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14.聖女聖女とうるさいわ
《聖女の真実軍》が女神の旗を掲げて、北門付近の市議会と商工会議所を早速制圧した。
「あの先頭にいるのは第一王子だよな?」
さして大きな戦闘はないが、市民は巻き込まれるのを恐れて他の建物内に避難し、窓を薄く開けた隙間から戦々恐々と軍隊の様子を覗っている。
「幽閉されていたっていうけど、やっぱりあのお方は前線に立つと生き生きするなぁ」
「変な女に騙されていたんだっけか? あの隣の女性は誰だ? 綺麗な貴族の姫さんみたいだけど……」
旗を掲げる騎士や侍従役の見習い騎士に囲まれたセフェリノは、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。
「楽士や吟遊詩人、弁士など片端から連れてこい。あと! 神官どももだ!」
騎士団の一部を乗っ取ったセフェリノは、わざわざ《聖女の真実軍》など名乗った真意を大いに宣伝するつもりだ。
《瘴気》が発生している。しかし現王家はそれを隠蔽し、国民に注意を促すどころかこっそりと異世界から聖女を召喚した。
つまり、王家は国民を守るどころか自分たちだけ助かろうとしているのだ。
だからやむなく自分たちは立ち上がった。国民を助け、聖女を守るために。
そういう宣伝だ。
あながち嘘ではない。だから騎士団の一部も動いた。セフェリノの言葉に真実を感じ取ったから。ただ第一王子が自分に従って第二王子たちと戦えとだけ訴えたのなら、元団長とはいっても騎士たちは従わなかっただろう。
キビキビ動く騎士たちを見ながら、セフェリノは満足げに頷いた。
あのいけ好かない自称付き人という男の言う通りだった。
幽閉先にニヤニヤしながら現れ、変な魔術を使って散々自分のことを馬鹿にしてきた不遜過ぎる輩。
斬り捨ててやりたかったが、それ以上にそいつが持ってきた情報の価値が高かった。
自分が閉じ込められている間に、父王と弟が聖女を召喚して、自分たちのいいように事を運ぼうとしているとは。
あいつらならやるだろう。セフェリノは思ったが、エリックと名乗ったそいつの言葉を鵜呑みにも出来ない。
疑って怒鳴りつけてやったら、エリックは『あんたみたいな脳筋な奴がいない方が事をスムーズに運べるって考えたに決まってるじゃん』と鼻で笑いやがった。殴りたかった。
散々馬鹿にしたことをほざいて、エリックは姿を消した。魔法陣はセフェリノも通れるように改変されていた。
助かったが、今度会ったら殴り殺す。かたく心に誓うセフェリノだった。
「殿下」
神殿からの使者の相手をしていた女性が戻ってきた。
煌めく銀髪の美しい令嬢だ。物々しい騎士たちとは違って鮮やかな青いドレス姿だが、堂々たる立ち振る舞いで周りの男たちを圧倒している。
彼女の名前はカルディナ・ベルトラン。ベルトラン公爵の息女であり、セフェリノの元婚約者だ。
アンヘラという女にあっさりと誑かされたセフェリノに、一方的に婚約を破棄された彼女はしばらく公の場に姿を現さなかった。しかしセフェリノが幽閉先から脱出したのと前後して、この騎士団の駐屯地にやってきた。そしてセフェリノと合流したのであった。
騎士団がセフェリノの指揮下に入ったのは、カルディナが働きかけたという側面もあったのだ。
自分を裏切って捨てたセフェリノを、どうしてカルディナは手助けしたのか。父親である公爵は、セフェリノのことを殺害する気満々なのに。
「王宮で偶然、聖女様にお会いしましたの」
父親の公爵と共に登城した時に、ついでだからと侍女として行儀見習いをしている知り合いの令嬢に会いに行った。知り合いは奥宮の方で勤務していたため、普段はなかなか近づかない所まで行き……何故か噴水の陰から四つん這い状態で出てきた聖女様と目が合ったのだという。
栗色の髪をふわふわ揺らしながら、聖女様は「ナイショね?」と愛らしく笑っていた。周囲こら聖女らしくないと叱られてしまうのだと言っていた。
