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第1章『名もなき奇跡の始まり』
15.境界線-2
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目の前に、ココアが入ったマグカップが置かれる。ふわりと、甘い香りが湯気と共に立ち上がっていた。
「熱いから慌てて飲むんじゃねぇぞ。火傷するからな」
「や、火傷……」
そう口にして、ロゼッタはハッと口を覆う。
クロウの前で、このワードはダメかもしれない。ちらりと目線を上げれば、盛大にため息を吐き出すクロウの姿が目に入った。
「触れねぇでおこうかと思ってたんだが……お前、目線の動きが分かりやすすぎる。顔もだな。
他人を気遣う癖だけ立派に育って、動作が追いついてないんだろ。そんなんじゃ、やられる側は逆に気になるぞ」
「う……ごめんなさい……」
「無理すんなってだけだ。謝んな」
色々見ていたのがバレていたらしい。
縮こまってしまったロゼッタを見て思うところがあったのか、クロウは少しだけ距離を取り、自分のマグカップに口をつけた。
「ったく、ラザラスから離れようとしてるのに気づいた時には驚いたんだがな。隠したいなら、その2つには気をつけろ」
「うん……」
「んで? 聞きたいことあるなら、聞いてこい。話せることは話してやっから」
眼鏡の奥で、真っ白な長いまつ毛が動く。良いとは言われたが、露骨な話は振りにくい。
(えっと……)
ロゼッタは気になっていることの中で、比較的当たり障りが無さそうな話題を選んだ。
「その……耳が長いから、クロウって“カラス種”、だよね?」
「初手がそれかよ。まあ、構わんが」
もっと踏み込んだ話題が出ると思っていたのか、クロウは少しだけ驚いた様子だった。
「カラス種であってる。だが、遺伝子疾患があるんだ」
「遺伝子疾患……?」
「一般的には“アルビノ”とか“白子”とかって呼ばれるな。生まれつき色素が抜けた生き物を指す言葉だな。
こんなんでも、両親共にカラス種だから、魔力量はかなり多い部類だ。お前には勝てねぇが」
「なる、ほど……」
話を聞き、こっそり『透識』を使用する……魔力量はかなり多い、と言う割にあまり感じられない。表面だけ見れば、レヴィを遥かに下回っている。
もしかして、普段のラザラス同様に身体強化系列の術を使いながら、術の痕跡そのものを隠しているのだろうか?
(たぶん、『黙影』も一緒に使ってガッツリ隠してるんだよね。何使ってるのか、探ろうと思えば探れそうだけど……流石に失礼だね。やめとこう)
とはいえ、見ているだけでもクロウが確実に使っているであろう身体強化系列の術は分かる。
……次は、それを聞いてみよう。
「視力、悪いの?」
「弱視って奴だ。裸眼だと何もかもボヤけまくって何も見えねぇ。オレのは生まれつきのものだし、視野は欠けてねぇからラザラスとは違うがな。
まあ、酷すぎて眼鏡じゃ補正しきれねぇから、眼鏡と合わせて『視力強化』使ってるな。普段はもっとキツめに掛けて、パッと見だと裸眼で過ごしているように見せかけてる」
同時に黙影を使うのは、弱みを見せないためなのだろう。
ただ、彼が使っている魔術が黙影と視力強化だけとは思えなかった。
「……。たぶん視力強化以外の身体強化系統も使ってるよね?」
「そっちは黙秘する。自分の弱点を何でもかんでも晒したくはねぇよ」
そう言って、クロウは再びマグカップに口をつける。
彼の動作に合わせて、ロゼッタもココアを口にした——甘い。
優しい甘さが、口の中に広がっていく。この味は、好きだ。
「美味しい。レヴィさんとかも、これ好きなの?」
「良かった……ん? なんでレヴィの名前が……って、ああ、そういうことか」
クロウは先程“アイツら”と話していた。てっきりレヴィたちの話だと思っていたのだが、違ったらしい。
これはまずい。ダメな話題を振ってしまったかもしれない。
「だから顔に出すぎだ。別に怒らねぇから、変に気を遣うな」
「うぅ……」
