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魔王討伐のパーティーは、王都で解散となった。
それでもアルヴィンは、ブラッド、シンディ、チェルシーらとパーティーを組んで冒険者として生きている。
国王から下賜された賞金は一生かかっても使い切れないほどの額だが、遊んで暮らすのは性に合わない。
ちなみにダリルは所属している騎士団に戻り、ヒューゴも故郷で狩人として生きている。ダリルは副団長になり、団長の我儘に振り回されているらしい。ヒューゴからは定期的に質のいい干し肉などがギルドを通して送られてくる。
クリスは神殿に戻っている。けれど元いた王都の中央神殿ではなく、地方の小神殿に異動した。そこで併設の孤児院の子供たちと、ゆっくり暮らしていくという。
「それにしても、なんか文面が刺々しいんだよな。あいつ、もっと礼儀正しい感じだったよな?」
近況をしらせるクリスの手紙に目を落としながら、アルヴィンは首を捻る。
久々に王都の冒険者ギルドに戻ってきたアルヴィンは、そこでヒューゴからの荷物とクリスの手紙を受け取ったのだ。
「そりゃあまあ、お前のことは気に食わないんじゃないの~?」
ギルドの中にある酒場で既にエールを傾けていたブラッドが、ニヤニヤしている。
同じテーブルでは、シンディが山盛りの肉料理を、チェルシーはパフェを口に運んでいる。
シンディは細身だが、完全なる肉食女子である。
チェルシーは大事そうにクリームを舐めながら、横目で手紙を見る。
「やっぱさぁ、仲が悪くなるって。婿と舅だよ?」
「なんだそりゃ?」
アルヴィンは思い切り渋面になった。
「俺はそんなにヘンタイじゃねぇ」
「どーだかねー?」
「チェルシー、お前……っ」
「食事中に喧嘩は止めてくださーい。フォークで刺すよ?」
睨みあうアルヴィンとチェルシーに、シンディがカトラリーを光らせる。
そこに、入り口の方から声がかけられた。
「あ、ここにいたんですか!」
「あれぇ? クリスくんじゃん」
入り口に背を向けていたアルヴィンは、ブラッドの声に振り返った。
王都にはいないはずのクリスが立っていた。
「こんなところで何して――」
アルヴィンは、小さな衝撃が腹にきて息を止める。
子供が一人、アルヴィンの腹に飛びついてきたのだ。
「アルさん~会いたかったぁ~」
子供は、五歳くらいの小さな少女だ。シンプルな巫女服を身に着け、ニコニコしながらアルヴィンの鳩尾に頭を押し付けている。
「……っ、セイラ、お前なぁ……」
アルヴィンが唸ると、クリスの目が鋭く光った。
「おや、可愛いセイラに抱き着かれるのがお嫌でしょうか? ならば一生お会いしない方がよろしいでしょうね」
「誰が嫌って言った!?」
「はあ……。セイラもどうしてこんな柄の悪い体力お馬鹿さんのことが一番気に入っているのか。本当に不可解です。神の気まぐれは本当に恐ろしい」
「クリスってば絶好調ね」
チェルシーがパフェを食べながら呆れる。そしてパフェスプーンをセイラの前でヒラヒラ動かし、子供の注意を惹く。
「セイラ、姉ちゃんとパフェ食べよっか?」
「はいっ! 食べますぅ~!」
少女の顔が輝き、アルヴィンからあっさり離れた。
チェルシーの膝に抱っこされながらパフェを食べさせてもらうセイラに、アルヴィンはやれやれと肩をすくめる。
「おいちゃ~ん、エールもう一杯ね。クリスも飲むだろ?」
「ブラッドさん、聖職者に酒を勧めないでください。葡萄酒をお願いします」
しれっと言うクリスに、アルヴィンは口を開いた。
「おい、どうしてここに来た? しかもセイラまで連れて」
「セイラの希望でしたから」
運ばれてきた葡萄酒を飲みながら、クリスはジロリとアルヴィンを睨む。
「セイラは巫女より回復術師になりたいそうです。そして冒険者ギルドに登録するそうです」
