Dawn of the Lost Sea

ユウ6109

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第17章 分かたれた鍵と燃える岬

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夜明け前の薄闇が遺構を包むころ、Harunたちは最後の準備を終えた。海に送る小包は耐水の帆布に包まれ、PhilとFerreの指示で偽装貨物に紛れ込ませられている。KadeとCelenは遺構の防衛線を固め、Rheaと代理は封印の余波を抑える詠唱を交互に唱えている。Bhelmは最小限の食糧を分配し、Mikは沿岸に張った見張り網の監視を続けた。
波は冷たく、空は鉛色の雲に覆われていた。出航の時、Harunは箱の中からさらに小さな歯車と円盤を取り出し、祭儀用の台座に置いた。Rheaは短く呪文を唱え、代理が古い符号を地に描く。小分けの儀式は機械と記憶の結びつきを一時的に緩め、断片の持つ「共鳴」を弱めるためのものだった。
「これでしばらくは安定する」Rheaが囁く。だがその声には完全な確信はなく、むしろ時間稼ぎの響きがあった。Harunは掌に触れるコインの感触を確認し、仲間たちへ最後の言葉をかけた。
「誰かに一つ、二つを託す。残る者はここを守る。もしもの時は――逃げ延びて、また会おう」
言葉は短く、しかし重かった。皆は頷き、静かに分かれていく。PhilとFerreは小舟に乗り込み、夜の入り江へと消えていった。Bhelmは港で食事を振る舞うと見せかけて補給線を整え、Mikは雑踏に紛れて情報を撒いて回る。代理は遠方の盟友へ連絡を送り、KadeとCelenは遺構に留まって防衛に当たることを選んだ。

襲来と守りの選択
だが計画が完璧に進むことはなかった。夜の半ば、黒帆の先遣が思いがけず早く現れ、Glass Atollの周縁に重い足音を落とした。偵察の段階で気配を察知したRheaはすぐさま結界を強めようとしたが、敵の数は想定を超えていた。遠く沖合には旗艦の黒い影が浮かび、空にはもう一艘、白い帆を装った船が混じっているのが見えた。
「罠を張られたか」Kadeが短く言い、剣の柄を握る手に力がこもる。Harunは箱を台座に残し、Celenと肩を並べて岩影へと立つ。防衛線は僅かだが堅く、しかし敵は執拗だった。覆面と外套の混成部隊が波を割って上陸し、Glass Atollの細い通路を封鎖していく。
戦いは激烈を極めた。Kadeの剣が一閃し、Celenが隙を突いて相手を倒す。Rheaと代理は詠唱で攻勢を支え、Bhelmは遺構の狭い通路で相手の脚を狙って転倒を誘った。Harunは箱のそばで何度も光の痕跡を感じ、胸の中でそれが仲間の傷と繋がるような恐怖を抱きながらも、一つ一つの行動を選んだ。
そのとき、甲高い笛の音が海風に乗って鳴り渡る。白帆の船が敵の側面から急接近し、そこから降り立ったのは予想外の顔ぶれだった。Terrosで会った「代理」と同様に冷静な動きを見せた者たちが白帆の甲板から降り、敵の背後を突いたのだ。戦況は一瞬にして変わり、包囲は崩れ始めた。
しかし代償は払わねばならなかった。Celenが致命傷を負い、Harunは再び彼を地面へ引きずり下ろす。Celenは血を吐き、視線をHarunに向けてかすかに笑った。「まだ……道の途中だ」
Harunは声を震わせながら包帯を当て、必死に止血を試みる。仲間の叫びと金属の音が交錯する中、彼の胸には冷たい覚悟と燃えるような怒りが同居していた。

新たな盟友と別れ
白帆の者たちの助勢で敵は撤退を余儀なくされ、Glass Atollには静かな静寂が戻った。上陸してきたのは、小規模ながら規律のある海洋民兵――商港Terrosの出自を隠さぬ者たちと、港間の連絡網を持つ旧友の小隊だった。彼らの隊長はHarunたちを見渡し、冷たい敬意を示す。
「我々は海を渡る秩序を守る。だがそのためには、時に古いルールを破らねばならない」隊長は言い、短く自己紹介した。代理は彼らと短く言葉を交わし、以前に結んだ小さな利害と信頼がここで功を奏したのだと告げられた。仲間たちは互いに疲れた笑みを交わし、しかしCelenの重体は誰の口にも出された。
CelenはHarunの腕の中で、薄く微笑んだまま息を引き取った。彼の体は静かに冷たくなり、Harunは拳を握りしめて涙をこらえた。別れはいつも突然で残酷だ。仲間の一人が道の途中で倒れるという事実は、旅の重みを一段と増す。
夜が明けると、Glass Atollには哀悼の静けさが広がった。Celenの名は小さく火の中で呼ばれ、皆はそれぞれに祈りと決意を捧げた。Harunはコインを取り出し、彼の掌にそっと置いた。コインは冷たく、しかしその冷たさはもう恐怖ではなく、約束の証となった。

新たな出発
Celenの葬送が終わると、Harunは仲間たちと共に次の行き先を定めた。Glass Atollでの小さな勝利と大きな喪失は、彼らの選択の重みを改めて示した。Rheaは古地図に残された別の候補地を指し示し、代理は同盟者を増やすための交渉を進めると告げた。Bhelmは鍋を抱え、PhilとFerreは新たな輸送計画の骨子を作り上げる。
Harunは夕暮れの海を見つめ、Celenのことを思った。彼の死は決して無駄ではない。仲間の死は、道を閉ざすのではなく、むしろ光を強くする灯火となる。彼は掌のコインを握りしめ、静かに誓った。
「もっと多くの仲間を。より強い守りを。誰もが忘れられないように」
海は静かに応え、遠くで黒帆の影が再び遠ざかる。旅はまだ続く。鍵は散り、代償は払われ、だがHarunたちの進む先には、まだ見ぬ真実が待っている。
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