とはいえ、あまり良い話題ではないのは事実のようだ。クロウに視線を逸らされてしまった。目を、合わせてくれない。
「……ガキ、育ててたんだよ。10歳前後くらいの」
「えっ!? 子持ち!?」
クロウはどう見てもラザラスと同じか、少し上くらいの年齢に見える。10歳前後くらい、となると、一体彼は何歳なのだろうか。
またしても顔に出ていたのか、クロウに呆れ返ったような目を向けられてしまった。
「オレは今年で26歳だ。完全に無理とは言い切れねぇけど、10歳前後のガキ持つのは結構厳しいぞ」
「だ、だよねぇ……」
「孤児院的なモンをな、やってたんだ。ガキは全部で19人いたんだが、そいつらの大多数がココア派だったって話だよ」
彼の話がことごとく“過去形”なのが気になった……つまり、そういうことなのだろう。
彼の首に掛かっている、指輪の持ち主と同様に。
「……」
勘づいてしまったがゆえに、ロゼッタは黙り込んでしまった。
その様子を見たクロウはロゼッタから目を逸らし、視線を合わせないままで、口を開く。
「ガキ共と、婚約者。全員ドラグゼンの人間に惨殺された。8年前の話だ」
——その言葉を発した瞬間だけ、クロウの声が少しだけ震えていた。
「あ……」
多少思うところがあるのか、クロウは誤魔化すようにマグカップに口をつける。
その姿は、闇に飲まれてしまいそうなほどに、寂しげに見えた。
「オレはひとりだけ生き残っちまったというか、生き残らされたが正しいな。文字通り焼き鳥にされて左腕は無くなるし、オマケみたいなノリで顔も焼かれるしで……散々だよ、本当に」
「……ッ」
最悪な環境で生きてきたロゼッタからしてみれば、生きているだけで、素晴らしいことだと思う。それだけで、奇跡だと考えていた。
……だが、それでも。
それでも、彼に対して「クロウだけでも生きていて良かった」だなんて、口が裂けても言えなかった。
ロゼッタは、返す言葉を探す。
何を言えば良いか、分からない。
そんな反応をされることは、分かっていたのだろう。クロウの方から、話し出した。
「気にすんな。ある程度は開き直ってる」
「それは……」
「元少年兵を舐めんな。修羅場なんて、アホほど潜ってきてる……ラザラスとは、違う」
——それは本心でもあるようだが、ほぼ虚勢だろう。
今の彼の言葉は、彼が自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「……」
なんとなく気まずくなってしまい、ロゼッタは少しだけ冷めたココアを口にする。
彼が何度も子どもたちに作ってきたと思しき甘さが、切ない……この甘さが、辛い。
「……。なあ、ロゼッタ。お前、闇属性の魔術はどれだけ使えるんだ?」
話を変えようとしてくれたのか、クロウが全く関係のない話を振ってきた。
(不自然すぎるでしょ……)
正直、「気遣い屋はどちらだよ」と言いたくなる。
そこは指摘せず、ロゼッタは口を開いた。
「上級とか特級は試してないから分かんないけど、中級までは、たぶん普通に行けると思うよ。ていうか、闇属性が一番素養あるみたいだし」
「なるほど? なら初級術の『感影』を覚えろ。ラザラスの視野狭窄との相性は抜群だと思う」
「そうなんだ……で、でも、ラズさんはそれ、使ってなかったと思う……」
「ほら、それはアイツ本人が……属性持て余し状態のポンコツ魔術師だから……」
「ああ……」
悲しい。
闇属性の素養はあるのに、どうやら何も使えないらしい。
「アイツはな。割と大真面目に身体強化系統の初級術しか使えねぇぞ。魔術師だってのに、無属性すら怪しい。
つーか、あんなんじゃ『使えねぇ』って言い切っても良いレベルだ。魔力量がアレなせいで、実用性がことごとく死んでる」
「ああ……」
——本当に、悲しい。せめて無属性は使えて欲しかった。
「えっと、えっと、クロウの適性は?」
とりあえず、ラザラスの死体蹴りはやめよう。
そう思い、ロゼッタは微妙に話題を変えてみる。
「……」
クロウは少し悩む様子を見せた後、ロゼッタに向き直った。