「はあ!? 何でそんなこと言い出したんだ?」
「誰のせいだと思っているんですか? 貴方のせいですよ、アルヴィン」
ギリギリと聞こえてくるのは、クリスの歯噛みの音だ。
「貴方のパーティーに入りたいんだそうです! 貴方とみんなで冒険がしたんだと駄々をこねるんですよ! 私がどんな気持ちになったか分かりますか!?」
「知らねーよ!」
「私がずっと一緒にいるのにっ! 私が育てているのにっ!」
「クリスさんが壊れた」
「あれが舅の通常運転よ、シンディ」
「パパはつらいねぇ~」
他の三人はお気楽だ。クリスに絡まれるのはアルヴィンだけだから。
やれやれとため息を落とし、アルヴィンは少女を見やる。
器としての聖女はその役目を終えた。残骸から掘り起こされたのは、小さな子供になっていた聖女の姿だった。クリスの話では、神聖魔法が注がれる前の姿と同じだという。
神聖魔法の器としての聖女の機能が失われたために、肉体の時が戻ったのかもしれない。幸いなことに、少女を地中から助け出しても、神聖魔法は消えなかった。器である聖女とのつながりが、完全に断ち切れたからかもしれない。
そして《春華の大陸》に戻った時に意識を取り戻した少女は、記憶を失っていた。
記憶がないくせに、パーティーのメンバーには最初から懐いていた。特にアルヴィンがお気に入りのようで、王都に戻る間中ずっと彼にはりついていたのだった。
小さな小さな少女の姿は、アルヴィンには違和感しかない。けれど少女から感じる香りは、聖女と同じだった。
アルヴィンはため息をつき、少女を抱え上げる。首に回される細い手がくすぐったい。
少女に名前が付けられた。
セイラでいいんじゃないか? と呟いたアルヴィンの案が採用された。
パフェを食べながらセイラは明るい笑い声を上げる。スプーンを手にして、アルヴィンに「あーんですぅ」と差し出してきて、チェルシーに叱られている。
もう聖女はいない。
それでもアルヴィンは、ブラッド、シンディ、チェルシーらとパーティーを組んで冒険者として生きている。
国王から下賜された賞金は一生かかっても使い切れないほどの額だが、遊んで暮らすのは性に合わない。
ちなみにダリルは所属している騎士団に戻り、ヒューゴも故郷で狩人として生きている。ダリルは副団長になり、団長の我儘に振り回されているらしい。ヒューゴからは定期的に質のいい干し肉などがギルドを通して送られてくる。
クリスは神殿に戻っている。けれど元いた王都の中央神殿ではなく、地方の小神殿に異動した。そこで併設の孤児院の子供たちと、ゆっくり暮らしていくという。
「それにしても、なんか文面が刺々しいんだよな。あいつ、もっと礼儀正しい感じだったよな?」
近況をしらせるクリスの手紙に目を落としながら、アルヴィンは首を捻る。
久々に王都の冒険者ギルドに戻ってきたアルヴィンは、そこでヒューゴからの荷物とクリスの手紙を受け取ったのだ。
「そりゃあまあ、お前のことは気に食わないんじゃないの~?」
ギルドの中にある酒場で既にエールを傾けていたブラッドが、ニヤニヤしている。
同じテーブルでは、シンディが山盛りの肉料理を、チェルシーはパフェを口に運んでいる。
シンディは細身だが、完全なる肉食女子である。
チェルシーは大事そうにクリームを舐めながら、横目で手紙を見る。
「やっぱさぁ、仲が悪くなるって。婿と舅だよ?」
「なんだそりゃ?」
アルヴィンは思い切り渋面になった。
「俺はそんなにヘンタイじゃねぇ」
「どーだかねー?」
「チェルシー、お前……っ」
「食事中に喧嘩は止めてくださーい。フォークで刺すよ?」
睨みあうアルヴィンとチェルシーに、シンディがカトラリーを光らせる。
そこに、入り口の方から声がかけられた。
「あ、ここにいたんですか!」
「あれぇ? クリスくんじゃん」
