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僧侶 編
No.3 魔王 討伐隊
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世界中にモンスターが はびこり、魔王が君臨していること。
その魔王を倒すべく神から勇者として真紀子が送り込まれたこと。
真紀子の母親がモンスターだったこと。
それを真紀子の仲間である少年、恵くんが倒したこと。
そして僧侶として回復魔法を使い、おばさんを治した僕。
『だいたい こんな感じですが、元樹さま分からないところは ありませんか?』
真紀子の肩に乗っているフランス人形のような天使が聞く。
「あ、いや。頭がついてかなくて……」
理解できない。
「最初はそんなもんだよ。アタシもパニックだったもん」
ネイルを塗りながら真紀子が笑う。
「ぼ、くは、違う」
少年が無表情で呟く。
『恵さまは最初から使命に忠実でしたね……』
恵くんの背後で彼の影の薄そうな天使が遠い目をする。
「でも良かった。元樹に いつ話そうかって思ってたんだよ。覚醒前だったから下手に言えないし困ってたんだ」
屈託のない笑顔で話す真紀子に違和感を感じる。
「今ね、もう この辺もヤバいんだよ。人間のモンスター化が進んじゃって崩壊寸前だったんだぁ」
無表情で行き交う人たち、あれがモンスターなんだと教えてくれた。
「も、元には戻らないのか?」
「その元にってのが よく分かんないのよね。どこを見て元に戻ったと思うかだよね」
「……は?」
「だってね、お母さんはモンスターなんだけど別に前と変わんないのよ。特に身の危険も感じないし」
「でも、あいつ、真紀子、のこと、怒った」
「だ~か~ら~!!それはイイの!!」
舌っ足らずな話し方が恵くんの幼さを強調するが身に纏う ほの暗さに警戒心が解けない。
何人、殺してきたんだ?
人の命を なんとも思ってないような無関心さが恐ろしかった。
『これでやっと旅立てますね!!』
真紀子の天使が晴れやかに叫ぶ。
『やっと!やっとですね!!』
恵くんの天使も涙ぐむ。
「気が早いよ、あんた達。元樹はまだ戦闘に慣れてないんだからさぁ」
「こいつ、いらない。ぼくが、居れば、いい」
『基本、魔王は五人でしか倒せないって何度も言ってるじゃありませんか!!』
『恵さまは本当に真紀子さまのことを お好きですね』
「ちょっと!!元樹の前で変なこと言わないでよ!!」
「……好き」
楽しげに話す面々を見渡す。
どうして笑ってられるんだ?
生き返ったとはいえ、お前の母親が殺されかけたんだぞ?
どこか歯車の噛み合わない会話に違和感を通り越して寒気がしてくる。
でも、ここで何か言うことは得策ではないことだけは分かった。
「とりあえず、家に帰ってもいい、かな?少し一人で落ち着きたい……」
「あっ!いいよ、いいよぉ。色んなことあってパニックだよね!!元樹んちはモンスターいないから安心して ゆっくりしてていいよ」
真紀子が心配ないと励ますように笑った。
「うげぇぇぇ!!」
激しい吐き気と共に胃の中の物が逆流していく。
「大丈夫?元樹……」
心配して背中を擦る真紀子。
それを冷たい目で見る恵くん。
彼の周りには人だった者たちが転がってる。
いや、これは人ではなくモンスターだったなと頭の隅で冷静な自分が言う。
『何回 戦っても元樹さまは慣れてくれませんね~』
『回復魔法だけで特に戦闘に参加される必要は ないので、いっそ目をつむっていてもらいますか?』
「こいつ、いらない……」
返り血を浴びながら不機嫌に呟く。
「もう!!恵は黙ってて!!」
『元樹さまが慣れるのを待つ時間は ありません。そろそろ旅立たないと……』
「真紀子……僕を置いていってくれ」
人の死に慣れることなんて できない。
きっと足手まといになる。
「いや!!絶対いや!!」
真紀子が背中に抱きつく。
