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明石の章
明石の章⑲
しおりを挟むレオンハルトは十五になると、特殊部隊に志願した。
特殊部隊は一般部隊では対応できない特殊な事案への対処を担当しており、訓練は地獄のように辛いと聞く。
専門的な知識も必要で、馬鹿には務まらない。
幸いレオンハルトはそこそこ勉強が出来たので試験には一発で合格した。
『レオンハルト・・・本当に行くのか?』
『ああ。行ってくるよ、父さん』
『レオンハルト、辛くなったらいつでも戻って来い。兄さんが話をつけるからな』
レオンハルトは笑いながら『兄』を見た。
『大丈夫だよ兄さん。俺、体は頑丈なんだ!』
兄のレオニードはレオンハルトを穏やかにしたような見た目をしている。明確に違うのは瞳の色だ。
レオンハルトは母親譲りのエメラルドだが、レオニードは深い青色だ。
レオニードは聡明で、穏やかな青年だ。
マリアンナから生まれたとは思えぬ人格者。
レオニード自身も嫉妬に狂い、幼い弟を虐待した母を軽蔑していた。
兄弟の年の差は八つ。
レオニード自身は弟の存在を歓迎しており、憎しみなどこれっぽっちもなかった。
虐待の件も彼は一切知らされておらず、気付けなかった己を責めたほどだ。
最初こそ警戒していたレオンハルトも、思いやりに溢れた兄の人柄に触れると忽ち心を許した。
『強くなって兄さんを支えるんだ。警護は任せてくれよ』
『ああ。楽しみにしている』
『レオンハルト・・・何かあればすぐに戻ってくるんだぞ』
『父さん、大丈夫だから。心配しないでくれよ』
大きく成長しても、父王の中でレオンハルトは未だに虐待を受けた小さな子のままなのだろう。
心配が嬉しくもあり、申し訳なく思うときもある。
だからこそレオンハルトは特殊部隊に志願した。
誰よりも強くなって父と兄を守りたい。レオンハルトは笑顔で城を去った。
特殊部隊訓練生となったレオンハルトは寮に入ると、嬉しいサプライズがあった。
『レオンハルト!』
『お前・・・クラウスか!?』
『ハハ。お互いデカくなったな』
レオンハルトはユキヒョウ一家の一人息子、クラウスと再会した。
クラウスとは時々手紙のやり取りをしていたが、実際会うのは九年ぶりだ。
彼も立派に成長していた。
真っ白な髪に尻尾、美しいピンクトルマリンの目を持つクール系イケメンだ。
『同室なんて凄い偶然だな!』
『全くだ!レオンハルト、よろしくな!』
『ああ!』
特殊部隊の訓練は噂通り地獄のように辛かった。
先輩方の洗礼もあったが、レオンハルトはクラウスと励まし合いながら乗り越えた。
明るいレオンハルトは同期の中心となった。
弱気になった同期を励まし、時に喧嘩し悪さもする。
毎年脱落者が多く出る特殊部隊訓練生だが、レオンハルトの同期は誰一人脱落しなかった。
ただ、レオンハルトは唯一『女性』の話となると機嫌を悪くした。
ある同期には彼女や婚約者がいるとか、何処まで経験したかとか。中には娼館に通う者もいた。
レオンハルトはマリアンナと侍女達のせいで女性に嫌悪感を持つようになっていた。
虐待に加担しなかった侍女と護衛官、女官もいたが皆マリアンナが怖くてレオンハルトを見捨てた。
打算的で狡賢い。そして冷酷で陰険。
レオンハルトは『女』が大っ嫌いだった。
父王はレオンハルトにそれとなく見合いを薦めていたが、全て蹴った。
女嫌いの根底を知る父王はそれ以上何も言えず、レオンハルトは『婚約者のいない弟殿下』として自由を満喫していた。
自由を満喫する弟殿下は訓練校卒業前、鳥の国と鹿の国へ短期留学した。
見聞を広め、兄を支えたいと思った。
鳥の国の自由な流通と、鹿の国の充実した福祉。
この二つは猫の国発展のために取り入れるべきだと兄に提言するつもりだった。
レオンハルトは帰国すると、特殊部隊の小隊を任された。
麻薬売買の拠点を制圧したり、幼い子どもを人質に立て籠もる凶悪犯と戦い、時に王政に不満を持つ過激な民主活動家達を一斉検挙したりした。
命懸けの作戦をレオンハルトと同期は戦い抜き、生き延びた。
危険な任務を終え、家に帰ると温かく出迎えてくれる父と兄がいる。
父王はレオンハルトの好きな食事をこれでもかと用意し、レオンハルトはデザートのケーキを食べながら任務の話をする。
レオンハルトは家族団らんの時間が大好きだった。
そう遠くない未来に兄が王位を継ぐだろう。
兄を守り、父に親孝行する。そんな未来をレオンハルトは思い描いていた。
大好きな家族と幸せな未来が一瞬で消えるなんて想像もしていなかった。
あの日味わった絶望をレオンハルトは生涯忘れないだろう。
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