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第1章『名もなき奇跡の始まり』
13.後方支援部隊の成り立ち-2
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本人の同意を得ずに、勝手に風呂にいる変態とかありえない!!
本気でドン引くロゼッタの姿を見たクロウは、黙っていられないと言わんばかりにエスメライの軽い拘束状態を解きつつ叫ぶ。
「テメェも変わんねぇからな!? 何ならお前のがタチが悪いまであるわ!!」
「わたしはお風呂見に行かないし、窓に貼り付いたりしないもん!!」
——まあ、部屋には侵入しまくってるけどな、とエスメライたちは思った。
だが、口には出さない。これを言えばクロウを盛大に刺激することを理解しているからだ。
やれやれと肩をすくめながら、エスメライは話を続ける。
「一時期は色んなとこで悲鳴があがったよ、やべーのの」
「やべーのの」
「クロウが後手に回ることはまず無かったから。状況からして敵か変態かの二択だから、拘束確定ラインだしね。
とりあえず悲鳴が3回上がった時点で、クロウの部屋の窓には板打ちつけた。まあ、体質を考えたら元々クロウに日光はよくないしね……はは」
つまり風呂に現れる→クロウに拘束されて悲鳴を上げる。
部屋の窓に貼りつく→クロウに拘束されて悲鳴を上げる。
……のローテーションが発生したのだろう。
流石にちょっとだけクロウが不憫に思えてきた。
「……で、まさかとは思うんですけど……追跡班って……」
「元を辿ると“悲鳴を上げた変態”の寄せ集めだし、今でも放置したら何かしらやらかしそうな“変態予備軍”を集めた集団だ」
「うわぁ」
「少なくとも、うちの風呂を見つけて侵入したり、クロウの部屋を見つけて貼りついたりする才能の持ち主だし、何より肝が据わってて根性がある。
だから他の人間より難しい任務がこなせるわけだよ……ほら、動機が動機だから、離職率が低いし」
ステフィリオンの裏方離職率の深刻性については、クロウのティスルでの任務がきっかけで把握している。何ならラザラスの負傷が発生したブライアでの任務でも出そうだ。
よりによって救助対象者である商品に襲われ、戦闘員がヤバいことになったのは分かっているだろうし。
(なるほどなぁ……まあ、そうだよね。ファンなら少々怖くても頑張るよね)
自身の体験も踏まえて、ロゼッタはそう結論を出す。
そこであることに気づき、ロゼッタはエスメライに疑問を投げかけた
「回収班の確保、ヴェルさんが向かったって言ってましたよね? 回収班の管轄はクロウなんじゃ……」
「ああ、追跡班に関してはルーシオの管轄にした上でヘイゼル州を拠点にして物理的に離したし、回収班の方もクロウの変態ファン、つまり追跡班行きの奴で打線が組めちまった辺りで念のため管轄をヴェルさんに移した」
「それだと、ルーシオさんとヴェルさんに被害が出そうですけど……」
「大丈夫、回収班も基本の拠点はヘイゼル州だからさ。そもそも回収班は“変態適性”が低いまともな奴を配置してるんだ。
追跡班に関しても、奴らは一途だからルーシオが被害に遭うことはない。それでもヤバそうな場合は問答無用でスピネル王国行きだ」
「ああー……」
被害を未然に防いでいる、というエスメライの発言の意図が分かった。
ブライア州のことを考えれば、恐らくヘイゼル州までも結構距離があるのだろう。
物理的に引き離した上で、被害が増えなさそうな人員配置をする——結果的に変態を大量に押しつけられているルーシオを不憫には思うが、戦いに犠牲はつきものだ、仕方がない。
エスメライは再びクロウを親指で指し、口を開く。
「ま、そんなわけで。クロウは“ストーカー”って存在が嫌いなんだよ」
「えぇー……そんな変態集団と一緒にしないで欲しいんだけど……」
げんなりしながら、ロゼッタはクロウに視線を移す。かつてのストーカー被害者であるクロウは、心底軽蔑したような目でロゼッタを見下ろす。