「とんでもなくムラはあるが、光属性以外は全部使えはする。
初級1個だけ、中級まで……みたいなのもあれば、上級までガッツリ行ける属性もある」
「へぇ……!」
「……。そうだな、得意なのは闇属性か。詠唱は必須だが、上級まで行ける。あとは火属性と無属性もよく使うな」
「あ、得意属性がわたしとお揃い!」
「なるほどな……って、待て。今『お揃い』とか言ったか? やめろ、縁起でもねぇ」
「失礼!」
「テメェとお揃いは嫌すぎる!」
「だから失礼!!」
とにかく失礼だ。
失礼では、あるのだが。
重い空気が多少マシになったから良しとする。
「話を戻すぞ。初級とはいえ、感影はちょっと癖があるからな……つーことで今、お前に掛けてやる。1発で感覚掴めよ」
クロウが「感影」と呟く。
すると、まるで雪解けを告げる春風のような、穏やかで暖かく、優しい波長の魔力が身体に流れてくる。
「……」
彼の振る舞い的にもっと冷たい感じの、それこそ豪雪。凍りついてしまいそうなようなものをイメージしていたのに——あまりのギャップに、ロゼッタは困惑する。
「あのさ。魔力の波長、クロウに似合わなさすぎじゃない?」
「うるせぇ。自分でもちょっと気にしてんだ、黙ってろ」
クロウに悪態をつかれた瞬間、まるで波紋が広がっていくような感覚で、周囲の様子が感じ取れた。
確かに、視野が欠けている彼にとっては有益な術だろう。
「なるほどね。確かに、ラズさんにはこっちのが向いてるかも」
「だろ? だからラザラスには散々練習させたんだけどな。索敵向きの術でもあるし……まあ、アイツは当然のように『黙影』も使えねぇから、索敵に『感影』使おうもんなら相手に逆探知されて終わるけどな」
「ああ……」
——本当に、あの人の魔術ポンコツっぷりはどうにかならないのだろうか。
使える属性の種類だけは、素養だけは。
本当に、本当に恵まれているというのに!
恐らくロゼッタ以上にそう思っているであろうクロウは、眉間にシワを寄せていた。
「熱いから慌てて飲むんじゃねぇぞ。火傷するからな」
「や、火傷……」
そう口にして、ロゼッタはハッと口を覆う。
クロウの前で、このワードはダメかもしれない。ちらりと目線を上げれば、盛大にため息を吐き出すクロウの姿が目に入った。
「触れねぇでおこうかと思ってたんだが……お前、目線の動きが分かりやすすぎる。顔もだな。
他人を気遣う癖だけ立派に育って、動作が追いついてないんだろ。そんなんじゃ、やられる側は逆に気になるぞ」
「う……ごめんなさい……」
「無理すんなってだけだ。謝んな」
色々見ていたのがバレていたらしい。
縮こまってしまったロゼッタを見て思うところがあったのか、クロウは少しだけ距離を取り、自分のマグカップに口をつけた。
「ったく、ラザラスから離れようとしてるのに気づいた時には驚いたんだがな。隠したいなら、その2つには気をつけろ」
「うん……」
「んで? 聞きたいことあるなら、聞いてこい。話せることは話してやっから」
眼鏡の奥で、真っ白な長いまつ毛が動く。良いとは言われたが、露骨な話は振りにくい。
(えっと……)
ロゼッタは気になっていることの中で、比較的当たり障りが無さそうな話題を選んだ。
「その……耳が長いから、クロウって“カラス種”、だよね?」
「初手がそれかよ。まあ、構わんが」
もっと踏み込んだ話題が出ると思っていたのか、クロウは少しだけ驚いた様子だった。
「カラス種であってる。だが、遺伝子疾患があるんだ」
「遺伝子疾患……?」
「一般的には“アルビノ”とか“白子”とかって呼ばれるな。生まれつき色素が抜けた生き物を指す言葉だな。
こんなんでも、両親共にカラス種だから、魔力量はかなり多い部類だ。お前には勝てねぇが」
「なる、ほど……」
話を聞き、こっそり『透識』を使用する……魔力量はかなり多い、と言う割にあまり感じられない。表面だけ見れば、レヴィを遥かに下回っている。
もしかして、普段のラザラス同様に身体強化系列の術を使いながら、術の痕跡そのものを隠しているのだろうか?
