夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

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第4章

第97話 月明り

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この時、琉緒はまだ現実に戻れないでいた。

自分の望む世界・・・美癒が”菜都”として側にいる日常を夢見ている。


ーーーー真夜中に家を抜け出して菜都と会った。

最近は冷えてきたけど丁度いい気温だ。

今日は菜都の家の近くにある公園へ。

隣にはテニスコートがあり、いくつかボールが転がったままになっている。

2人きりで沢山話した。

どんなにくだらないことでも、お互い話を聞き合った。

時折お互い無言になるが、それも嫌いじゃない。

穏やかな気分でいられる、居心地の良い沈黙だ。


「寒くない?」

「俺は寒くないけど・・・寒いのか?」

「あ、いや・・・。」

手を握ってみると菜都の手はすごく冷たかった。

なんだ、我慢してたのか?

しおらしい姿が新鮮で笑みがこぼれる。

そして、自分の上着を脱いで菜都の肩にかけた。

「薄い上着だけど。」

「あ、ありがと!」

「俺ん家に来るか?」

「ううん、こんな真夜中に行けないよ。」

「真夜中っつっても・・・もうすぐ朝が来るな。」

「そうだね。」

まだ薄暗いが、通勤を始める人たちの姿が次第に増えてきた。

「そろそろ家まで送る。」

そう言って、琉緒は隣に座っていた菜都の首に片腕を回して顔を近付けた。

「ちょ、駄目だよ!人が通ってるじゃん!!」

あと少しの距離というところで、菜都は両手で琉緒の顔を押し返す。

「ちぇっ。」

最近は、おあずけばかり食らっている気がする。

琉緒は自転車に乗って、後ろの荷台をトントンと手で叩く。

「ほら、乗れよ。」

イジけたとき特有の口調で菜都を呼ぶ。

菜都は公園に来た時と同様に、琉緒の後ろに座った。

そして琉緒のお腹に手を回して、背中にくっついた。

「琉緒~、拗ねないのー。」

菜都はまるで子供をあやしているようだ。

2人乗りが苦手な菜都のために、自転車はゆっくりと進んでいく。

「あ、いま小野君に抜かされたね。」

抜かされる直前に菜都と小野君の目が合っていた。

「おの?誰だそれ。」

「私と同じクラス。朝練かな?」

「知らねぇや。」

「ふふっ、だろうね。私も他のクラスの人とか未だに知らない人ばっかり。」

「菜都ー、結婚しよ。」

「は?急になに。」

菜都はクスクスと笑う。

「この先もお前しか考えられねぇからさ。」

「この先って、私達まだ高校生だよ。」

「菜都も同じ気持ちじゃねーの?」

菜都は黙り込む。

ただ、しがみつく両手にギュッと力を入れていた。

琉緒は菜都の言葉を待っていた。


だが、そこで遠くから誰かの声が聞こえはじめた。


『ーーーーー』

『ーーーーーーー』


最初は何を言ってるのか聞き取れなかった。

後ろにいる菜都の声ではない。

だが、聞ききなれた声・・・
声の主を知っている気がする。

『この前、本物の土田先輩に会いましたよ。』



ーーーーーハッと目が覚めた。

心臓の音がうるさい。

「俺・・・いつの間に帰ってきたんだ?ちゃんと菜都を家まで送り届けれたのか?」

琉緒はブツブツと一人で呟いていた。

夢から醒めても、現実には戻っていない。


コンコン・・・
「寝てるんスかー?」

琉緒は返事をしなかった。

(琉偉じゃない・・・?誰だよ、今は一人でいたい。)

しかしノックは続く。

コンコン・・・
「この前、本物の土田先輩に会いましたよ。」

(本物の菜都?コイツは一体 何を言ってるんだ?)


そこで扉の向こうから弟の声も聞こえた。

「美癒に会ったのか!?いつ!?」

「え?”美癒”・・・って言うんスか?俺が琉緒先輩を家に運ぶ前かな。」

「なッッッんでそれを早く言わないんだよ!!」

(み・・・ゆ?)

琉緒は”美癒”の名前に反応を示した。

(俺は菜都が好きで・・・美癒が好きで・・・あれ?)

ここにきてやっと、何かがおかしいと違和感を覚えた。

琉緒は少しずつ現実へと近づいている。

「だーかーら、土田先輩は俺に気付いてなかったけど隠れて琉緒先輩と琉偉先輩を見てたんだって。でもすぐに消えたんスよ。」

「兄貴の言う通りだったんだ・・・美癒は本当に俺たちの近くにいたんだ。」


琉緒はいつの間にか布団から飛び出して、部屋の扉を開いていた。

廊下の明かりが、真っ暗な部屋に入って来る。

明るさに目が慣れるまで数秒かかった。

廊下には、驚いた顔した琉偉と美癒と近藤君が立っていた。


「あ、兄貴・・・遅せぇよ・・・。」

「琉緒先輩、お久しぶりッす。」



「・・・今の話、どういうことだ?」


琉緒が、長かった夢から目覚めた。

ようやく現実へと帰ってきた。
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