「さっきも言ったが、テメェも大差ねぇんだよ。能力が高くて手綱を握れないっつーだけで警戒案件だ」
「悪いことしてないもーん」
「ストーカーは悪いことだろうが!?」
「それ以外は何もしてないもん!!」
また堂々巡りになりそうだ。
苦笑しながらもレヴィはロゼッタとクロウを引き離す。
「お、おい、レヴィ……」
「ボクも思うところはありますけどね!? でも……でもぉ……」
困った様子のレヴィを一瞥したあと、エスメライは腰に手を当て、クロウに話しかける。
「嫌悪感がすごいのは分かる。だが理解しな、ラズが嫌がってないならこれが最適解だ。
対象があんたじゃないんだから、我慢しろ」
「……っ」
「まあ……これでもさ、あんたが全面的に正しいのは、分かっちゃいるけどさ……」
——何度考えても、“ストーカー正規雇用”は意味が分からない。
分からない……が、残念ながらこれが最も理に適っているのだ。悲しいことに。
「はぁ……」
意味が分からない話だが、何故か周りが全員同意しているせいで引くしかない、と判断したクロウはため息を吐き、黙り込む。
なんとか彼の説得に成功したエスメライは、ラザラスに視線を向けた。
「どうする? あたしとしては心配だから残っといて欲しいんだが、色々とキツいだろ? 帰るか? ロゼッタもいるしな」
彼女は話しながらも窓を開けて部屋に充満する薬品の匂いを消そうとするが、これはそう簡単に消えるものではない。ラザラスは困ったように笑い、エスメライへと視線を向けた。
「そうですね……帰ります。すみません」
「ん、了解。レヴィ、送ってやってくれ……って、思ったんだが」
エスメライはちらりとロゼッタを見る。
「あんた、たぶん行けるだろ? だいぶ難易度高めっぽいんだけど、これを機に『転移』覚えてくんない?」
「……。ますますわたしが手をつけれなくなると思いますが、覚えて良いんですか?」
「ぶっ!?」
2人の会話を聞いていたクロウがボソリと「ストーカーの方がまともだと……?」と呟いていたが、とりあえず聞かなかったことにした。
エスメライは笑いながら、レヴィに視線を向ける。教えてやってくれ、という意味だ。
レヴィは頷いてからロゼッタの前に立ち、身振り手振りで転移の説明を開始した。
「理論的にはこんな感じです。本来なら座標とか地理的条件とかも気にしなきゃいけないのですが……ロゼッタさんならきっと、ラズさんのお部屋をしっかり思い浮かべられると思うので、それで大丈夫かなと。
慣れないうちは普通にやると精度が落ちちゃうので、魔力をかなり多めに使ってゴリ押しでどうにかしましょう」
「分かりました」
レヴィ曰く、転移は膨大な魔力を消費する術であるため、地図などを見て飛距離や方向をしっかり把握した上で、使う魔力量を節約して対応するものなのだとか。
また、長距離移動をすると余計に魔力を消費してしまうため、一般的には複数回発動させ、休みつつ微調整や休憩を挟みながら移動するのが普通らしい。
「あー……なるほど。つまりレヴィさんってすごいんですね?」
「ふふ、ありがとうございます。ボクは地属性が得意なので、かなり相性が良かったみたいなんですよね」
とりあえずレヴィが転移の達人なのはよく分かった。そんな彼女に教わることができるのはありがたい。
内心「本当に手がつけられなくなるぞ、良いのか?」と思いつつ、ロゼッタは感覚を掴んでいく。
「じゃあちょっと、中庭に飛んで戻ってきますね」
ひとまず、部屋の中から中庭に転移し、瞬時に部屋に戻ってみた——なるほど、これは確かに考えなしに連発すると危ないかもしれない。流石のロゼッタでも、微かな疲労感を覚えた。
戻ってきたロゼッタを見て、レヴィは両手を合わせて笑顔を浮かべている。
「あっ、そうです! できてます、大丈夫です!」
「良かったです! ただ、ラズさんの家に飛ぶ時はちゃんと詠唱した方が良さそうですね。確かにこれ、あんまり燃費の良い術ではなさそうというか……」
「ふふ、中級術とはいえ、侮れないんですよね。自分以外を巻き込んで飛ぶ場合はさらに持っていかれるので、注意してくださいね?」
そう言って、レヴィは「あっ」と声を上げる。
