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朧月夜の章
朧月夜の章㉕
しおりを挟む翌朝。
朧月夜は華やかな花嫁衣装を身に纏い、若紫に別れの挨拶をしに来た。
紅白の梅に、目映い金糸で刺繍された鶴が舞う最高級の打掛け。高価な花嫁衣装と嫁入り道具は全て、天帝が朧月夜の為に用意したものだ。
家を飛び出した朧月夜には婚姻費用を出してくれる身内がいない。身一つで嫁がせるのはあまりにも不憫だと、天帝は婚姻に掛かる費用を全額負担してくれた。
黒狐族王女・若紫からは多額の持参金を贈られ、朧月夜は恐縮するばかりだ。
「とても美しいわ。朧月夜、幸せになるのよ」
「王女様のお陰で今があります。あの日、私を救い出して下さってありがとうございました」
「私は切っ掛けを作っただけですわ。幸せを掴み取ったのは貴女自身。・・・本当に、おめでとう。貴方の未来が輝かしいものであるように、私は心を込めて祈りましょう」
「光栄です。王女様もお相手が決まったら是非遊びにいらして下さい。夫の領地はフルーツも良く実るそうですので」
「あら、それは魅力的ね。私葡萄が大好きなの」
「覚えておきます」
「大粒の黒葡萄でよろしくね」
「はい」
「緑の葡萄も好きよ」
本当に葡萄が好きなのだろう。次々出てくるお願いに朧月夜が笑うと、扉をノックする音が聞こえた。
「朧月夜様、お時間です」
玻璃が迎えに来た。
いよいよ出立の時だ。朧月夜は最後に深く一礼し、玻璃と共に若紫の部屋を去った。
傷付き丸まった背中は漸く本来の姿を取り戻した。迷い無く進む後ろ姿は力強く、美しい。
「・・・美しき朧月夜。貴女は正しい相手を選んだわ。私の方こそ、ありがとう」
若紫は小さく呟いた。その声は朧月夜に届かなかったが、それで構わない。彼を選んだのは間違いなく朧月夜の意思だから。
やや強面だが、包容力溢れる優しい虎は彼女にピッタリだ。
彼なら安心して朧月夜を託せる。
折角誘われたのだから、麦畑が黄金に輝く頃に彼女に会いに行こう。
その時は、私の『夫』と共に。
「ディアゴさん、おめでとうございます!」
「これ、プリンです。朧月夜さんと一緒に食べて下さいね」
空とイフラースは満面の笑みで箱入りのプリンをディアゴに差し出した。
この量を買うとなると一体何時から並んでいたのだろうか?気遣いが嬉しくもあり申し訳なかった。
「・・・また朝一で並んだのか?」
「「はい!」」
「ありがとう。朧月夜と一緒に食べよう」
「是非そうして下さい」
「スプーンと保冷剤もありますからね」
準備の良い二人にディアゴは笑った。
出立の日。
ディアゴを見送ろうと空、イフラース、ミハエル、ユアン、レオンハルトは正門前に駆け付けた。
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