夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
85 / 121
第4章

第85話 アイリス

しおりを挟む

***


ーーー【この世】で、ゼロと対峙した晩。

辺りは静まり返っていた。

真っ暗闇の中、琉緒は公会堂のスロープの上で目覚めた。

状況が理解でないまま、身体をゆっくりと起こす。

(はあ?何でこんな所で寝てたんだ?酔っ払いじゃあるまいし。)

目が暗闇に慣れてくるとゆっくり辺りを見渡す。

「菜都!?・・・それに、琉偉か!?」

仰向けになっている菜都と、うつ伏せになっている弟が視界に入った。

(ん?俺は何でいま菜都を呼び捨てにしたんだ・・・?でも”ちゃん”付けの方が違和感あるし・・・まあいいだろ。)

「おーい、こんな所で寝てたら風邪ひくぞー。」

2人を起こそうと思って立ち上がると、身体に痛みを感じた。

「イテテテ・・・、なんだこれ?俺の身体擦り傷まみれじゃねーか!」

自身の傷を目のあたりにすると、痛みが倍増した。

身体を動かすと余計に激痛が走るため、琉緒は3秒ほど止まって考えた。

・・・考えた結果、ゆっくり動いて長く弱い痛みを感じるより、早く動いて短く強い痛みを感じる方を選んだ。

(今日は風呂に入ったら沁みるだろうな。)

そんなことを思いながら、まずは手前にいる菜都の元へ走っていく。

「菜都!起きろ!!」

「・・・ん・・・。」

揺さぶって声をかける。

菜都が目を覚ましそうな様子を確認して、次は弟の元へ駆け寄る。

「くっそ、痛てぇな・・・おい琉偉も起きろ!!」

弟のことは揺さぶらずに、立ったまま足蹴にした。

「・・・いや、何でお前らも傷まみれなんだ?」

不思議に思いつい口からこぼれた。

弟が目を開いて瞬きを繰り返していることを確認すると安心してその場に座り込んだ。

すると菜都が立ち上がって、琉緒と琉偉の元へおそるおそる近付いてきた。

「ジン様・・・。」

(ジンサマ?誰のことだ?・・・なんか耳にするだけで腹が立ってくる名前だな。)

顔をしかめる琉緒を見て、菜都はハッとした表情をした。

弟の琉偉がいるのに”ジン様”と呼んでしまったため琉緒が怒っていると思ったのだ。

「す、すみません、お兄さん!・・・あの男の人はどこに・・・?一体どうなったんですか?」

「え?男の人?」

琉緒にとっては美癒の言う全てが何のことだか意味不明だった。

そこで弟がゆっくりと起き上がる。

「兄貴・・・刺された所はなんともないのか?」

「・・・は?刺された?誰が?・・・俺か?」

弟の言葉も、何のことだか意味不明だった。

琉緒はゼロと対峙したときの記憶が残っていなかったのだ。

「”俺”・・・?」

いつも自分のことを”僕”と言っていた琉緒が”俺”と言ったことに、弟は違和感を感じた。

「菜都も琉偉も・・・何の話をしてるんだ?そもそも何で俺たちはここで寝てたのか・・・傷まみれなのか、よく分からねぇんだけど?あ、ホラ。俺も傷まみれだけど刺されてなんかないぜ?」

琉緒は擦り傷の痛みを堪えながら、身体を大の字にして見せつける。

菜都は見覚えのある琉緒の仕草や口調に、何かを感じ取って口を紡いだ。

弟は、いつもと違う兄を見て、頭を打っておかしくなったのかと本気で思った。

そして兄については一先ず置いといて、立ち上がって辺りの様子の確認を始める。

「ゼロは・・・いないのか?」

異界の山での記憶がある琉偉は、兄に訊ねた。

「ゼロ?」

琉緒にとっては初めて聞く名だ。

首を傾げながら視線を菜都に移す。

菜都は琉偉に聞こえないように、琉緒にコソッと耳打ちした。

「ゼロって、この前説明してくれてた行方知らずの人のことですよね。」

(菜都は・・・何を言ってるんだ?)

琉緒は何も返事をしなかった・・・いや、できなかった。

「菜都をストーカーしてた人・・・いや、さっき菜都を襲った人がゼロっていうんだよ。」

「えぇ!?私のストーカーってゼロのことだったの!?」

「菜都・・・?ゼロのことを知ってるのか?知り合いだったの・・・か?」

「あ・・・いや、し・・・しらないけどさ。」

慌てて否定をしながら、菜都はジンとの会話を思い出した。

ゼロの居場所に”心当たりがある”と言っていたのは、菜都のストーカーがゼロだと気付いていたからだったのか、と納得した。

そして菜都もゼロがいないか辺りを探してみる。

「そのゼロって人・・・見当たらないね・・・?」

それもそのはず、ゼロの身体は【この世】から消えたからだ。

琉緒の刺し傷が消えているのも、ゼロの身体が消滅しているのも、神様が力を使ってくれていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...