「でも、ボクがかなり貰っちゃったし、流石に魔力不足かも……い、いけます?」
「余裕です! まあ、流石に分かりやすく疲れはしそうですが……」
「ロゼッタさん、普通は倒れちゃうレベルのことやってるんですけどねぇ……ボクで換算したら3回は余裕で倒れてる気がします……」
「なるほど……」
今日の自分の一連の動き、あと5回は行けるなとロゼッタは思ったが、あえて口にはしなかった。
とりあえず限界点がうっすらと分かったのはありがたい。
「よし、行けると思うので……じゃあラズさん、帰りましょうか?」
ベッドの上のラザラスに近づき、話しかける。
するとラザラスはかなりばつが悪そうに目を逸らしてしまった。
「……。めちゃくちゃ迷惑かけて悪いんだけどさ、多分、着いた瞬間に意識が飛ぶ気がするんだよな……適当に転がしといて欲しい……」
一番良いのは、ここに残ることなのは分かっている。それでも、なるべく早くこの場を立ち去りたい……怖い。
そんな彼の、どうしようもない思いを感じ取り、ロゼッタは柔らかく微笑む。
「大丈夫ですよ。さっきレヴィさんの微調整を見てたので、真似して最初からベッドの上を狙ってみます。技術は無くても魔力量で押し切れるから、大丈夫です。だから、安心して寝ててください」
「……悪い。ありがとう」
転移で一緒に連れて行くため、ロゼッタはラザラスの手を握る——微かに、震えている。
(さっさと連れて帰って、寝てもらおう)
薬品の匂いもそうだが、黄金眼の男に殴られた件も相当に彼の心の傷を抉ってしまったのだろう。その上で、彼はただ気丈に振る舞っているだけなのだ。
本当は今、叫んで逃げ出したいレベルの恐怖と戦っているのかもしれない。
(……わざわざ、そこに踏み込む必要はないよね)
分かっている。
だからこそ、何も言わない。
ロゼッタはラザラスの手をぐっと握り、ただ、飛ぶことに集中した。
「【転移】」
2人の姿が、部屋から消える。
消えてしまった以上、どうなったかは分からないが、ロゼッタならば大丈夫だろうと部屋に残されたエスメライとレヴィは判断する。
「……」
そんな中でクロウは、先程までロゼッタが立っていた空間を黙って見つめていた。
本気でドン引くロゼッタの姿を見たクロウは、黙っていられないと言わんばかりにエスメライの軽い拘束状態を解きつつ叫ぶ。
「テメェも変わんねぇからな!? 何ならお前のがタチが悪いまであるわ!!」
「わたしはお風呂見に行かないし、窓に貼り付いたりしないもん!!」
——まあ、部屋には侵入しまくってるけどな、とエスメライたちは思った。
だが、口には出さない。これを言えばクロウを盛大に刺激することを理解しているからだ。
やれやれと肩をすくめながら、エスメライは話を続ける。
「一時期は色んなとこで悲鳴があがったよ、やべーのの」
「やべーのの」
「クロウが後手に回ることはまず無かったから。状況からして敵か変態かの二択だから、拘束確定ラインだしね。
とりあえず悲鳴が3回上がった時点で、クロウの部屋の窓には板打ちつけた。まあ、体質を考えたら元々クロウに日光はよくないしね……はは」
つまり風呂に現れる→クロウに拘束されて悲鳴を上げる。
部屋の窓に貼りつく→クロウに拘束されて悲鳴を上げる。
……のローテーションが発生したのだろう。
流石にちょっとだけクロウが不憫に思えてきた。
「……で、まさかとは思うんですけど……追跡班って……」
「元を辿ると“悲鳴を上げた変態”の寄せ集めだし、今でも放置したら何かしらやらかしそうな“変態予備軍”を集めた集団だ」
「うわぁ」
「少なくとも、うちの風呂を見つけて侵入したり、クロウの部屋を見つけて貼りついたりする才能の持ち主だし、何より肝が据わってて根性がある。
だから他の人間より難しい任務がこなせるわけだよ……ほら、動機が動機だから、離職率が低いし」
ステフィリオンの裏方離職率の深刻性については、クロウのティスルでの任務がきっかけで把握している。何ならラザラスの負傷が発生したブライアでの任務でも出そうだ。
よりによって救助対象者である商品に襲われ、戦闘員がヤバいことになったのは分かっているだろうし。
