神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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09 逆恨み

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 みなさんこんにちは。ヒナタです。

 気持ち悪いおっさんに絡まれました。

「おい! 聞いてんのかよ!」
「聞こえてるけど、なに? 酒臭いから話しかけないで欲しんだけど」

 このおっさん朝っぱらから酒飲んで暇なのかよ。信じられないな、しかも肩を急に掴んできやがった。
 女性にその態度はまずいんじゃないの。
 面倒なので冷たい態度で適当にあしらっていると……。

「生意気な小娘だな。俺が指導してやろうか。なに、それが終わったら夜もしっかり指導してやるから安心しな」

 本当に気持ち悪いな。
 こんなに顔近づけきて、いやらしい目つきで言われてもキュンとこないよ。
 かわいい女の子だったら嬉しんだけどね。
 まともに対応しても面倒だから、挑発に乗ってあげるか。

「それは、嬉しいね。先輩冒険者の指導を受けられるなんて光栄だわ」
「おぉ、言うねぇ。なら裏手に訓練場があるからそこでみっちり指導してやるよ。力加減を間違えて動けなくなってもちゃんと介抱してやるからよ」

「そんな私闘は認めていませんよ!」

 セレナが私とおっさんの間に入ってきた。

「あ? この嬢ちゃんに冒険者としての心構えを指導するだけだぞ。それの何が悪いんだ」
「今の会話を聞いていましたが、とても指導するとは思えません!」

 セレナはどうしてもこの指導を止めたいみたいだ。
 なんか、私を心配そうにこちらを見ている。
 あ、私を心配しての配慮なのかな。
 でも、私も負けるつもりないしね。

「大丈夫だよセレナさん。先輩冒険者に指導を賜われるなんて機会、そんなになさそうだしね」

 私はセレナに向かってウインクをする。そんなに心配しないで、という合図だよ。

「だってよ、姉ちゃん。これなら文句ねぇだろ?」
「わかりました、ですが、私も同行します」
 
 セレナは本当に優しい人だ。
 こういう冒険者同士の争いには不干渉とか言ってたのに……。

 それよりもこのおっさん、自分が勝つ未来しか見えてないみたいだな。
 背中に大剣を背負っているから、力任せの剣術だろう。
 空気弾エアショットで気絶させてやれば十分だ。
 おっさんに連れられて、訓練場にやってくる。
 なんか何人かの冒険者がニヤニヤしながら付いてきてるんだけど。
 お前らも暇なのか。

「ルールは戦闘不能になることまたは、敗北を宣言すること、でどうだ?」
「それでいいよ。ならセレナさん、開始の合図をお願い」

 訓練場では、もともと訓練していた冒険者も動きを止めこちらを見ている。

「では、はじめ!」

 開始早々、おっさんは大剣を大きく振りかぶり私に向かってきた。
 そんな振りかぶったら隙だらけじゃん。舐めてんの。

「エアショット」

 気絶する程度に魔力を込めておっさんの頭めがけて空気弾エアショットを打ち込む。

「っが!」

 おっさんが気絶している。
 セレナ含めて周りは何が起きたかわからず、呆然としていた。
 そりゃそうだよね。空気弾エアショットは目に見えないんだから。

「私の勝ちね。これ以上構ってくるのはやめてちょうだい。もしまた私に手を出したらあの倒れているおっさんよりひどい目に遭うことになるよ」

 戦闘を見ていた冒険者に威圧スキルを発動し、少しだけ脅しておく。何人かは怯えて尻餅をついていた。
 これ以上、ここにいると面倒なことになりそうだから、セレナにお礼を言い、そそくさと訓練場から退場してギルドから出た。
 
 
 さて、ギルドカードも作れたし、次は鍛冶屋に行くか。
 そう、私は、魔法しか使っていなかったため武器を持っていなかったのだ。
 せっかく異世界にいるんだから剣を持つとか男の醍醐味だろ! あ、女だったか……。

「いらっしゃいませ!」

 小さな女の子が出迎えてくれた。ドワーフだな。
 容姿じゃ年齢は分からないけど、聞くのもはばかられる。

「短剣を探しにきたんですけど」

 そう、私は短剣が欲しかった。
 基本の戦闘スタイルは魔法のため、近接戦になった場合に備えて剣は必要だが、身体が女性のため筋肉がない。
 逆に剣に振り回されそうなので、短剣がちょうどいいと判断した。

「短剣でしたらこちらですね」

 女性が指を差した棚に短剣が綺麗に並べられていた。
 違いが分からないけど、剣術の心得もないから武器だけいいものを選んでも、持て余してしまう。
 軽くて、握りやすく、それなりの切れ味があれば大丈夫かな。
 並べられていた短剣を一通り確認して、銀貨25枚で購入した。
 ついでに防具も売っていたので、胸当ても合わせて買った。
 早速、短剣は腰のあたりに装備し、胸当ても装着した。
 うん、冒険者っぽくなったね。