(たぶん、『黙影』も一緒に使ってガッツリ隠してるんだよね。何使ってるのか、探ろうと思えば探れそうだけど……流石に失礼だね。やめとこう)
とはいえ、見ているだけでもクロウが確実に使っているであろう身体強化系列の術は分かる。
……次は、それを聞いてみよう。
「視力、悪いの?」
「弱視って奴だ。裸眼だと何もかもボヤけまくって何も見えねぇ。オレのは生まれつきのものだし、視野は欠けてねぇからラザラスとは違うがな。
まあ、酷すぎて眼鏡じゃ補正しきれねぇから、眼鏡と合わせて『視力強化』使ってるな。普段はもっとキツめに掛けて、パッと見だと裸眼で過ごしているように見せかけてる」
同時に黙影を使うのは、弱みを見せないためなのだろう。
ただ、彼が使っている魔術が黙影と視力強化だけとは思えなかった。
「……。たぶん視力強化以外の身体強化系統も使ってるよね?」
「そっちは黙秘する。自分の弱点を何でもかんでも晒したくはねぇよ」
そう言って、クロウは再びマグカップに口をつける。
彼の動作に合わせて、ロゼッタもココアを口にした——甘い。
優しい甘さが、口の中に広がっていく。この味は、好きだ。
「美味しい。レヴィさんとかも、これ好きなの?」
「良かった……ん? なんでレヴィの名前が……って、ああ、そういうことか」
クロウは先程“アイツら”と話していた。てっきりレヴィたちの話だと思っていたのだが、違ったらしい。
これはまずい。ダメな話題を振ってしまったかもしれない。
「だから顔に出すぎだ。別に怒らねぇから、変に気を遣うな」
「うぅ……」
とはいえ、あまり良い話題ではないのは事実のようだ。クロウに視線を逸らされてしまった。目を、合わせてくれない。
「……ガキ、育ててたんだよ。10歳前後くらいの」
「えっ!? 子持ち!?」
クロウはどう見てもラザラスと同じか、少し上くらいの年齢に見える。10歳前後くらい、となると、一体彼は何歳なのだろうか。
またしても顔に出ていたのか、クロウに呆れ返ったような目を向けられてしまった。
「オレは今年で26歳だ。完全に無理とは言い切れねぇけど、10歳前後のガキ持つのは結構厳しいぞ」
「だ、だよねぇ……」
「孤児院的なモンをな、やってたんだ。ガキは全部で19人いたんだが、そいつらの大多数がココア派だったって話だよ」
彼の話がことごとく“過去形”なのが気になった……つまり、そういうことなのだろう。
彼の首に掛かっている、指輪の持ち主と同様に。
「……」
勘づいてしまったがゆえに、ロゼッタは黙り込んでしまった。
その様子を見たクロウはロゼッタから目を逸らし、視線を合わせないままで、口を開く。
「ガキ共と、婚約者。全員ドラグゼンの人間に惨殺された。8年前の話だ」
——その言葉を発した瞬間だけ、クロウの声が少しだけ震えていた。
「あ……」
多少思うところがあるのか、クロウは誤魔化すようにマグカップに口をつける。
その姿は、闇に飲まれてしまいそうなほどに、寂しげに見えた。
「オレはひとりだけ生き残っちまったというか、生き残らされたが正しいな。文字通り焼き鳥にされて左腕は無くなるし、オマケみたいなノリで顔も焼かれるしで……散々だよ、本当に」
「……ッ」
最悪な環境で生きてきたロゼッタからしてみれば、生きているだけで、素晴らしいことだと思う。それだけで、奇跡だと考えていた。
……だが、それでも。
それでも、彼に対して「クロウだけでも生きていて良かった」だなんて、口が裂けても言えなかった。
ロゼッタは、返す言葉を探す。
何を言えば良いか、分からない。
そんな反応をされることは、分かっていたのだろう。クロウの方から、話し出した。
「気にすんな。ある程度は開き直ってる」
「それは……」
「元少年兵を舐めんな。修羅場なんて、アホほど潜ってきてる……ラザラスとは、違う」
——それは本心でもあるようだが、ほぼ虚勢だろう。
