異世界に転生しました?

冷暖房完備

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本編

No.9 真紀子のターン

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「誰が……恵の顔に傷をつけて良いと言ったの?」
今まで黙って立っていた真紀子さんが歩き出す。
「恵の顔、アタシ大好きなのよね……」
そう言って恵くんの頬に手を添える。
流れた血をすくい取り、舐める。
「あなた、けっこうカッコいいから殺さないでいてあげようかなって思ってたけど無理ね」
心底ガッカリしたように真紀子さんが言った。
「は、はは。それはそれは申し訳ありませんでしたね」
それを少し小バカにしたように社長が笑う。
「あなた、綺麗な女が好きなようね」
「ええ。ですから君のような不細工には興味ないですよ」
社長の嘲りを気にする様子もなく、真紀子さんが小首を傾げる。
「このビルに入ってから色んなタイプの女がいたけど綺麗なら特に こだわりはない、で良かったかしら?」
「女は見た目だろ?」
皮肉げに真紀子さんを見る社長。
「では、そんな お綺麗な女たちに殺されるのも悪くないかもね」
「………は?」
社長から笑顔が消える。
それを楽しそうに真紀子さんが見る。
「ずいぶん余裕ぶってるけど、上には上がいることを思い知らせてあげるわ」
パチンと社長の真似をして指を鳴らす。
 
ガチャ
 
前触れもなくドアが開いた。
視界の端に色とりどりの服を着た綺麗な女の人が入ってきた。
受付嬢、エレベーターガール。
カフェ店員、OL、ブティック店員。
あれは清掃員さんかな?
どの女の人もビックリするくらい綺麗だ。
「あなたの力を少し拝借させてもらったの。伝染病みたいに触れたはしからモンスター化するなんて楽でイイわね。アタシも試しに一番最初に会った女に使ってみたんだけど、 ここまで伝染してるなんて威力は なかなかね」
楽しそうに秘書の頬を撫でる。
「……この女にも同じ傷をつけてやろうかしら」
「ははは。あんたも たいがい悪どいな」
さしてダメージもなさそうに社長が笑う。
「失礼ね。アタシは勇者なのよ?あなたと一緒にしないで」
「俺と同じじゃないんなら勇者さまは そいつらを使って何をするんだ?」
しょせん女子高生が できることなんて たかが知れてる、そんな考えが透けて見えた。
「そうねぇ……」
ちょっと考えるような素振りをして辺りを見渡す。
「あなたのモンスターは、あなたの言うとおりに動くのよね」
「ああ」
「で、そこのモンスターは人間を食べるためだけに作ったって言ってたわね」
「……ああ」
「命令と本能。どっちが勝つのかしら、ね?」
「………」
「人間てね、催眠術に かかっていても防衛本能というものは働くらしいのよ。現に人食いモンスターが現れた時点で他のモンスター逃げちゃったじゃない?あなたの命令でもないのに。だからアタシは戦えとか殺せなんて言わないわ」
「じゃあ、なんて言うんだ?」
「そうねぇ、ここにいる女たちは男から どんな風に見られてるか知ってる いわば女のプロ。そんな人たちが笑顔で自分に抱きついてきたらモンスターになったとしても 元は男、どうなるのかしらね?性欲と食欲が ごちゃ混ぜになって面白いことに なりそうじゃない?」
にっこりと笑うと真紀子さんは顎をクイッとした。
「抱きつきなさい」
するとニコニコと営業スマイルを張り付けた美女軍団が歩き出した。
「ま、待て」
先頭にいた秘書が両手を広げ、モンスターに抱きついた。
「ぴぎゃーーー!!」
瞬間、秘書の細いウエストはモンスターに噛みちぎられた。
「ひっ!!」
私が思わず悲鳴をあげて、座り込んだ。
「ユイ!!動くな!!」
元樹お兄ちゃんの言葉に固まる。
目の前では、性欲なのか食欲なのか分からない欲に溺れたモンスターが次々と美女たちを食い殺してゆく。
「おい!!こら!!やめろ!!」
必死の形相でモンスターたちに叫ぶが もちろん止まることはない。
「あ~あ、良かったわ。アタシが あなた好みの女じゃなくて」
楽しそうに笑う真紀子さんをモンスターが素通りしてゆく。
「あなたが男と女で使い分けてくれたおかげで存外 楽に終わりそうよ。ありがとね」
「……こんのアマーーーーー!!」
高価な装飾品のついた細身の剣を持って社長が襲いかかってきた。
が、
「お、そい」
恵くんに難なく手首から切り落とされる。
「いでででで!!」
のたうち回る社長の足を切り落とす。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
「モンスターを作る才能はあるみたいだけど、実践は てんでダメみたいね」
楽しげに笑う真紀子さん。
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