 その後は、雑貨屋さんに行った。
 さっきセレナから聞いた通り、無限収納を偽装するためのアイテム袋を買うためだ。
 とは言っても、本物を買う必要もないので腰にかけられるようなウエストポーチが欲しい。
 雑貨屋を見ていると、ちょうど良いものを見つけた。
 黒色のウエストポーチで革製だ。丈夫なものがいいよね。

 さて、今は昼時だが今のうちに宿を取っておこう。
 実はセレナに女性が安心して泊まれる宿を紹介してもらっていたのだ。私、できる女だからね。

「えーと。白蘭亭は……」

 私は、セレナからもらった地図を頼りに宿に向かっていた。

「あ! あそこだ!」

 辿り着いた宿は5階建ての白を基調とした綺麗な外装だった。
 そして何より隣が衛兵の詰所だった。これは、安心だね。
 私は白蘭亭の扉を開ける。
 すると、8歳くらいで茶髪の女の子が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ!」

 あー、かわいい……。
 ロリコンじゃないけどなんか母性をくすぐられるね。
 女になってからというもの、精神も女性に近づいている気がするけど、まだ恋愛対象は女性だ。
 ここだけは譲ってはならない。

「私はこの宿屋の娘のトリスっていいます!」
「私はヒナタよ、よろしくね。宿に泊まりたいんだけど、空いているかな?」
「大丈夫ですよ!食事は朝夕の2回で1泊銀貨3枚です!」
「そう、とりあえず1ヶ月お願いできる?」
「銀貨90枚ですね!前払いにしますか?」
「そうね、前払いで出しておくね」

 ポケットから出すように見せて無限収納から金貨1枚を取り出し、お釣りをもらう。
 この世界は1ヶ月が30日で12ヶ月ある。つまり1年が360日なのだ。
 昨日、サーシャから教えてもらったんだよ。ちゃんと寝る前にも情報は集めていたんだよ。
 よし、宿は取れたから昼食でも食べてこようかな。
 そろそろ、本格的に通貨価値を分かっておきたいし……。
 
 私は並んでいる屋台で串焼きやらホットドックを買い、食べながら商店街を歩いていた。
 店の外まで木箱に詰めた野菜や果物を置いているお店が多い。
 これを見ると、田舎の八百屋さんを思い出すな。
 スーパーセールとかで格安になったもやしを買いに行っていたな……母さんが。
 それよりも置かれている野菜の値段を確認してみる。
 ……あの、りんごは1個銅貨2枚、あそこにある牛肉は500g銀貨1枚と銅貨3枚か。
 うんうん。なんとなく分かってきた。

 日本円に換算すると、
 金貨が10万円
 銀貨が1000円
 銅貨が100円だ。
 白金貨は分からないけど、多分1000万円だろう。
 ってことは、フィリップからのお礼って500万円ってことだな。
 妥当なのかな? 貴族ならもっとくれてもいいんじゃないかと一瞬思ってしまった私は卑しい人間です。

 街を探索しながら食材を仕入れていると、もう日が暮れてきた。そろそろ宿に帰って休もうかな。

 帰路についていると、どうも私の後をつけている奴らがいる。
 気配察知スキルでお見通しだ。なんだろう、オヤジ狩りとかじゃないよね。って私は女か。
 目的が分からないけど交戦的なら容赦しなくてもいいよね。
 私は路地裏に入り、敵を誘い込んだ。するとフードを被った男達3人が私の前に現れ、後方にも同様に3人いる。
 気配察知スキルで伏兵がいないか確認してもいない。敵は6人。

「おい、この女で間違いねぇか」
「間違いねぇ。不正までして俺に恥かかせやがったクソ女だ」
「たっぷり楽しんだ後、奴隷として売り飛ばしてやる」

 恥をかかせた? 誰だこのおっさん……。
 まぁいいか。聞く限り悪党で間違いない。弁解の余地なしだ!

「この女は魔法を使いやがる、全員で一斉にかかれ!」

 男の1人がそう言うと前後から剣を抜いた男達が私に向かってきた。
 私はすぐに両手を広げて、前後の男達に手を向けて岩石弾ロックショットを放った。

 頭は狙わなかったけど、いつもより魔力を込めたから当たりどころが悪かった3人は死んだみたいだ。
 残り3人はうずくまっている。
 私のことを知っていたおっさんのフードを取ると、冒険者ギルドで私が空気弾エアショットで気絶させたおっさんだった。数で攻めれば、私を倒せると思ったのかな。

 私はその後、衛兵を呼んで、襲われて強姦されそうになったから反撃しました。正当防衛です。と主張したが詰所に呼ばれて、事情聴取を受けて、夜遅くに宿に帰ってきた。

 なんか精神的に疲れる1日だったな。私は夕食も食べずにそのまま眠りについた。
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