入り口に背を向けていたアルヴィンは、ブラッドの声に振り返った。
王都にはいないはずのクリスが立っていた。
「こんなところで何して――」
アルヴィンは、小さな衝撃が腹にきて息を止める。
子供が一人、アルヴィンの腹に飛びついてきたのだ。
「アルさん~会いたかったぁ~」
子供は、五歳くらいの小さな少女だ。シンプルな巫女服を身に着け、ニコニコしながらアルヴィンの鳩尾に頭を押し付けている。
「……っ、セイラ、お前なぁ……」
アルヴィンが唸ると、クリスの目が鋭く光った。
「おや、可愛いセイラに抱き着かれるのがお嫌でしょうか? ならば一生お会いしない方がよろしいでしょうね」
「誰が嫌って言った!?」
「はあ……。セイラもどうしてこんな柄の悪い体力お馬鹿さんのことが一番気に入っているのか。本当に不可解です。神の気まぐれは本当に恐ろしい」
「クリスってば絶好調ね」
チェルシーがパフェを食べながら呆れる。そしてパフェスプーンをセイラの前でヒラヒラ動かし、子供の注意を惹く。
「セイラ、姉ちゃんとパフェ食べよっか?」
「はいっ! 食べますぅ~!」
少女の顔が輝き、アルヴィンからあっさり離れた。
チェルシーの膝に抱っこされながらパフェを食べさせてもらうセイラに、アルヴィンはやれやれと肩をすくめる。
「おいちゃ~ん、エールもう一杯ね。クリスも飲むだろ?」
「ブラッドさん、聖職者に酒を勧めないでください。葡萄酒をお願いします」
しれっと言うクリスに、アルヴィンは口を開いた。
「おい、どうしてここに来た? しかもセイラまで連れて」
「セイラの希望でしたから」
運ばれてきた葡萄酒を飲みながら、クリスはジロリとアルヴィンを睨む。
「セイラは巫女より回復術師になりたいそうです。そして冒険者ギルドに登録するそうです」
「はあ!? 何でそんなこと言い出したんだ?」
「誰のせいだと思っているんですか? 貴方のせいですよ、アルヴィン」
ギリギリと聞こえてくるのは、クリスの歯噛みの音だ。
「貴方のパーティーに入りたいんだそうです! 貴方とみんなで冒険がしたんだと駄々をこねるんですよ! 私がどんな気持ちになったか分かりますか!?」
「知らねーよ!」
「私がずっと一緒にいるのにっ! 私が育てているのにっ!」
「クリスさんが壊れた」
「あれが舅の通常運転よ、シンディ」
「パパはつらいねぇ~」
他の三人はお気楽だ。クリスに絡まれるのはアルヴィンだけだから。
やれやれとため息を落とし、アルヴィンは少女を見やる。
器としての聖女はその役目を終えた。残骸から掘り起こされたのは、小さな子供になっていた聖女の姿だった。クリスの話では、神聖魔法が注がれる前の姿と同じだという。
神聖魔法の器としての聖女の機能が失われたために、肉体の時が戻ったのかもしれない。幸いなことに、少女を地中から助け出しても、神聖魔法は消えなかった。器である聖女とのつながりが、完全に断ち切れたからかもしれない。
そして《春華の大陸》に戻った時に意識を取り戻した少女は、記憶を失っていた。
記憶がないくせに、パーティーのメンバーには最初から懐いていた。特にアルヴィンがお気に入りのようで、王都に戻る間中ずっと彼にはりついていたのだった。
小さな小さな少女の姿は、アルヴィンには違和感しかない。けれど少女から感じる香りは、聖女と同じだった。
アルヴィンはため息をつき、少女を抱え上げる。首に回される細い手がくすぐったい。
少女に名前が付けられた。
セイラでいいんじゃないか? と呟いたアルヴィンの案が採用された。
パフェを食べながらセイラは明るい笑い声を上げる。スプーンを手にして、アルヴィンに「あーんですぅ」と差し出してきて、チェルシーに叱られている。
もう聖女はいない。
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