「元樹はアタシのそばで目をつむっててくれたらいい!!絶対 連れてくんだからね!!」
号泣する真紀子の説得で皆が旅立ちを決めたのは、それから一週間後のことであった。
その魔王を倒すべく神から勇者として真紀子が送り込まれたこと。
真紀子の母親がモンスターだったこと。
それを真紀子の仲間である少年、恵くんが倒したこと。
そして僧侶として回復魔法を使い、おばさんを治した僕。
『だいたい こんな感じですが、元樹さま分からないところは ありませんか?』
真紀子の肩に乗っているフランス人形のような天使が聞く。
「あ、いや。頭がついてかなくて……」
理解できない。
「最初はそんなもんだよ。アタシもパニックだったもん」
ネイルを塗りながら真紀子が笑う。
「ぼ、くは、違う」
少年が無表情で呟く。
『恵さまは最初から使命に忠実でしたね……』
恵くんの背後で彼の影の薄そうな天使が遠い目をする。
「でも良かった。元樹に いつ話そうかって思ってたんだよ。覚醒前だったから下手に言えないし困ってたんだ」
屈託のない笑顔で話す真紀子に違和感を感じる。
「今ね、もう この辺もヤバいんだよ。人間のモンスター化が進んじゃって崩壊寸前だったんだぁ」
無表情で行き交う人たち、あれがモンスターなんだと教えてくれた。
「も、元には戻らないのか?」
「その元にってのが よく分かんないのよね。どこを見て元に戻ったと思うかだよね」
「……は?」
「だってね、お母さんはモンスターなんだけど別に前と変わんないのよ。特に身の危険も感じないし」
「でも、あいつ、真紀子、のこと、怒った」
「だ~か~ら~!!それはイイの!!」
舌っ足らずな話し方が恵くんの幼さを強調するが身に纏う ほの暗さに警戒心が解けない。
何人、殺してきたんだ?
人の命を なんとも思ってないような無関心さが恐ろしかった。
『これでやっと旅立てますね!!』
真紀子の天使が晴れやかに叫ぶ。
『やっと!やっとですね!!』
恵くんの天使も涙ぐむ。
「気が早いよ、あんた達。元樹はまだ戦闘に慣れてないんだからさぁ」
「こいつ、いらない。ぼくが、居れば、いい」
『基本、魔王は五人でしか倒せないって何度も言ってるじゃありませんか!!』
『恵さまは本当に真紀子さまのことを お好きですね』
「ちょっと!!元樹の前で変なこと言わないでよ!!」
「……好き」
楽しげに話す面々を見渡す。
どうして笑ってられるんだ?
生き返ったとはいえ、お前の母親が殺されかけたんだぞ?
どこか歯車の噛み合わない会話に違和感を通り越して寒気がしてくる。
でも、ここで何か言うことは得策ではないことだけは分かった。
「とりあえず、家に帰ってもいい、かな?少し一人で落ち着きたい……」
「あっ!いいよ、いいよぉ。色んなことあってパニックだよね!!元樹んちはモンスターいないから安心して ゆっくりしてていいよ」
真紀子が心配ないと励ますように笑った。
「うげぇぇぇ!!」
激しい吐き気と共に胃の中の物が逆流していく。
「大丈夫?元樹……」
心配して背中を擦る真紀子。
それを冷たい目で見る恵くん。
彼の周りには人だった者たちが転がってる。
いや、これは人ではなくモンスターだったなと頭の隅で冷静な自分が言う。
『何回 戦っても元樹さまは慣れてくれませんね~』
『回復魔法だけで特に戦闘に参加される必要は ないので、いっそ目をつむっていてもらいますか?』
「こいつ、いらない……」
返り血を浴びながら不機嫌に呟く。
「もう!!恵は黙ってて!!」
『元樹さまが慣れるのを待つ時間は ありません。そろそろ旅立たないと……』
「真紀子……僕を置いていってくれ」
人の死に慣れることなんて できない。
きっと足手まといになる。
「いや!!絶対いや!!」
真紀子が背中に抱きつく。
「元樹はアタシのそばで目をつむっててくれたらいい!!絶対 連れてくんだからね!!」
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