(なるほどなぁ……まあ、そうだよね。ファンなら少々怖くても頑張るよね)
自身の体験も踏まえて、ロゼッタはそう結論を出す。
そこであることに気づき、ロゼッタはエスメライに疑問を投げかけた
「回収班の確保、ヴェルさんが向かったって言ってましたよね? 回収班の管轄はクロウなんじゃ……」
「ああ、追跡班に関してはルーシオの管轄にした上でヘイゼル州を拠点にして物理的に離したし、回収班の方もクロウの変態ファン、つまり追跡班行きの奴で打線が組めちまった辺りで念のため管轄をヴェルさんに移した」
「それだと、ルーシオさんとヴェルさんに被害が出そうですけど……」
「大丈夫、回収班も基本の拠点はヘイゼル州だからさ。そもそも回収班は“変態適性”が低いまともな奴を配置してるんだ。
追跡班に関しても、奴らは一途だからルーシオが被害に遭うことはない。それでもヤバそうな場合は問答無用でスピネル王国行きだ」
「ああー……」
被害を未然に防いでいる、というエスメライの発言の意図が分かった。
ブライア州のことを考えれば、恐らくヘイゼル州までも結構距離があるのだろう。
物理的に引き離した上で、被害が増えなさそうな人員配置をする——結果的に変態を大量に押しつけられているルーシオを不憫には思うが、戦いに犠牲はつきものだ、仕方がない。
エスメライは再びクロウを親指で指し、口を開く。
「ま、そんなわけで。クロウは“ストーカー”って存在が嫌いなんだよ」
「えぇー……そんな変態集団と一緒にしないで欲しいんだけど……」
げんなりしながら、ロゼッタはクロウに視線を移す。かつてのストーカー被害者であるクロウは、心底軽蔑したような目でロゼッタを見下ろす。
「さっきも言ったが、テメェも大差ねぇんだよ。能力が高くて手綱を握れないっつーだけで警戒案件だ」
「悪いことしてないもーん」
「ストーカーは悪いことだろうが!?」
「それ以外は何もしてないもん!!」
また堂々巡りになりそうだ。
苦笑しながらもレヴィはロゼッタとクロウを引き離す。
「お、おい、レヴィ……」
「ボクも思うところはありますけどね!? でも……でもぉ……」
困った様子のレヴィを一瞥したあと、エスメライは腰に手を当て、クロウに話しかける。
「嫌悪感がすごいのは分かる。だが理解しな、ラズが嫌がってないならこれが最適解だ。
対象があんたじゃないんだから、我慢しろ」
「……っ」
「まあ……これでもさ、あんたが全面的に正しいのは、分かっちゃいるけどさ……」
——何度考えても、“ストーカー正規雇用”は意味が分からない。
分からない……が、残念ながらこれが最も理に適っているのだ。悲しいことに。
「はぁ……」
意味が分からない話だが、何故か周りが全員同意しているせいで引くしかない、と判断したクロウはため息を吐き、黙り込む。
なんとか彼の説得に成功したエスメライは、ラザラスに視線を向けた。
「どうする? あたしとしては心配だから残っといて欲しいんだが、色々とキツいだろ? 帰るか? ロゼッタもいるしな」
彼女は話しながらも窓を開けて部屋に充満する薬品の匂いを消そうとするが、これはそう簡単に消えるものではない。ラザラスは困ったように笑い、エスメライへと視線を向けた。
「そうですね……帰ります。すみません」
「ん、了解。レヴィ、送ってやってくれ……って、思ったんだが」
エスメライはちらりとロゼッタを見る。
「あんた、たぶん行けるだろ? だいぶ難易度高めっぽいんだけど、これを機に『転移』覚えてくんない?」
「……。ますますわたしが手をつけれなくなると思いますが、覚えて良いんですか?」
「ぶっ!?」
2人の会話を聞いていたクロウがボソリと「ストーカーの方がまともだと……?」と呟いていたが、とりあえず聞かなかったことにした。
エスメライは笑いながら、レヴィに視線を向ける。教えてやってくれ、という意味だ。
レヴィは頷いてからロゼッタの前に立ち、身振り手振りで転移の説明を開始した。
「理論的にはこんな感じです。本来なら座標とか地理的条件とかも気にしなきゃいけないのですが……ロゼッタさんならきっと、ラズさんのお部屋をしっかり思い浮かべられると思うので、それで大丈夫かなと。
