夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
6 / 121
第1章

第6話 紫苑

しおりを挟む

記憶は無かったが、少しでも何かを思い出さないといけない。

美癒はそう思い、昨日の出来事を一生懸命思い出そうとする。

「えぇっと、昨日は学校に来てから・・・自分の担当:土田菜都の看視実習
を進めていました。それで……えっと……うーんっと……。」

その後の出来事を思い出そうとした途端、やはり全く思い出せないことに焦りだす。

”看視実習”とは【この世】の人物の看視・報告の任務実習で、学生のうちは担当1人を決められて卒業までの3年間を担当する。

美癒のように姉妹がいる場合は、身内が担当に選ばれるケースが多い。

(何があったっけ?いつも通りだったはずなんだけど、気がついたら自分の部屋で寝てたんだよね・・・。)

美癒の表情が曇ったままであることに焦ったのは慎先生も同じだった。

慎先生の手は微かに美癒の肩を揺さぶった。

しかしそれは何の解決にもならない。

「すいません、本当に思い出せません・・・嘘ではないです。でも慎先生は私が看視実習を始めた時、教室にいましたよね?」

「もちろん。美癒さんがモニターを見ながら報告書をきちんと書いていたことは知ってるが・・・途中で出て行っただろう?」

美癒は驚いて、俯いていた顔を上げる。

(報告書を書いてる最中に出て行った?私が?)

周囲がざわつき始めたが、美癒の耳にはただの雑音にしか感じなかった。

「い…いえ。覚えてないです。」

周囲からしていみると忘れている方が不自然である。
ーーーが、美癒の態度を見ると慎先生はこれ以上何も言えなくなった。

「美癒さんが嘘をついているようにも見えくなってきた・・・。仕方ない、暫くしたらジン様も来られる予定だ。それまでは取り敢えず教室で待つように。」

「は・・・はあ。失礼しました。」

返事の”はい”と返事をしたかったが、ため息の”はあ”が混ざった曖昧な返事。

当然、身に覚えのないことで先生たちから罵声を浴びせられ、納得はいかなかったが一先ず一礼して職員室を出る。

すると廊下には、壁にもたれかかった琉緒がいた。

(あ。朝部屋を出た時と同じ光景だ。)

琉緒を見ると、美癒はこの上ないくらい安心した。

「琉緒、やっぱり私を心配してくれてる?」

「違うって言ってんだろ。先生に用事あったけど、そんな空気じゃなさそうだから教室戻るわ。ほら、行くぞ。」

そう言って魔法を使い、美癒の鞄をヒョイっと持ってくれた。

「…私の鞄を盗む気?」

「あほ。持ち主の脳みそと比例した空っぽの鞄を盗む奴なんかいねーよ。」

「ありがと。」

「は?からかって感謝されるなら何回でも言うぜ?」

「ムッカー。鞄持ってくれてありがとうって言ってんの!」

「べつにー。」

あまり笑う気分ではなかったが、琉緒が励まそうと側にいてくれることには心から感謝していた。

そして琉緒なら何か知っているかもしれない、と考えた。

美癒は指をもじもじさせながら、琉緒に訊ねる。

「ねぇ、私昨日の事あまり覚えてないんだ。何があったか知ってる?」

「あー…看視実習の時間、美癒が急に『飛ばして欲しい』って言ってきたから、飛ばしたけど。異界の山まで。」

(本当だ・・・先生の言った通り私は異界の山に向かって行ってたんだ。)

「な・・・何で私は異界の山に行きたがってたの?」

「え?知らねえ・・・報告書見てみたら?」

(そっか、報告書。何か書いてるといいけど。)

「ごめん急いでるからちょっと先に戻るね!」

美癒は報告書を見るために走って教室へ向かった。

琉緒は足を止めて、美癒の走り去った方向を見続けた。

「美癒の奴、今日はらしくねーな。昨日は最後に”姉妹”で会いたかったんじゃねーのかよ。俺がわざわざ結界解いてやったのに何してたんだ?」                         

その場に立ち尽くしてボソッと呟いた。


そして美癒は急いで教室に入り込んでいた。

「みーゆ、おはよーん。昨日のこと噂になってるよー。」

「みんなおはよ!」

教室が騒がしいのはいつものことだ。

美癒は大きな声でまとめてみんなに挨拶をすると自分の机に直行し、引き出しを探りはじめる。

(報告書どこにしまったっけ?無い・・・見当たらないよ。)

後から歩いてやってきた琉緒が呆れながら美癒の机の中に手を突っ込み、ファイルを手に取る。

「先に教室来たくせに何やってんだ?落ち着けよ。ここ、挟んでるじゃねーか。」

「あ、琉緒!ありがと!」

「・・・ほんとに・・・今日はどうしたんだ?」

「シッ!ちょっと!報告書見てるから静かにして。」

「・・・」

琉緒は口を尖らせながら細目で美癒を睨んだ。

(菜都が水上バイクに乗った所まで書いてあるけど、これだけじゃよく分からない!)

「ねえ琉緒、報告書見てもよく分かんない。菜都に何があったんだろう。琉緒が担当してる弟クン、昨日の様子はどうだった?菜都の事、何か知らない?」

琉緒の看視実習の担当は、弟である琉偉だった。

菜都の彼氏だ。

「菜都が事故で溺れたって聞いてたみたいだけど。そこまでしか分からない。」

「溺れた?・・・そっか!私が異界の山に向かったって事は、きっと菜都の生命が切れて異界の山に来てたんだろうね……。私、菜都の最後に会えたのかな?結界が張ってあるはずなのに私なんかが入れてたみたいで…全然覚えてないんだけど。」

「へー。まあ今日の看視学習の時間になったら分かるだろ。」

「それが、あと少ししたらジン様が来るらしいの。どれだけ時間がかかるのか分からない。」

琉緒が両手で机をバーンと叩く。

「は!?ジンが?」

「ちょっと!呼び捨てしてるところ聞かれたらマズイでしょ。何なの?知り合い?」

美癒は慌てて琉緒の口を両手で塞ぐ。

「苦しいから話せっ、あいつとは昔から縁があるんだよ。」

「え、初めて聞いたよ!?」

「好きじゃないからな。話題にも出したくねぇ。」

「イケメンだもんね、男の敵?ははっ。」

「そういう意味じゃねーって。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...