夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
106 / 121
第5章

第106話 彩る

しおりを挟む
菜都はため息を吐いて再び声をかけた。

「どうすのが正しいか、分かった?」

美癒にとって”正しい”のかどうかは分からないままだった。

ただ、自分の思いは・・・。

「そんな・・・それじゃああなたは?」

「私は元の美癒に戻るだけよ。何も心配されることは無いわ。」


ーーー本当に?

本当に”菜都”を望んで良いの?

美癒は葛藤しつつも、早まる鼓動に嘘はつけなかった。

「あ、りがとう・・・。」

深々と頭を下げる。

震える声で言葉に詰まりながら御礼を言った。

「良かった、”ごめん”とか言われたら私の頭から湯気が出てたわ。」

安心したように笑う彼女は、ここに来て初めての笑顔だった。

美癒は菜都の笑顔に釘付けになる。

「ねえ、もっと笑った顔見せて!
やっと会話ができてるのにずっと怒ってるなんて嫌だよ。」

やっといつもの美癒に戻った。

「ちょっと、辞めてよ恥ずかしいから。それにこれはあなたの顔でしょ!」

「私って・・・可愛いのね。」

「ふふふ、久しぶりにイラッと来たわ。それより私達、何度も夢の中で話しはしてるでしょ?」

「えええー?そ、そうなの!?」

「気付いてなかったの?信じられない・・・。」

「ただの夢だと思うもん、普通気付けないって。ねえ・・・また夢で会える?」

菜都は少し寂しそうに笑うだけで返事をしなかった。

「さぁ、もう時間がないから早く戻って。」

もう一度”本当にいいの?”と聞きたかったが、グッと堪えた。

ここで”やっぱり辞めた”なんて言う子じゃないから。

本当は分かっていた。

確かに予定通り入れ替わらずに生まれていたら、菜都はとっくに命を落としていた。

でも・・・

菜都も水上バイクの事故で一度命を落としている。

そのとき美癒が異界の山に会いに来てくれなかったら・・・

美癒と菜都が入れ替わらなかったら・・・

菜都の人生は終わっていた。

これは避けては通れない道だったのかもしれない。

やはり2人の入れ替わりはあのとき必要で、なにもかも助けられていたのだ。



「菜都・・・じゃないね、美癒。本当にありがとう。」

「何度も言わなくていいから早く早く!」

「う、うん。」

差し出された手を取り、視線が合った2人はお互いに笑いあった。

そこへ輝く光が美癒と菜都を覆う。

その光は今まで見たことのない虹色でとてもきれいな色だった。

「死と隣り合わせなのはみんな同じだから。だから・・・菜都として精一杯生きて。」

「だ、大好きだよお姉ちゃん!!ずっと姉妹でいようね!!!」

「・・・必ず、必ずまた会いましょう!」


もっと話したかった。

別れるのが名残惜しかった。

本来であれば触れ合えるはずのない2人。

入れ替わりにより、今まではお互いの記憶が共有されていた。

でも、これからは・・・

これからはお互いの道を進んで行く。

それぞれの記憶を、人生を作っていくーーー・・・。




***


気が付くと、菜都は川の側で倒れていた。

身体中がずぶ濡れだ。

意識はあるのに目が開かない、声が出ない、重くて身体も動かない。

近くで苦しそうに息切れしながら咳き込んでる誰かがいる。

一体何をしていたのだろうか?

菜都はそのまま、その”誰か”に抱きかかえられて自宅へと連れて帰られた。

遠くで母の驚く声が聞こえてくる。

救急車を呼ぼうとしているようだ。

救急車なんて呼ばないで欲しい。

身体中にタオルが巻かれて暖かさを感じながら漸く目を開けた。

「だ・・・大丈夫だから。シャワー浴びてくる・・・。」



ーーー次の日

目を覚ますとひどい頭痛に襲われた。

「お母さーん、38度超えてる。今日休む~。」

「え!?」

驚く母に返事をせず、2階へ上がり再び布団に入った。

あとを追ってきた母が体温計を持って部屋へとやって来る。

「大雨の中、川遊びしてただなんて信じられないわ!風邪引くに決まってるじゃないの!大人しく寝ていなさい!!」

母が鬼のように怒っている。

言い返す気力もなく、目を瞑っていた。

母はアクエリアスと熱さまシートも持って上がってくれていたようだ。

「全く・・・今日はあなたのためにオムライスを作ろうと思ったけどナシね。お粥だからね。」

(オムライス・・・私のために?なんでだっけ?お願いしたっけ?)

思い出そうとすると、昨日溺れたときの苦しみを思い出させた。

(く・・・苦しいよ・・・。)

そのまま眠りにつき、川に溺れる夢を見ていた。

さっき昨日のことを思い出したせいかもしれない。

かなり時間は経ったが、自分の唸り声で長い眠りから解放された。

怖い夢を見たせいか、身体中が汗びっしょりだ。

汗のおかげで熱も引いているようだ。

身体も軽い。

時計を見ると16時を過ぎていた。

菜都は空腹で気持ち悪くなり、シャワーを浴びてからお粥を食べた。

母は1日で元気になった菜都を見て関心していた。

「あまり風邪ひいたことがないから、たまに風邪ひくと逆に怖いのよね~。長引かなくて良かったわ。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...