狼王と契約した毒姫

ななないと

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襲いかかる不条理

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久しぶりに街へ行った。
最後に行ったのが3つ前の春だった。

街は人がごった返していた。
騒がしい。

賑やかで騒がしいというより、何かあった時の騒がしさを彷彿とさせた。

「リンゴを5つ下さいな」と果物屋の店主にお願いした。
見た目は父とそこまで変わらない。

店主は訝しげに私を見る。

「⋯お前さん、この街の人間か?」
「あの山の麓に住んでるわ。」
店主は安心したようだった。

「そうか。なら大丈夫だな。」
「私 街に来るの久しぶりなんだけど、何かあったの?」
店主はぽつりぽつりと話し出した。

「2年前、わしの妻の妹が教会の神父に呼び止められた。そして聞かれたんだ。ロザリオを持っているかと、それで⋯」
ああ、まさか⋯
「その日偶然、ロザリオを持ってなかった事で魔女だと言われ、裁判にかけられた。妻も魔女だと疑われた。そして去年、連れてかれた。」
店主の肩は微かに震えていた。

「この街は冬を越す為に皆 作業に勤しむ。尚更、教会に行けないのだ。
それで教会の奴らは、この街の人間を毛嫌いしておる。この前は年端もいかない子供も連れてかれた!街の人間は色々と察してくれたから、今もこうして商いが出来ている。


それに、
お前さんは連れてかれた妻の妹によく似とる。」

「そう ですか。」
なんて反応すればいいのか分からない。

「だから もう 家族がいなくなって泣き叫ぶのを見とうない。」
━━━━━━━━━━━━━━━
帰り道、あの店主の悲しい顔が忘れられない。
魔女の疑いがある妻を持つ店主が村八分にされないのは、あの街はキリスト教に対して懐疑的だからか?

そもそもロザリオは教会での祈りの為に使われる。
でも、あの街は疑われないように身を守る為にロザリオをつけている。
神様からしたら複雑だろう。

帰宅直後、父母と妹のロザリオを取り出した。
もう使われる事のないものだ。
このままボロボロになっていくよりはまだマシだ。
近いうちに、あの街に行こう。

私は夕食を食べ終えて、食器を片付けて直ぐにベッドに入った。
買ったリンゴは明日の朝に食べよう。

朝、扉の叩く音で、目が覚めた。

「開けろ」「ここにいるのは分かってるぞ」「さっさと出てこい」

怒り狂った男性の声だ。多分5、6人はいる。

ドアには閂が掛かっているから外側から開ける事が出来ない。



「開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ」
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」


「⋯⋯ぁッ⋯⋯い、嫌⋯っ!」
私は毛布に包まる。怖い。

早くどこかに行って!いなくなって!

「見つけたぞ!魔女の花だ!」
「やはり魔女か」
「火をつけろ!炙り出してやる。」

魔女の花!? なんの事?

「やめろ!彼女は魔女ではない!」と聞き覚えのある声が聞こえた。

「このジジイ まだ生きてる。」「仕方なく お前だけ生かしてやったんだ。従っていればよかったんだ!お前が告発すれば、あの街の人間も死なずに済んだ!」

「最初から約束を守る気なんてなかったろ⋯!
わしの妻とその妹を奪ったのはどっちだ!?
わしは わしと居てくれるなら、魔女でも、悪魔でもよかった。」

鈍い音が響く。声の主は果物屋の店主だった。
「この男も悪魔だったな。」「さっさと殺そう。」
外で殴りつける音が聞こえる。店主の唸り声が聞こえる。

「⋯⋯⋯地獄に堕ちろ。」
グシャッと砕ける音を最期に店主の声は聞こえなくなった。

━━━━━━━━━━━━━━━
私の家は火をつけられた。
焼ける匂いが充満していくのが分かる。
「魔女よ 出てこい。」
私が死んでいくのが分かっていく。

店主は、私を逃がそうとしてたのかな。
あの街の人たちは、どうなった?
死なずに済んだと話してた。
私が、あの街に行かなかったら死ぬことはなかったのだろうか?

息が苦しくなる。頭が痛い。
手足が痺れてきた。動けなくなってきた。


乱暴に扉を開ける音が聞こえた。
「見つけたぞ」「連れて行け」

あーあ、捕まっちゃった。

To be countned
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