「そして聖女様はおっしゃっていました。自分の心を偽ってはいけないと。後で苦しい思いをしてしまうから。だから時には自分の心のおもむくままに動くことは大事なのだと……」
聖女にそう言われたカルディナは、目の前の霧が晴れた思いになった。
セフェリノに傷つけられたけれど、彼を憎んではいない。むしろ、彼を愛しているのだと確信したからだ。
「だから私は、殿下についていくと決め、行動を起こしたのです」
曇りのないカルディナの笑顔が眩しい。そのあまりに真っ直ぐな眼差しに、さすがのセフェリノも後ろめたさを感じるのだった。
セフェリノはゴホンと咳払いした。
「それで、神殿の使者は何を言ってきたのだ?」
「神殿側は我々を支持するそうです。こちらの動きと連動して、街頭で説教をするのだとか」
セフェリノはニヤリとした。
「よし、これで民衆の支持が集まりやすくなったな。この勢いのまま進軍するぞ」
「かしこまりました。私もお供いたします」
「いや……。君は残った方がいい。危ないからな」
珍しく気遣う様子を見せたセフェリノだったが、カルディナはキッパリと首を横に振った。
「いいえ。もう殿下から離れるつもりはありません」
「そ、そうか」
少したじろいだセフェリノだったが、正直カルディナの申し出は有難い。ベルトラン公爵からの攻撃の抑止力になるだろうという計算からだ。
今まで不遇をかこっていた。しかし、これからは違う。
このチャンスをものにして、生意気な弟のアルトゥロを追い落とす。ついでに父王を玉座から引きずり下ろす。新たな国王の誕生だ。
カルディナは正妃にしてやろう。そして神殿側から聖女を奪還出来たら、側妃にしてやってもいい。異世界人というが、なかなかの美形だという噂を聞いている。
己の輝かしい未来を思い、セフェリノは傍らに立つカルディナに微笑みかけた。
「よし。では王宮に向けて進軍の準備をする!」
女神の旗が風を受けて翻る。
聖女を黙って利用しようとしていた国王たちと戦うために、《聖女の真実軍》は立ち上がるのだ!
「聖女様をお守りするぞ!!」
「「「おおー!!!」」」
……残念ながら、この時がセフェリノの絶頂期となるのだった。
「あの先頭にいるのは第一王子だよな?」
さして大きな戦闘はないが、市民は巻き込まれるのを恐れて他の建物内に避難し、窓を薄く開けた隙間から戦々恐々と軍隊の様子を覗っている。
「幽閉されていたっていうけど、やっぱりあのお方は前線に立つと生き生きするなぁ」
「変な女に騙されていたんだっけか? あの隣の女性は誰だ? 綺麗な貴族の姫さんみたいだけど……」
旗を掲げる騎士や侍従役の見習い騎士に囲まれたセフェリノは、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。
「楽士や吟遊詩人、弁士など片端から連れてこい。あと! 神官どももだ!」
騎士団の一部を乗っ取ったセフェリノは、わざわざ《聖女の真実軍》など名乗った真意を大いに宣伝するつもりだ。
《瘴気》が発生している。しかし現王家はそれを隠蔽し、国民に注意を促すどころかこっそりと異世界から聖女を召喚した。
つまり、王家は国民を守るどころか自分たちだけ助かろうとしているのだ。
だからやむなく自分たちは立ち上がった。国民を助け、聖女を守るために。
そういう宣伝だ。
あながち嘘ではない。だから騎士団の一部も動いた。セフェリノの言葉に真実を感じ取ったから。ただ第一王子が自分に従って第二王子たちと戦えとだけ訴えたのなら、元団長とはいっても騎士たちは従わなかっただろう。
キビキビ動く騎士たちを見ながら、セフェリノは満足げに頷いた。
あのいけ好かない自称付き人という男の言う通りだった。
幽閉先にニヤニヤしながら現れ、変な魔術を使って散々自分のことを馬鹿にしてきた不遜過ぎる輩。
斬り捨ててやりたかったが、それ以上にそいつが持ってきた情報の価値が高かった。
自分が閉じ込められている間に、父王と弟が聖女を召喚して、自分たちのいいように事を運ぼうとしているとは。
あいつらならやるだろう。セフェリノは思ったが、エリックと名乗ったそいつの言葉を鵜呑みにも出来ない。