今の彼の言葉は、彼が自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「……」
なんとなく気まずくなってしまい、ロゼッタは少しだけ冷めたココアを口にする。
彼が何度も子どもたちに作ってきたと思しき甘さが、切ない……この甘さが、辛い。
「……。なあ、ロゼッタ。お前、闇属性の魔術はどれだけ使えるんだ?」
話を変えようとしてくれたのか、クロウが全く関係のない話を振ってきた。
(不自然すぎるでしょ……)
正直、「気遣い屋はどちらだよ」と言いたくなる。
そこは指摘せず、ロゼッタは口を開いた。
「上級とか特級は試してないから分かんないけど、中級までは、たぶん普通に行けると思うよ。ていうか、闇属性が一番素養あるみたいだし」
「なるほど? なら初級術の『感影』を覚えろ。ラザラスの視野狭窄との相性は抜群だと思う」
「そうなんだ……で、でも、ラズさんはそれ、使ってなかったと思う……」
「ほら、それはアイツ本人が……属性持て余し状態のポンコツ魔術師だから……」
「ああ……」
悲しい。
闇属性の素養はあるのに、どうやら何も使えないらしい。
「アイツはな。割と大真面目に身体強化系統の初級術しか使えねぇぞ。魔術師だってのに、無属性すら怪しい。
つーか、あんなんじゃ『使えねぇ』って言い切っても良いレベルだ。魔力量がアレなせいで、実用性がことごとく死んでる」
「ああ……」
——本当に、悲しい。せめて無属性は使えて欲しかった。
「えっと、えっと、クロウの適性は?」
とりあえず、ラザラスの死体蹴りはやめよう。
そう思い、ロゼッタは微妙に話題を変えてみる。
「……」
クロウは少し悩む様子を見せた後、ロゼッタに向き直った。
「とんでもなくムラはあるが、光属性以外は全部使えはする。
初級1個だけ、中級まで……みたいなのもあれば、上級までガッツリ行ける属性もある」
「へぇ……!」
「……。そうだな、得意なのは闇属性か。詠唱は必須だが、上級まで行ける。あとは火属性と無属性もよく使うな」
「あ、得意属性がわたしとお揃い!」
「なるほどな……って、待て。今『お揃い』とか言ったか? やめろ、縁起でもねぇ」
「失礼!」
「テメェとお揃いは嫌すぎる!」
「だから失礼!!」
とにかく失礼だ。
失礼では、あるのだが。
重い空気が多少マシになったから良しとする。
「話を戻すぞ。初級とはいえ、感影はちょっと癖があるからな……つーことで今、お前に掛けてやる。1発で感覚掴めよ」
クロウが「感影」と呟く。
すると、まるで雪解けを告げる春風のような、穏やかで暖かく、優しい波長の魔力が身体に流れてくる。
「……」
彼の振る舞い的にもっと冷たい感じの、それこそ豪雪。凍りついてしまいそうなようなものをイメージしていたのに——あまりのギャップに、ロゼッタは困惑する。
「あのさ。魔力の波長、クロウに似合わなさすぎじゃない?」
「うるせぇ。自分でもちょっと気にしてんだ、黙ってろ」
クロウに悪態をつかれた瞬間、まるで波紋が広がっていくような感覚で、周囲の様子が感じ取れた。
確かに、視野が欠けている彼にとっては有益な術だろう。
「なるほどね。確かに、ラズさんにはこっちのが向いてるかも」
「だろ? だからラザラスには散々練習させたんだけどな。索敵向きの術でもあるし……まあ、アイツは当然のように『黙影』も使えねぇから、索敵に『感影』使おうもんなら相手に逆探知されて終わるけどな」
「ああ……」
——本当に、あの人の魔術ポンコツっぷりはどうにかならないのだろうか。
使える属性の種類だけは、素養だけは。
本当に、本当に恵まれているというのに!
恐らくロゼッタ以上にそう思っているであろうクロウは、眉間にシワを寄せていた。
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