春告竜と二度目の私

こもろう

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二度目の世界

あなたのことなんて知らない

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 王都に着いたのは夜半の頃だった。
 私たちは散々揺らされて、もうぐったりだ。あんまりガタガタ揺れるから、微睡むことすら出来なかった。
 馬車から引き摺り降ろされて、そのままどこかに連れて行かれる。照明もろくにない場所のせいで、ここがどこなのか見当もつかない。

「大丈夫か、カサンドル?」

「外の空気が吸えて気分が良くなったわ。え? ちょっとキーリ! こめかみから血が出ているじゃない!」

「揺れた時にぶつけたんだな。もう止まったから平気だ」

「静かにしろ!」

「キーリが怪我しているの! 手当てくらいしてよ!」

 隊長が怒鳴ってきたから、つい怒鳴り返してしまった。隊長は舌打ちしつつもキーリの傷を診てくれた。とても雑なやり方だったけれど。

「取り調べは明日からだ」

 そう言われ、牢に押し込まれた。キーリと別々になって焦ったけれど、隣同士だったのだけは良かった。

「声、聞こえる?」

「ああ、ばっちり。雨露しのげるから森での野宿よりマシだよな」

「あっちはいい匂いがするし、動物たちが守ってくれそうだわ」

「せっかくフォローしようとしたのにひっくり返すなよ」

「ふふっ、ごめんなさい」

 冷たい石の壁越しに、私たちは笑い合う。こういう時には虚勢も大事だ。

 環境は不快だし不安だけれど、とりあえず体力がないと取り調べとやらで虐められても対抗出来ない。だから私たちは、さっさと寝ることにした。

「あら、今なにかが光った?」

「気のせいだろ。寝ろって」






 翌朝、牢から出されて連れていかれた先は、警備兵の詰所の取調室などではなくて王宮の一室だった。
 室内はソファーと机が一つあるだけの殺風景な部屋だったけれど、清潔で明るい。

 兵士たちに睨まれながら取り調べをするという人物を待っていたら、なんとレオン殿下が入室してきた。

「思ったより早かったな。ご苦労だった隊長」

「畏れいります」

 殿下は鷹揚に隊長たちをねぎらっている。

 なんでこの人が!?
 そうは思ったけれど、考えてみればここは王宮。最初から彼の指示だったのだろう。
 胸がムカムカする。

「……畏れながら、発言させてください。何故キーリは、彼は連行されなければならなかったのですか?」

 少し声が震えてしまった。でもキーリをこんなめに合わせたことは、ハッキリさせたい。

「その男は、我が婚約者を暴行。負傷させた」

 ……どうして?

「マリー嬢は未来の王妃である。その高貴な身を損なう行い、断じて許しがたい」

 どうして?
 自分の婚約者に怪我を負わせたと言いながら、殿下は他人事のように薄ら笑いを浮かべている。
 わざわざ自分の私兵を動かすくらいなら、もっと怒っているはずではないの?

 殿下は薄く笑いながら、私の方を見ている。
 キーリのことを断罪しているのに興味もないみたいだ。
 それなのに、兵士に命じてキーリを拘束して、強引に裁こうとするなんて。

 いいえ。殿下の考えていることなんて、私なんかが分かる訳がない。
 だって私が婚約者だった前回でさえ、ちっとも分からなかった。
 だから、ずっと会ってさえいなかった今回は、もっと分からない。
 でも、それが何なの?

 そうだ。
 彼の考えなんて知ったことではない。

 どうして?
 どうだっていい。

 私は大きく深呼吸して、両手をきつく握る。
 こっちを見る殿下の視線の意味が不明過ぎて恐ろしいけれど、顔を上げて受け止める。

「……申し上げます。愛するマリーが怪我をしたと聞いて動揺されるのはもっともです。でも、場所はブットヴィル領地内。しかも侯爵邸。裁判はブットヴィル侯爵が行うべきことで、殿下が勝手にやることではないはずです。それを無視して進めるならば、それはただの私刑です」

 次期国王が自ら法を破っていいものか。
 愛する婚約者と言いながら、マリーを実家に帰したまま。彼女を案じる素振りすら見せないくせに。

「問題の現場には私もおりました。ですから、事の顛末も見ております。マリー・ブットヴィルは殿下のお心が自分から離れていると叫び、私に殴りかかりました。それをキーリが阻止すると、風魔法で斬りつけてきました。キーリが木魔法でマリーを気絶させなかったら、彼女は周囲の人間も何もかも切り裂いたことでしょう。だからブットヴィル侯爵は娘が倒れてもキーリを罰することをしませんでした」

 殿下はキーリを裁くより、彼に感謝すべきだ。
 お父様だってキーリに迷惑をかけたと頭を下げた。娘が誰かを傷つける前に止めてくれて有難うと言った。
 多少荒っぽかったけれど、別に骨が折れたとかそういうわけでもないのだ。

 私の物言いに、殿下は顔を歪めた。
 美しい銀細工のような端正なお姿だけれど、それだけだ。
 その中身は、権力と王宮内の汚い所を煮詰めたような醜悪な何かだ。

 それでも、仮にも王子なのだ。為政者としての教育を受けている。
 ならば政治家として真っ当な感覚があるはずだ。
 その一点を望みにして、私は殿下の判断を待つ。

「……マリー嬢には、苛酷な妃教育を押し付けたことをすまないと思う」

 ポツリと殿下が言った。

「彼女との婚約は撤回しよう。領地で療養してもらい、改めて社交界にデビュー出来るよう、王家も手配をしよう」

「では、キーリは……」

「その者の罪は問わないこととする。我が元婚約者を止めたことを感謝しよう」

「有難うございます!」

 良かった。意外にも殿下はあっさりと手を引いてくださった。
 私は、やや後方に立つキーリに駆け寄ろうとした。
 けれど殿下の声が私の足を床に縫い付ける。

「マリー嬢の代わりに、貴女が婚約者になるのだ。妹のしでかした事、姉が償え」

 ……本当に殿下のことが分からない。



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