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第1章
第1話 夢と現実
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幸せな夢を見た。
目が覚めると暫く余韻に浸り、夢である事に落胆する。
怖い夢を見た。
目が覚めると慌てて頭の中を整理し、夢である事に安堵する。
---とても長い時間が経った気がする。
ここがどこなのか分からないまま、彼女は知らない男の子の後ろを歩き続けている。
事故を起こした直後の彼女は、自身が命を落としたのか、それとも夢の中にいるのか全く分からない状態だった。
山道を進み続けていると突然背後から呼び止める女性の声。
「行ったらダメ!」
振り向いたその瞬間、彼女は確かに見たのだ。
声の主の女性を---。
***
カレンダーを見ながら、土田菜都(ツチダ ナツ)はため息をついた。
「ギブスが取れるまで後3日もある。」
菜都の様子を見て家族みんなが呆れた顔をした。
この日は珍しく、父と母・兄の一翔(カズト)と弟の大翔(ヒロト)がリビングに揃っていた。
「菜都は小さい頃から怪我が多すぎるのよ。今年は受験生なんだから遊びまわらずに大人しく勉強してなさい。」
「睡眠なら何時間でも眠れるけど、それ以外に家でじっとしてるなんて無理だよぉー。」
「じっとしてなさいとは言っていないわ。勉強しなさいって言ってるの。」
母の小言に耳が痛くなってきた菜都は、急いで出かける準備をし始めた。
リビングにあったお菓子をカバンに詰め込み、自転車の鍵を持って玄関に向かった。
菜都が外へ出ようとすると、母が心配そうな顔をしながらやって来る。
「言ってるそばから遊びに行くのね。菜都、何度も言うけどもう・・・」
菜都は、母の言葉を遮った。
「分かってる、あの公園には行かないから。それじゃあ行ってきまーす!」
母はしばらくの間、菜都が出て行った玄関を見ていた。
(お母さんの気もしらないで・・・。一翔や大翔より男っぽい性格ね・・・。)
一方の菜都は、通っている中学校に向かった。
部活動に入っているわけではないが、駐輪場が仲の良い友達とのたまり場のようになっていたからだ。
駐輪場に着くと、香織(カオリ)が近付いてきた。
「やっほー!相変わらずの片手運転、大丈夫なの?」
「だーいじょうぶだよ。両手離してても運転できるもん。」
「近いんだから、歩いて来たら良いのに。」
「カバンが重くってさ。お菓子もいっぱい持ってきたよ!食べよう!」
「私はいいわ。さっき駄菓子屋でアイス買って食べたところなの~。」
そう?と言いながら、菜都はクッキーを頬張った。
吹奏楽部の音、運動部の声、さまざまな音が混ざり菜都は居心地が良かった。
お腹がいっぱいになって眠くなりだした時、少し離れた所にいた琉偉(ルイ)と陽太(ヨウタ)が近付いてきた。
琉偉は、菜都の彼氏だ。
「俺等、サッカー部に混ざってくるけど一緒に行く?」
「お!!行く行く!ちょうど眠くなってきてたんだよ~。食後の運動っと!」
菜都は張り切って身体を伸ばしながら答えた。
「ちょっと待って菜都!見学にしときなよ。」
左腕を心配した香織が、菜都を止める。
「なんでー?サッカーは足を使うんだから大丈夫だよ!行こう香織!!」
「・・・もう~。」
他にも駐輪場にいた数人と一緒に、サッカー部のいるグラウンドへ向かった。
菜都は運動がすごく大好きで、中学生になったばかりの頃はさまざまな運動部の顧問から勧誘されていた。
しかし、一つのスポーツに絞ることが出来なかった菜都は帰宅部となり、たまに運動部に混ぜてもらっていた。
グラウンドにつくと、サッカー部の顧問はいつも通り快く皆を迎えてくれたが、菜都がサッカーをすることは止められてしまい、見学する事になった。
しぶしぶとベンチに座ると、サッカー部で2年生の近藤君が近付いてきた。
「土田先輩、どんまいっす。」
近藤君は菜都に懐いていて弟のような存在であり、困ってる時にも助けてくれる逞しい後輩だ。
「悔しいよー。でも後3日でギブスも取れるから!あの時は本当にありがとうね!!」
話している最中に、琉偉もやって来た。
「俺が誘ったのにごめんね。」
「じゃあ琉偉も一緒に見学しよーよ。」
「・・・よしっ!近藤行くぞ!」
「ふふっ。頑張れー。」
楽しそうにサッカーをする皆を見て少し寂しく感じながらも、微笑ましい風景に菜都も笑顔になった。
だが、満腹感により眠気が抑えられず、いつの間にか日陰のベンチで眠ってしまっていた。
周りが騒がしいにもかかわらず深い眠りにつき、夢を見ていた。
頻繁に見る夢の内容で、初めて見たのは4歳の頃、祖母の家に泊まった時だった。
屋外で2人の男が、菜都を取り合っている夢。
姿は人間だが、高い上空を浮かびながら魔法のような不思議な術を使い、人差し指をクルクル回すと見えない紐があるかのように菜都を引き寄せる。
菜都にとって自分を取り合う夢は、別に悪い気はしなかったが、あっちこっちと引き寄せられ意味が分からない状況だった。
そして夢から目覚める。
(最近は見てなかったのに、またこの夢か。相変わらず男の人達の顔がぼやけて思い出せない・・・。)
暫く横になったまま呆けていると、サッカーボールがベンチに向かって転がってきた。
同時に近付いて来る足音は陽太のものだった。
「あ、おはよ。琉偉がゴール入れたの見てなかったっしょ?」
