。反応があったのか嬉しそうにキャッキャと喚く。
私がそこに居るはずだったのに。

「イタタ…イタ…イタタタ……」

「大丈夫か⁉︎お腹が痛むのか?取り合えずこっちへ」

私たちが運んでいた荷馬車に魔物が入って行く。
朧げな視界がどんどん黒ずんで、もう何も見えない。

「頑張れ…そうだ良いぞ……」

「ウ…ッ…イアアアァアァッァ……」

「あっ…ああぁ…産まれたぞ、シズク‼︎」

最期に聞こえてきた声は絶望した世界と相反する生命の喜び、産声だった。
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