慣れないうちは普通にやると精度が落ちちゃうので、魔力をかなり多めに使ってゴリ押しでどうにかしましょう」
「分かりました」
レヴィ曰く、転移は膨大な魔力を消費する術であるため、地図などを見て飛距離や方向をしっかり把握した上で、使う魔力量を節約して対応するものなのだとか。
また、長距離移動をすると余計に魔力を消費してしまうため、一般的には複数回発動させ、休みつつ微調整や休憩を挟みながら移動するのが普通らしい。
「あー……なるほど。つまりレヴィさんってすごいんですね?」
「ふふ、ありがとうございます。ボクは地属性が得意なので、かなり相性が良かったみたいなんですよね」
とりあえずレヴィが転移の達人なのはよく分かった。そんな彼女に教わることができるのはありがたい。
内心「本当に手がつけられなくなるぞ、良いのか?」と思いつつ、ロゼッタは感覚を掴んでいく。
「じゃあちょっと、中庭に飛んで戻ってきますね」
ひとまず、部屋の中から中庭に転移し、瞬時に部屋に戻ってみた——なるほど、これは確かに考えなしに連発すると危ないかもしれない。流石のロゼッタでも、微かな疲労感を覚えた。
戻ってきたロゼッタを見て、レヴィは両手を合わせて笑顔を浮かべている。
「あっ、そうです! できてます、大丈夫です!」
「良かったです! ただ、ラズさんの家に飛ぶ時はちゃんと詠唱した方が良さそうですね。確かにこれ、あんまり燃費の良い術ではなさそうというか……」
「ふふ、中級術とはいえ、侮れないんですよね。自分以外を巻き込んで飛ぶ場合はさらに持っていかれるので、注意してくださいね?」
そう言って、レヴィは「あっ」と声を上げる。
「でも、ボクがかなり貰っちゃったし、流石に魔力不足かも……い、いけます?」
「余裕です! まあ、流石に分かりやすく疲れはしそうですが……」
「ロゼッタさん、普通は倒れちゃうレベルのことやってるんですけどねぇ……ボクで換算したら3回は余裕で倒れてる気がします……」
「なるほど……」
今日の自分の一連の動き、あと5回は行けるなとロゼッタは思ったが、あえて口にはしなかった。
とりあえず限界点がうっすらと分かったのはありがたい。
「よし、行けると思うので……じゃあラズさん、帰りましょうか?」
ベッドの上のラザラスに近づき、話しかける。
するとラザラスはかなりばつが悪そうに目を逸らしてしまった。
「……。めちゃくちゃ迷惑かけて悪いんだけどさ、多分、着いた瞬間に意識が飛ぶ気がするんだよな……適当に転がしといて欲しい……」
一番良いのは、ここに残ることなのは分かっている。それでも、なるべく早くこの場を立ち去りたい……怖い。
そんな彼の、どうしようもない思いを感じ取り、ロゼッタは柔らかく微笑む。
「大丈夫ですよ。さっきレヴィさんの微調整を見てたので、真似して最初からベッドの上を狙ってみます。技術は無くても魔力量で押し切れるから、大丈夫です。だから、安心して寝ててください」
「……悪い。ありがとう」
転移で一緒に連れて行くため、ロゼッタはラザラスの手を握る——微かに、震えている。
(さっさと連れて帰って、寝てもらおう)
薬品の匂いもそうだが、黄金眼の男に殴られた件も相当に彼の心の傷を抉ってしまったのだろう。その上で、彼はただ気丈に振る舞っているだけなのだ。
本当は今、叫んで逃げ出したいレベルの恐怖と戦っているのかもしれない。
(……わざわざ、そこに踏み込む必要はないよね)
分かっている。
だからこそ、何も言わない。
ロゼッタはラザラスの手をぐっと握り、ただ、飛ぶことに集中した。
「【転移】」
2人の姿が、部屋から消える。
消えてしまった以上、どうなったかは分からないが、ロゼッタならば大丈夫だろうと部屋に残されたエスメライとレヴィは判断する。
「……」
そんな中でクロウは、先程までロゼッタが立っていた空間を黙って見つめていた。
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