あなたに何されたって驚かない

こもろう

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 これには、さすがの私もハッとなった。後ろに控える侍女も息をのんだのを感じる。彼の顔を窺うと、ブレンダンは申し訳なさそうに目を伏せた。

「どうしてですか?」

「愛する人を見つけたんだ。その人と一緒になりたいと思っているんだ」

「……そうですか。破棄、承ります」

 私は立ち上がった。

「待てよ!」

 侍女と一緒に去ろうとした時だった。ブレンダンが手首をつかんできた。

「痛いです。離してください」

「いきなり帰ろうとするから、つい掴んでしまったんだ」

 こんな時でも、この人は私に謝ろうとしないのね。

「いきなりも何も、話は終わりましたよね?」

「いや、本題はこれからだよ。――サラ、結婚しよう」

「は?」

「愛する人を見つけた……それは、君なんだ」

 芝居がかった声でブレンダンが言う。すると、店内にいた男たちが一斉に立ち上がった。

「おめでとう、我らが放蕩息子!」

「年貢の納め時だな!」

「結婚式には呼んでくれよ!」

 パチパチパチパチと、店内に拍手は響き渡る。
 その音をバックに、ブレンダンはポケットから指輪を取り出す。

「結婚してくれ、サラ」

 おおーっと男たちが声を上げ、ピーピーと口笛を吹く者もいる。まるで場末の酒場のような騒ぎになった。
 私は大きく嘆息する。

「お断り、します」

 掴まれたままの手首から彼の手を振り払い、私はフンと鼻先で笑う。

「婚約は破棄。私はそれを承りましたので」

「あれは違う! ただの前振りだ!」

「前振りで家同士の婚約を破棄するなんて、本当に貴族ですか貴方は?」

「本気じゃなかった! 撤回する! ……いや、破棄なんて言っていないぞ俺は!」

「いえ、言っております」

 侍女が口を挟んだ。
 ブレンダンが彼女を凄い目で睨みつける。

「無礼者。召使は控えていろ」

「いいえ、控えません。私はサラの友人ですの。今日は侍女の振りをしていただけですわ」

 そうです。彼女は私の友人であるクリスティーネ伯爵令嬢。私のことが心配だと、半ば強引についてきてくださった、強くて優しい方。
 燃えるような眼差しを、クリスティーネ様はブレンダンに向ける。

「背後にいる私でさえもはっきりと聞き取りました。そしてサラ様はしっかりと了承しました。まぎれもない事実ですわ」

「クリスティーネ様を非難しないでください。私のことを心配してくださったのですから。それに、どんな理由があったとしても私は貴方と結婚なんてしませんわ」

 私は周囲の男性たちを見回した。
 この店内に入った瞬間から、気づいていたわ。見知った顔があったから。
 たとえばあの窓際の男性。あの人は以前、ブレンダンと一緒になってさんざん私を貶めた発言をされていた人。夜会の真っ最中だったから、他の方から随分注目されてしまったことを胸の痛みと共に覚えている。

「それに私は知ってます。ブレンダン様の愛人のことを。リンダさんでしたね。とある侯爵の後妻だとか。先日も我が家に来られなかったのは、リンダさんの所にお泊りになっていたからですよね?」

 それでもブレンダンが私に求婚してきたのは、きっと私の持参金目当てでしょうね。カモローノ伯爵家の財産事情、私の耳にまで届いています。

「もう、うんざりでしたの」

 自分でも驚くくらい冷たい声が出た。ぶたれたように、ブレンダンが目を見開く。
 かつては私も、この顔に見惚れたこともある。でも、もうそれは昔のこと。
 間抜けな顔をして立ち尽くす周囲の男たちの有様に、私の心はますます冷えていく。
 こんな小細工をして私を驚かせて、いいように扱おうと思ったのでしょう。
 でも、私は驚かない。今更、ブレンダンのすることに驚いたり翻弄されたりすることはないのだ。

「では、ごきげんよう。カモローノ様」

「待って! 待ってくれ! 俺は本当にっ!」

 突然、ブレンダンが膝を折った。店の床に膝をつき、深々と頭を下げて懇願し始めたのだ。
 周囲の男たちがどよめく。

「愛してるんだ! 恥ずかしくて言えなかっただけだ! だから!」

「だから? 愛人がいても、自分の友人に貶められても、我慢しろと? あんまり舐めないでくださいませ!!」

 クリスティーネ様が肘に触れてきた。それを合図に、私は走り出した。
 淑女らしさなんて知ったことじゃないわ!
 悪友たちを蹴散らすように走る私に、ブレンダンは呆気にとられたようだ。
 こんなこともあろうかと、いつものような窮屈な服ではなくて動きやすいものにしたのよ。驚いたでしょ?
 わたしとクリスティーネ様は、走りながら笑った。



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感想 7

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みんなの感想(7件)

dragon.9
2021.01.07 dragon.9

面白い!
続きとゆうか、ざまぁwwwwされるとこが読みたいです

2021.01.07 こもろう

感想有難うございます\(๑╹◡╹๑)ノ♬
ざまあ(・∀・)!のつもりで書いたものでしたが、確かにざまあ未満でしたね……(;^ω^)

解除
こすや
2020.10.04 こすや

短すぎる‼️ もっと 読み進めたい!
面白かった!

2020.10.04 こもろう

感想有難うございます\(๑╹◡╹๑)ノ♬
どうやら私はあまり長い話が書けないみたいです(;^ω^)

解除
しーにゃん
2020.09.26 しーにゃん

私の読み違いかな? 今考えるとあってるのかな?申し訳ありませんでした😔

2020.09.26 こもろう

いえいえ、ご丁寧に有難うございます\(๑╹◡╹๑)ノ♬
まだまだ拙いので、もっと上手い言い回しを覚えたいと思っています。有難うございました!

解除

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