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浮舟の章
それからの二人 下
しおりを挟む二年前、イフラースと浮舟は子ども達を連れて猫の国に遊びにいった。
レオンハルトと明石は二人を歓迎してくれた。
浮舟は久しぶりに会う親友と深夜まで話し込み、レオンハルトとイフラースは国勢について話し合っていた。
子ども達は初対面だった。
三人娘は猫族の子ども達に興味津々で、あっという間に打ち解けて仲良くなった。
子ども達がキャッキャと遊ぶ中、ジャウハラの隣から離れない少年がいた。
その少年は終始無言でジャウハラを見ていた。
ジャウハラは不思議そうに少年を見ていたが、害がないと悟ったのか気にしなくなった。
拒絶されなかった事にホッとした少年はジャウハラの後をついて回るようになった。
「ん?レオナルドの奴どうしたんだ?」
「あらあら」
明石は嬉しそうに笑った。
「ねぇ浮舟、もしもの話だけど」
「?」
「私達の子ども同士が結婚したら素敵だと思わない?ジャウハラちゃんがレオナルドのお嫁さんになってくれたら嬉しいわ」
子ども同士が結婚。
それはつまり、大好きな明石と正式に親戚になれる。
自分達の友情に確固たる縁が追加されるのだ。
「最高ね!」
「いやいや待って下さい!!」
イフラースは半泣きでジャウハラを腕の中に隠した。
「だ、駄目です!猫の国は遠いじゃないですか!」
イフラースは娘が生まれた瞬間に覚悟はしていた。
これほど美しい娘達だ。いずれ嫁ぎ、家から巣立つ日が必ず来る。
その日まで父として、全力で娘達を守り少しずつ心の準備を進めていく。
共にバージンロードを歩く日を泣きながらも想像していた。
・・・だが、こんなに早く縁談が来るなんて想定外だ。
他国など冗談ではない。いざという時に駆け付けられない距離は駄目だ!
「遠い国は駄目です!」
「まあまあ、そんなに遠くないと思うぞ。詳しい話は父親同士で詰めていかないとなぁ?」
ポンッと肩に手を置かれたイフラースは震えた。
レオンハルトの目は獲物を狙う肉食獣のように輝いていたからだ。
「ぜ、絶対駄目です~~!!」
イフラースは泣きながらジャウハラを抱え、城から走り去った。
想像以上の足の速さに誰も追いつけなかった。
その後、浮舟の説得で城に戻ったイフラースだが監視は続けた。
レオナルドがジャウハラに近づこうものなら娘を抱え、全力で走り去った。
幼いレオナルドもイフラースを敵認識した。
イフラースが居ない隙にジャウハラに花を贈り、手を繋いだりしていた。手を繋ぐ幼子達を見たイフラースは悲鳴を上げた。
猫の国次期国王レオナルドVS鉱山王イフラース、終わりなき戦いの始まりであった。
本当は今すぐテレビ電話を切ってしまいたかったが、微笑む明石を前にするとどうしても出来なかった。
「また今度、遊びに来て。ジャウハラ・・・会いたい」
「レオナルド君も来なよ。私待っているから!」
「う、うん」
ポッと頬を染める息子を見て明石は微笑む。
・・・あれ?自分が知らない間に色々進んでいないか??これ。
怖くなったイフラースはシチューを皿に注ぎ、気配を消して浮舟の元へ戻った。
「おかわり」
「お、お腹は大丈夫ですか・・・?」
次で五杯目だ。嬉しいがこれ以上は流石に心配だった。
「次で終わりにする。パンも欲しい」
「はい。焼いてきますね」
イフラースは家族皆に美味しい物を食べて欲しかった。
フォカッチャもお手製だ。いつも沢山焼くのに足りなくなる。
これはいよいよ業者を入れるべきかと悩んでいた。
「バターは塗っておきますね」
「うん。あ~~、疲れた」
浮舟は腕を伸ばし、首を左右に傾ける。
肩からバキバキっと恐ろしい音がした。
「後でマッサージもしますから」
「良いわよ。マッサージチェアを買ってくれたじゃない」
浮舟はご機嫌だった。
絵は納得のいく仕上がりになり、美味しいシチューで腹は満たされた。
「優しい旦那様、今日は一緒にお風呂でも入る?」
イフラースは食器が載ったトレイを落としそうになった。
「ふ、ふふ・・・お、おふろっですか!?」
「何?嫌?」
イフラースはブンブンと首を横に振った。
「じゃあ、早くおかわり持って来て。あと子ども達を寝かしつけないとね」
ふふ、と浮舟は妖しい笑みを浮かべた。
イフラースは蠱惑的な笑みから目を逸らせなかった。
「ほら、急がないと。私と過ごす時間がどんどん減っていくわよ?」
「は、はいぃ!!」
イフラースはやや駆け足でキッチンに向かう。
可愛らしい反応を返してくれる夫に浮舟は満足だ。
結婚前に交わした約束を夫は守ってくれている。
子育ても彼に任せて正解だ。
子ども達は全員、夫に似て優しい性格をしている。自分が育てていたらこうはならなかっただろう。
狂気と破壊衝動の境界線は年々遠ざかっていった。
もし目前に迫ったとしても、踏み出そうとは思わない。
「浮舟さん」
「「「お母さん!」」」
自分を呼ぶ夫と子ども達の声が聞こえた。
顔を上げると皆嬉しそうな顔で浮舟を見ている。眩しくて、愛おしい。
私は大丈夫だ。
浮舟も微笑みながら、自分を呼ぶ家族の元へ歩き出した。
おわり
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