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少女期

幹太、私募する。

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カチャリ。
 
三ツ星レストランのVIPルームのドアが開く。
「お久しぶりですわ」
輝くような笑みを称え、可愛らしく佇む彼女を見つめる。
「久しぶりだね!はるちゃん」
駆け寄ってギュッと抱きしめる。
「なんなんですの!!いきなり」 
ぷくっと頬を膨らませ抗議する姿も可愛い。
「待ってたよ」
 
ずっとね。
 
「幹太、従兄弟と言えど、いきなり抱きつくなんて失礼よ」
後ろから凛子お姉ちゃんが嗜める。
「はぁい」
ゴメンねと謝り、はるちゃんの手をひいて隣に座らせる。
彫りの深い美形が多い龍巻家の中で いくぶん薄い顔の遥ちゃん。
でもそれが すごく可愛い。
 
初めて会った時から僕は ずっと ずぅぅぅと大好きなんだ。
 
「おっきくなったな、遥」
「環さまも大人っぽくなられましたね。見違えましたわ」
「五年ぶりか。あのお転婆が随分 大人しくなったもんだな」
皮肉げに笑う。
僕は、ちょっとムッとしたけど、はるちゃんは綺麗に流して微笑んだ。
そして、
「……忍さま、凛子さまも お元気そうですね」
寄り添うように並んで座る二人に顔を向ける。
「……ああ」
言葉少なに頷く忍君。
「遥ちゃんも元気そうで なによりだわ。飛行機に疲れなかった?」
そんな忍君の横で凛子お姉ちゃんが会話を拾う。
「大丈夫ですわ」
はたから見たら親族の子供たちが集まっての会食。
 
はたから見たら、ね。
 
きっと はるちゃんは忍君が好きだ。
そして、忍君は凛子お姉ちゃんが好き。
《闇夜の神子と龍の受け皿》なのにね。
 
でもいいんだ。
だって僕の はるちゃんだからね。
 
「そう言えば、俺たちが こっちに来てから あの試練は やらなくなったらしいな」
環お兄ちゃんが はるちゃんに聞く。
あの日、はるちゃんが誘拐された年から子供たちの試練がなくなった。
「環さまは、すぐ留学されたから ご存知なかったのですね。きっと子供たちだけでは危ないと大人たちが話し合った結果だと思いますわ」
 
絶対ありえないね。
 
僕は前菜を口に運びながら突っ込む。
はるちゃんの前にも一度誰かが誘拐されてる。
その後どうなったかまでは小さすぎて覚えてないけど、それでも継続されていたんだ。
僕は《闇夜の神子と龍の受け皿》が見つかったからだと思ってる。
 
なぜ あの方法なのか、なぜ僕らの親族から探そうとしてたのかは分からないけどね。
 
あの眩い光の柱を昨日の事のように思い出す。
あれを大人たちは歓喜していたが、僕は世界が大きく変わっていくような気がして恐怖した。
 
この、望めば なんでも手に入る、なんにでもなれる時代に時間を逆戻りさせるような古の教えは僕たちに何をさせたいんだろう……。
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