疑って怒鳴りつけてやったら、エリックは『あんたみたいな脳筋な奴がいない方が事をスムーズに運べるって考えたに決まってるじゃん』と鼻で笑いやがった。殴りたかった。
散々馬鹿にしたことをほざいて、エリックは姿を消した。魔法陣はセフェリノも通れるように改変されていた。
助かったが、今度会ったら殴り殺す。かたく心に誓うセフェリノだった。
「殿下」
神殿からの使者の相手をしていた女性が戻ってきた。
煌めく銀髪の美しい令嬢だ。物々しい騎士たちとは違って鮮やかな青いドレス姿だが、堂々たる立ち振る舞いで周りの男たちを圧倒している。
彼女の名前はカルディナ・ベルトラン。ベルトラン公爵の息女であり、セフェリノの元婚約者だ。
アンヘラという女にあっさりと誑かされたセフェリノに、一方的に婚約を破棄された彼女はしばらく公の場に姿を現さなかった。しかしセフェリノが幽閉先から脱出したのと前後して、この騎士団の駐屯地にやってきた。そしてセフェリノと合流したのであった。
騎士団がセフェリノの指揮下に入ったのは、カルディナが働きかけたという側面もあったのだ。
自分を裏切って捨てたセフェリノを、どうしてカルディナは手助けしたのか。父親である公爵は、セフェリノのことを殺害する気満々なのに。
「王宮で偶然、聖女様にお会いしましたの」
父親の公爵と共に登城した時に、ついでだからと侍女として行儀見習いをしている知り合いの令嬢に会いに行った。知り合いは奥宮の方で勤務していたため、普段はなかなか近づかない所まで行き……何故か噴水の陰から四つん這い状態で出てきた聖女様と目が合ったのだという。
栗色の髪をふわふわ揺らしながら、聖女様は「ナイショね?」と愛らしく笑っていた。周囲こら聖女らしくないと叱られてしまうのだと言っていた。
「そして聖女様はおっしゃっていました。自分の心を偽ってはいけないと。後で苦しい思いをしてしまうから。だから時には自分の心のおもむくままに動くことは大事なのだと……」
聖女にそう言われたカルディナは、目の前の霧が晴れた思いになった。
セフェリノに傷つけられたけれど、彼を憎んではいない。むしろ、彼を愛しているのだと確信したからだ。
「だから私は、殿下についていくと決め、行動を起こしたのです」
曇りのないカルディナの笑顔が眩しい。そのあまりに真っ直ぐな眼差しに、さすがのセフェリノも後ろめたさを感じるのだった。
セフェリノはゴホンと咳払いした。
「それで、神殿の使者は何を言ってきたのだ?」
「神殿側は我々を支持するそうです。こちらの動きと連動して、街頭で説教をするのだとか」
セフェリノはニヤリとした。
「よし、これで民衆の支持が集まりやすくなったな。この勢いのまま進軍するぞ」
「かしこまりました。私もお供いたします」
「いや……。君は残った方がいい。危ないからな」
珍しく気遣う様子を見せたセフェリノだったが、カルディナはキッパリと首を横に振った。
「いいえ。もう殿下から離れるつもりはありません」
「そ、そうか」
少したじろいだセフェリノだったが、正直カルディナの申し出は有難い。ベルトラン公爵からの攻撃の抑止力になるだろうという計算からだ。
今まで不遇をかこっていた。しかし、これからは違う。
このチャンスをものにして、生意気な弟のアルトゥロを追い落とす。ついでに父王を玉座から引きずり下ろす。新たな国王の誕生だ。
カルディナは正妃にしてやろう。そして神殿側から聖女を奪還出来たら、側妃にしてやってもいい。異世界人というが、なかなかの美形だという噂を聞いている。
己の輝かしい未来を思い、セフェリノは傍らに立つカルディナに微笑みかけた。
「よし。では王宮に向けて進軍の準備をする!」
女神の旗が風を受けて翻る。
聖女を黙って利用しようとしていた国王たちと戦うために、《聖女の真実軍》は立ち上がるのだ!
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……残念ながら、この時がセフェリノの絶頂期となるのだった。
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