「・・・あー、うん。サッカー部相手にすごいじゃん。」
陽太がボールとともに去って行くと、菜都は夢について考えるのをやめて起き上がった。
目が覚めると暫く余韻に浸り、夢である事に落胆する。
怖い夢を見た。
目が覚めると慌てて頭の中を整理し、夢である事に安堵する。
---とても長い時間が経った気がする。
ここがどこなのか分からないまま、彼女は知らない男の子の後ろを歩き続けている。
事故を起こした直後の彼女は、自身が命を落としたのか、それとも夢の中にいるのか全く分からない状態だった。
山道を進み続けていると突然背後から呼び止める女性の声。
「行ったらダメ!」
振り向いたその瞬間、彼女は確かに見たのだ。
声の主の女性を---。
***
カレンダーを見ながら、土田菜都(ツチダ ナツ)はため息をついた。
「ギブスが取れるまで後3日もある。」
菜都の様子を見て家族みんなが呆れた顔をした。
この日は珍しく、父と母・兄の一翔(カズト)と弟の大翔(ヒロト)がリビングに揃っていた。
「菜都は小さい頃から怪我が多すぎるのよ。今年は受験生なんだから遊びまわらずに大人しく勉強してなさい。」
「睡眠なら何時間でも眠れるけど、それ以外に家でじっとしてるなんて無理だよぉー。」
「じっとしてなさいとは言っていないわ。勉強しなさいって言ってるの。」
母の小言に耳が痛くなってきた菜都は、急いで出かける準備をし始めた。
リビングにあったお菓子をカバンに詰め込み、自転車の鍵を持って玄関に向かった。
菜都が外へ出ようとすると、母が心配そうな顔をしながらやって来る。
「言ってるそばから遊びに行くのね。菜都、何度も言うけどもう・・・」
菜都は、母の言葉を遮った。
「分かってる、あの公園には行かないから。それじゃあ行ってきまーす!」
母はしばらくの間、菜都が出て行った玄関を見ていた。
(お母さんの気もしらないで・・・。一翔や大翔より男っぽい性格ね・・・。)
一方の菜都は、通っている中学校に向かった。
部活動に入っているわけではないが、駐輪場が仲の良い友達とのたまり場のようになっていたからだ。
駐輪場に着くと、香織(カオリ)が近付いてきた。
「やっほー!相変わらずの片手運転、大丈夫なの?」
「だーいじょうぶだよ。両手離してても運転できるもん。」
「近いんだから、歩いて来たら良いのに。」
「カバンが重くってさ。お菓子もいっぱい持ってきたよ!食べよう!」
「私はいいわ。さっき駄菓子屋でアイス買って食べたところなの~。」
そう?と言いながら、菜都はクッキーを頬張った。
吹奏楽部の音、運動部の声、さまざまな音が混ざり菜都は居心地が良かった。
お腹がいっぱいになって眠くなりだした時、少し離れた所にいた琉偉(ルイ)と陽太(ヨウタ)が近付いてきた。
琉偉は、菜都の彼氏だ。
「俺等、サッカー部に混ざってくるけど一緒に行く?」
「お!!行く行く!ちょうど眠くなってきてたんだよ~。食後の運動っと!」
菜都は張り切って身体を伸ばしながら答えた。
「ちょっと待って菜都!見学にしときなよ。」
左腕を心配した香織が、菜都を止める。
「なんでー?サッカーは足を使うんだから大丈夫だよ!行こう香織!!」
「・・・もう~。」
他にも駐輪場にいた数人と一緒に、サッカー部のいるグラウンドへ向かった。
菜都は運動がすごく大好きで、中学生になったばかりの頃はさまざまな運動部の顧問から勧誘されていた。
しかし、一つのスポーツに絞ることが出来なかった菜都は帰宅部となり、たまに運動部に混ぜてもらっていた。
グラウンドにつくと、サッカー部の顧問はいつも通り快く皆を迎えてくれたが、菜都がサッカーをすることは止められてしまい、見学する事になった。
しぶしぶとベンチに座ると、サッカー部で2年生の近藤君が近付いてきた。
「土田先輩、どんまいっす。」
近藤君は菜都に懐いていて弟のような存在であり、困ってる時にも助けてくれる逞しい後輩だ。
「悔しいよー。でも後3日でギブスも取れるから!あの時は本当にありがとうね!!」
話している最中に、琉偉もやって来た。
「俺が誘ったのにごめんね。」
「じゃあ琉偉も一緒に見学しよーよ。」
「・・・よしっ!近藤行くぞ!」
「ふふっ。頑張れー。」
楽しそうにサッカーをする皆を見て少し寂しく感じながらも、微笑ましい風景に菜都も笑顔になった。
だが、満腹感により眠気が抑えられず、いつの間にか日陰のベンチで眠ってしまっていた。
周りが騒がしいにもかかわらず深い眠りにつき、夢を見ていた。
頻繁に見る夢の内容で、初めて見たのは4歳の頃、祖母の家に泊まった時だった。
屋外で2人の男が、菜都を取り合っている夢。
姿は人間だが、高い上空を浮かびながら魔法のような不思議な術を使い、人差し指をクルクル回すと見えない紐があるかのように菜都を引き寄せる。
菜都にとって自分を取り合う夢は、別に悪い気はしなかったが、あっちこっちと引き寄せられ意味が分からない状況だった。
そして夢から目覚める。
(最近は見てなかったのに、またこの夢か。相変わらず男の人達の顔がぼやけて思い出せない・・・。)
暫く横になったまま呆けていると、サッカーボールがベンチに向かって転がってきた。
同時に近付いて来る足音は陽太のものだった。
「あ、おはよ。琉偉がゴール入れたの見てなかったっしょ?」
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