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明石の章
明石の章㊳
しおりを挟む三年前。
猫の国で二百年ぶりとなる大地震が発生した。
被害は深刻で、レオンハルトが所属する特殊部隊小隊も瓦礫に埋まった住民の救出に狩り出された。
家を失った人々は特殊部隊が設置したテントへ非難し、余震の度に恐怖に震える。
泣き叫ぶ幼子をレオンハルトは抱きしめて守るしかなかった。
天災はどうにもならない。己の無欲さを痛感した。
王城にいた父王と兄に怪我はなかったが、父王は瓦礫と化した城下町へ向かった。
『王』として復興に全力を尽くすためと、傷付き疲弊した民の心に寄り添うためだ。
次期国王として兄レオニードも父王に同行した。
レオンハルトはその時、郊外で起きた山崩れの対応に当たっていた。
山崩れが起きた現場のすぐ近くに、小さな集落があった。二次被害を考慮し、レオンハルトは慎重に住民達の避難を始めた。
レオンハルトが集落最後の住民を背負って隣の集落に向かっていると、強い揺れが起きた。
『!』
『余震か!?』
『余震にしては揺れが強いぞ!!』
『急げ!ここが崩れたら巻き込まれるぞ!』
レオンハルト達は立ち止まらず、先へ進んだ。
隣の集落に無事到着し、レオンハルト率いる特殊部隊小隊は住人から温かな食事を振る舞われた。
熱々のスープは疲労した体に染みる。キノコと鶏団子のスープをレオンハルトはあっという間に完食した。
避難してきた住人のために仮設住宅を建てていると、クラウスが血相を変えて走ってきた。
『レオンハルト!!大変だ!!王と兄君がっ!!』
『・・・は?』
レオンハルトが急いで城に戻ると、マリアンナの泣き叫ぶ声が響いていた。
王の間に並んだ二つの棺。
こんなの悪い夢だ。
信じられない。信じたくない。
レオンハルトは父の部下に促され、『王』が眠る棺の傍らに立つ。
棺の蓋に取り付けられた小さな扉。
震える手で開くと、傷だらけの父が眠っていた。
真っ白な顔は生気が無く、父がもう生きていない現実を突き付けられた。
最愛の父はもういない。レオンハルトの目に涙が溢れた。
『父さん・・・!!父さん!!』
棺に縋り付いて号泣した。
後悔だけが押し寄せる。
何も恩を返せなかった。親孝行できないまま父と死に別れるなんて夢にも思わなかった。
レオンハルトはただ泣き叫んだ。
泣きすぎて頭がクラクラするが、レオンハルトはゆらりと立ち上がって隣の棺を見た。
そっと扉を開くと、優しくて大好きな兄が眠っていた。
兄は父と違って綺麗なままで、まるで眠っているようだ。
『兄さん・・・』
レオンハルトは崩れ落ちた。
何故こんな事になったのか?
父と兄は被災地に慰問に行っただけなのに。
『何で・・・何でこんな事に・・・』
縋り付くように兄の棺を抱きしめた。
その光景を見たマリアンナが絶叫した。
『私の息子に触るな!!お前だ!!お前がやったんだろう!!この人殺し!!誰か!!誰かあの汚らわしい妾の子を殺して!』
マリアンナは半狂乱になってレオンハルトに掴みかかった。
レオンハルトは完全に油断していて、マリアンナに突き飛ばされてそのまま押し倒された。
馬乗りになったマリアンナはレオンハルトの首を力一杯締め上げた。
全体重を掛けられ、レオンハルトは呼吸が出来なくなった。
マリアンナは本気だ。本気で自分を殺そうとしている。
逃げようとしたレオンハルトは手加減一切なしでマリアンナの腹を蹴り上げた。
『ぎゃっ!!』
蹴り飛ばされたマリアンナは衝撃で吐き、痛みで転げ回った。
正当防衛とはいえ王妃に暴力を振るったのだ。
捕らえられるのも覚悟していたが、周りにいた父の重臣達がレオンハルトを守るように立ち塞がった。
『言いがかりも程がある!!王妃よ、国王とレオニード様は事故死されたのだ!レオンハルト様の所為ではない!』
『次期国王たるレオンハルト様に手を上げるとは何事か!!』
次期国王
その言葉がレオンハルトに重くのし掛かった。マリアンナも悲鳴を上げた。
『嘘よ!!私は認めない!認めてなるものか!!絶対許さないから!!』
『認めないも何も。王位継承に貴女は口を出せませんよ?』
『『獅子の王』の血を継ぐ王位継承者はレオンハルト様のみとなられました。まさかご自身が王位を継げるとでも?』
マリアンナの顔は屈辱で歪み、噛みしめた唇から血が流れ出る。
わなわなと震えるマリアンナを一人の若い女性が支えた。
『お義母様・・・』
『オリビア』
白に近い白銀の髪に、美しいサファイアの瞳。
目鼻立ちがハッキリした美女は体付きもしなやかだ。
この世でたった一人きりとなったホワイトライオンで猫の国一の美女と名高き女性。
レオニードの婚約者、オリビアだ。
『・・・レオニード様は何故、こんな事に』
オリビアの目から静かに涙がこぼれ落ちる。
レオンハルトも知りたかった。何故父王と兄が死ななければならなかったのか。
『誰も悪くありません。不運な事故だったのです』
内務大臣は沈痛な面持ちで経緯を話した。
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